『密偵ファルコ17 最後の神託』リンゼイ・デイヴィス ギリシア観光パックツアーで新婚旅行のカップルを襲った悲劇! 残された夫は妻を殺した犯人を探すために神の託宣にすべてを賭ける!
あらすじを読んだ時に最初に思い出したのが、いしいひさいちさんの『コミカル・ヒストリー・ツアー』で描かれた、『神託はデルフォイ神託銀行』というたいへんバカなポスターであった。
現代的な目ではおみくじと大差のない神託であるが、時は紀元1世紀の古代地中海世界だ。
すでにだいぶ廃れていたとはいえ、デルフォイ(作中はデルポイ)の神託といえば、古代地中海世界では霊験あらたかなものとして広く知られていたのだ。
だから、妻を殺した憎い殺人犯を探すために、神託に望みを託す夫がいたとしても、当時の社会としては十分にアリであろう。ミステリとしては、これで解決してしまっては問題だが。(※)
この『密偵ファルコ』シリーズの特徴として、捜査のためとはいえ古代地中海巡りを楽しめるという側面がある。1巻の属州ブリタニアを皮切りに、その後もゲルマニア、イスパニア、北アフリカ、シリアなどファルコは精力的に動きまわっている。妻であり頼りになる相棒のヘレナが一緒なのはむろんのこと、自分や親戚の子供たちを引っ張り回すあたりが、家族を大事にする古代ローマ人ぽくて面白い。
二千年前のハードボイルドとは、孤高とは無縁の存在であったようだ。
次の18巻のタイトルが“Saturnalia”(サトゥルナリア)。
サトゥルヌスはローマの農耕神で、ギリシア神話では神々の長ゼウスの父、クロノスのことである。
サトゥルナリアは、農耕神の祭りで12月17日から一週間続く。今で言うと冬至の時期にあたり、現代ではクリスマスにもつながる祭りである。ファルコの時代はキリスト教はまだカルト的な新興宗教の一種であるからまったく関係はないだろう。
このタイトルからして、どうやら次はローマに戻って祭りの期間に発生した事件の謎を追うことになるのだろうか?
さらに出たばかりの19巻のタイトルが“Alexamdria”(アレクサンドリア)。
アレクサンドリアは名前の通り、アレクサンドロス大王が東征の間にあちこちに建設したギリシア系植民都市のひとつである。その多くはやがて消えるか吸収されるかしたが、唯一、現代にまで残るのがエジプトに作られ、ギリシア系征服王朝プトレマイオスの王都である。
19巻のファルコはエジプト訪問ということのようだ。今度は娘ふたりもついて行くのかな?
※追記:神託探偵
“神託探偵”でぐぐってみたところ、山田正紀さんの『神曲法廷』の主人公が、神の啓示=神託を受けることで謎解きをするらしい。
ひょっとすると、神の啓示か何かで犯人が分かった上で謎解きをするという方式は、意外と使えるかもしれない。
ピーター・フォークの『刑事コロンボ』が視聴者視点では「犯人とその犯行が分かっている」上でコロンボが謎を追い掛けるのを楽しむように、ドジな探偵が犯人やトリックが分からないで右往左往するのを読者が「志村ー、うしろうしろー」とツッコミを入れながら読むという形式は、ユーモア系のミステリのジャンルとしてよさそうだ……あ、それともすでにあるのかしら?
[amazon cover 4334761895]
最近のコメント
1日 21時間前
1日 22時間前
3日 22時間前
3週 1時間前
3週 3時間前
3週 3日前
4週 6日前
6週 1日前
7週 1日前
8週 3日前