『ヴィンランド・サガ 8』幸村誠 ブリテンの民に危機が訪れた時、英雄アルトリウスは妖精郷より帰還する
書店で「この帯はないだろう……」と多くのファンを嘆かせた幸村誠さんの『ヴィンランド・サガ』の第8巻。
いよいよ、新たな物語の開幕である。
なお、帯をみてちょっと気になったことをひとつ。
私はネタバレを気にしない人ではあるが、世の中にはネタバレがダメだという方も大勢おられることと思う。私の読書日記やブログの感想記事はおおむね全部ネタバレがあるので、あらためてご留意いただきたい。
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.もう大丈夫かな?
さて、8巻でついにアシェラッドが退場した(ネタバレ)。
4巻からはほぼ主役と言ってもいい活躍をしてきたアシェラッドは魅力あふれる悪役であった。
悪役としてのアシェラッドの特徴は「読み」である。彼は相手の心理や行動を読む点に優れている。
1巻のトルフィンとの決闘の場面からずっと、アシェラッドは「読み」によって勝利してきた。思えば、彼が「読み」も含めて完璧に敗北したのは、トールズとの一戦だけである。
アシェラッドが自らの主としてトールズを選ぼうとしたのは、そういう点にもあるのかもしれない。
しかし、クヌート王子と関わるようになってから、アシェラッドの「読み」は微妙に狂いを始める。トルケルの追撃を振り切れず、部下に反乱を起こされ、そして、すべてが己の「読み」通りとなった、8巻の対スヴェン王への陰謀も、最後の最後で失敗に終わる。
彼の愛する母の国、ウェールズへ、スヴェン王が侵攻を開始しようというのだ。
「読み」によって時流を乗り切ってきた悪党は、ここにきて、ついに年貢の納め時を迎える。もはや、己の「読み」でウェールズ地方をケルト――そして、ブリテンの民を救うことがかなわぬと知った時。
アシェラッドの脳裏をよぎったのは、母が語った伝説だったのだと思う。
「ブリテンに危機が訪れる時、妖精郷から英雄王アルトリウスが帰還して、これを救う」
彼の先祖。偉大なブリテンの王アルトリウス。
後にアーサー王として知られる人物の先祖は、ローマがブリテンを撤収する時に現地に残ったローマ軍団の退役将校であったろうと言われている。ブリテンの血を引き、ローマ市民でもあったアーサー王の先祖は、皇帝すら見捨てたブリテンを、見捨てることができなかったのだ。
中世初期、アルトリウス王の活躍により、一時期はブリテンに平和が訪れたと考えられている。だが、蛮族の度重なる襲来によってやがてブリテンは消えた。ケルト系の風習を残すブリテンの民は、山がちなウェールズ地方に押し込められ、ゲルマン系の侵略者であるアングル人とサクソン人がかつてのブリテンの土着の民となる。
ブリテン人を打ち破ったアングロサクソン人すらかなわぬデーン人=ヴァイキングの民が、ウェールズを狙っている。
伝説は言う。
「ブリテンに危機が訪れる時、妖精郷から英雄王アルトリウスが帰還して、これを救う」
そんなことはありえない。英雄は帰ってこない。死者がよみがえることはない。それを一番よく知っているのが、母の惨めな境遇を知る、アシェラッドだった。
だからこそ、アシェラッドは決断した。英雄がいないのだから、自分が何とかしなければいけない、と。悪党の自分が、貧乏クジを引くしかないのだと。
しかし――私は。伝説は、正しかったのだと思う。
英雄は、復活したのだ。
アルトリウスは、帰還したのだ。
そして、ブリテンの民を救ったのである。アルトリウスがそうであったように、単に目の前の災禍のひとつを消すだけであったとしても。
第52話のタイトル「英雄復活」のそのままに。
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