『10years after』/『会長の切り札 軍師ゲームの裏を読め!』(鷹見一幸)の十年後の同窓会風景をショートショートに。

 『会長の切り札』の主人公、所光明は作中でかなりのスーパーマンぶりを発揮しています。ですが、本人も3巻のp154で言っているように、彼の力とはつまるところ「才能のある人を集めて、その力をいかに使うか」という才能です。
 それが本当の意味で重要になるのは、高校時代ではなく、その後の社会人になってからです。というわけで、十年後の同窓会風景を切り抜いたショートショート風に、彼の才能を表現してみました。

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 楢山高校、樫森高校、桜川女子校の三校による統廃合を巡った戦いがあってから十年が経過した。
 十年の節目を記念して開かれた同窓会に遅れて駆けつけた所光明は、かつての級友たちから大歓声で迎えられる。
 だが、しばらくして――
「できる人間はいいよなっ! できる人間はよっ! そういうやつらは、足元でうごめく出来ない人間の気持ちなんか、わかんねーだろうなーっ!」
 酔っ払い特有の、ろれつの怪しい胴間声が会場の空気を凍りつかせた。
「おい、やめろ、高本」
「はっ? なんだよ、俺はただ、できるヤツがうらやましいって言ってるだけだよ。なんだよ、人生の失敗者は、他人をうらやましがってもいけないのかよっ!」
「いいからもう、よせ」
 しわだらけのよれたネクタイを、それでも律儀に結んだままの高本を、周囲の男たちが制する。
「気にするな、所。あいつ、仕事ででかい失敗があったらしくて、荒れてんだ。お前のせいってわけじゃない」
「俺のせい?」
 わずかに憂いの表情を浮かべた光明に、幹事役があわてて説明する。
「いや、お前がプロデュースした例の高校対抗ゲーム。いろいろ変えながら定着してるだろ。だもので、“あの所光明”の級友ってんで、仕事の企画を任されたらしいんだ」
「それが失敗したのか」
「失敗って言うのかな? 企画のプレゼン段階で袋たたきにあったらしいぜ。効果が見込めないどころか、あちこち穴だらけで実現不可能だとさ」
「そうか――それなら、別に失敗じゃない。良かったよ」
 その声を聞いた瞬間、周囲に止められ、顔をうつむかせていた高本が血走った目で光明をにらんだ。
「良かっただとっ! 人の不幸でメシがうまいかっ!」
 光明は、苦笑して首をふった。
「いや、プレゼンが失敗したのが良かったってことじゃない。企画が本格的に動きはじめて、人やお金や物が流れるようになってからの失敗でなくて良かったって意味だよ」
「はっ! 成功する人間は言うことが違うね。この程度は失敗じゃないってか! 俺にとっては、プレゼンで失敗しただけで人生台無しさ」
 高本が焼酎の入ったグラスをあおる。しかし半分以上こぼして、周囲にまきちらす。左右に座っていた男女が、辟易して席を立つ。
「成功する人間には、味方が集まり、失敗する人間には、敵しかいねえ。みろよ、この構図。お前の回りには人が集まり、俺のところには誰もいねえ」
 光明はおしぼりを手に立ち上がり、高本の隣に移動して座席を拭くと、そこに座った。
「それなら、俺も同じだよ。増やす気はないのに、どういうわけか評判は悪いし、敵は多い」
「お前が?」
「十年前の話が一人歩きしてるのは俺も同じだよ。あちこちから、俺には不可能な企画や面倒が押しつけられる。俺は全部あらかじめ説明する。俺の能力が足りない部分、期間や人手、予算などの都合で難しい部分、そして失敗した場合の結果と損失。全部まとめた上で、俺にはできません、やれと言われてもここまでしかできません、てね」
「そんなことしたら、お前……」
「うん。それが敵意を買うのは俺も知ってる。『せっかく私が抜擢してやろうとお膳立てしたのに、あの若造は私の顔に泥を塗りおった』と叱られたりもする」
「そりゃ、そうなるよな。周囲に敵を作って、怖くないのか?」
「作りたくはないし、気持ちも良いものではないよ。でも、自分に出来ることと出来ないことは、きちんと切り分けておかないとね。誤解しているようだけど、俺は昔も今も、ひとりじゃ何もできない人間なんだ」
 光明はそれを自明の理として言ったのだが、高本はそう受け取らなかった。
「何もできない? は? じゃあ何か、お前ほどのこともできない俺はゴミクズ以下か?」
「違うよ。俺はひとりでは何もできない――だから、何かを実現するために、他人を巻き込む。いろんな人にお願いして、力を貸してもらう。そして、誰かに頼むには、俺自身が企画の段階で納得し、誰にどれだけ力を借りるかを決めないといけない」
 アルコールで酔っていた高本の脳に、光明のその言葉がしみ通っていく。それにつれ、プレゼンで非難された記憶が浮かび上がる。
『この案ですと、ウチがここは担当することになっていますが――はて、そんな話、一度も聞いてませんよ?』
「誰かに頼むには――話をつけておかないと」
「うん。目的は何か。お願いしたい作業がどれだけあるか。報酬や見返りがあるなら、それも。包み隠さず、分かりやすく説明して納得してもらわなきゃいけない。俺にできないことを、お願いするのだから」
「つまり、企画だプロデュースだと言っても、結局は、人の縁か」
「なあ、高本。俺は自分がなんでもできる人間だとは思っていない。いや、なんでもできる人間に頼らないといけない時点で、そんな企画やプロジェクトは失敗して当然だと思ってる。成功する企画やプロジェクトっていうのは、ちょっとできる人間の力を集めて、それがうまく流れるようにしたものなんだ」
「俺のプレゼンでは、力が集められなかったのか……。なあ、所。どうやれば、ちょっとできる人間を集められるんだ?」
「俺が君の力を借りた時のことを、覚えているかい?」
「お前が? 俺の?」
 高本は必死に記憶をたどる。十年前、一連の高校バトルの初戦。

――高本、戦意高揚のいい演説って何か知らないか?
――そうだなぁ、有名どころで言えば、『ヘルシング』の少佐の演説だな。ありゃ盛り上がるぞ。『諸君、私は戦争が好きだ』で始まるやつでな。
――「戦争が好き?」そりゃ、やばくないのか?
――いやいや。こいつの元ネタはゲッベルスの総力戦を国民に訴える演説で(ゲッペルスじゃないぞ?)繰り返して強調するってのはリズム感もあって、心に訴える力がバカにならないんだ。これから全文朗読するぜ。いいか……
――うーん、確かにこれはハマるな。ヤバめな表現をなくして、『諸君、私は楢山高校が好きだ』という感じで作ってくれないか?

「ビラ作りを手伝ったときの、あれか?」
「そうだ。俺はあの時、ちょっとできる人間である君に助力を頼んだ。だから、あのときの高本への質問になる。なぜ、君は俺の頼みを聞いてくれた?」

――へへ。任せろ。血がたぎる名文にしてやるぜ! 俺だって、この学校は好きだからな、俺にもできることがあるなら、手伝うとも。

「あれは。所、お前が俺を……」

――ありがとう、高本。期待している。

「俺を認めてくれたから。俺にも、学校を助けるためにできることがあると教えてくれたから」
 そういうことか、と。高本は十年前の自分に教えられた気がした。仕事を頼まれれば、面倒だ。負担や責任が増えるのは、イヤだ。けれどそれを上回るやり甲斐や喜びがあれば、人は利益がさほど望めないことでも、積極的に動いてくれる。
「俺はあの時、高本の力を借りられたことをうれしく思ってる。お前はできない人間なんかじゃない。プレゼンがうまくいかなかったなら、次の手を考えればいい」
「へっ。お前に言われると、なんか自分ができる人間に思えてくるぜ。これも、人を集めるコツか?」
「そいつは特許出願中の奥義だよ」
「はっ。相変わらず冗談の才能はない人間だなぁ」
 光明と高本は笑みをかわし、互いのグラスを軽くぶつけて乾杯した。

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