【レポート】詩序集(下)18

漢文のレポートを見つけたので、転載してみます。

本文、読み下し、現代語訳の順で、一行ずつ対応させます。
その後は、語釈、解釈、引用・典拠、参考文献となります。

【本文】
初冬於前賀州員外刺史書亭、同賦
葉飛水上紅詩。
學生惟宗孝貞
前賀州員外刺史者、
豪毅之芳種、
學馭之逸思
也。
家傳光花、
所以契後榮於風棘露槐之好陰、
道樂辭藻、
所以酌前脩於潘江陸海之餘瀝。
是以、
排高門以速群俊、
入詩境以凝六義。
雲閒日下之綺灑、
儒雅生徒之簡裁、
探氣岸而瑑骨彩、
暗投程筆之珠、
課意機而織文章
旁披勲墨之錦。
蓋、
赴此好會、
抽其祕懷
而已。
觀夫、
節迎玄英、
樹飄紅葉。
落去辭林中、
飛来染水上。
隨風輕飛之朝、
猶疑楚江之萍實、
映流斜翻之夕、
彌迷武陵之桃源。
至于如彼
散亂兮伴倒載之客、
繽紛兮驚魚釣之人、
山季倫之醉二高陽也、
自類酡顔於池面之色、
呂尚父之老渭濱也、
還變白髪於波頭之粧
者歟。
既而、
夜飲未闌、
下若之酒味濃矣、
更漏漸轉、
右壺之水聲繁焉。
孝貞、
趨柳市而才獨譾、
謬○列三千徒之末塵、
望李門而眼方疲、
遙如隔百万里之激波。
心之有憂、
慨然而賦、
云爾。

【読み下し】
初冬にして前の賀州員外刺史の書亭にて
葉水上に飛びて紅なりを賦するの詩。
學生惟宗孝貞
前の賀州員外刺史の者、
豪毅の芳種、
學馭の逸思
なり。
家へ光花を傳へ、
所以に後榮を風棘露槐の好陰に契り、
道に辭藻を樂しみ、
所以に前脩を潘江陸海の餘瀝に酌む。
是を以て、
高門を排し以て群俊を速き、
詩境に入り以て六義を凝らす。
雲閒日下の綺灑、
儒雅生徒の簡裁、
氣岸を探りて骨彩を瑑き、
暗に程筆の珠を投げ、
意機に課せて文章を織り、
旁し勲墨の錦を披く。
蓋し、
此の好會に赴きて、
其の祕懷を抽む
のみならんや。
觀よそれ、
節は玄英を迎へ、
樹は紅葉を飄す。
落ち去りて林中を辭し、
飛び来りて水上を染む。
風に隨ひて輕く飛ぶの朝、
なお楚江の萍實かと疑ひ、
流に映して斜に翻るの夕、
いよいよ武陵の桃源かと迷ふ。
ここに至りて彼の如くは
散亂として倒載の客を伴ひ、
繽紛として魚釣の人を驚すか、
山季倫の高陽に醉すは、
自ずから酡顔を池面の色に類し、
呂尚父の渭濱に老ひたるは、
還りて白髪を波頭の粧に變ずる
者か。
既にして、
夜未だに闌わず飲み、
下若の酒の味の濃くならん、
更に漸く轉して漏る、
右壺の水の聲ここに繁し。
孝貞、
柳市に趨して才獨り譾し、
謬ひて三千徒の末塵に列するが如し、
李門を望みて眼方に疲れたり、
遙かに百万里の激波を隔たるが如し。
心の憂ひ有り、
慨然として賦す、
云ふこと爾り。/爾云ふ。

【現代語訳】
初冬に、先代の定員外の加賀国守の書斎で
葉が水上を紅く染める事を詠む詩会。
学生惟宗孝貞
先代の加賀国の定員外の国守という人は、
いずれすぐれた者となる素養があり、
学問的にすぐれた思想を持っている
人だ。
家に光栄をもたらし、
いずれは大臣になることを約束され、
すぐれた詩を楽しみ、
潘江や陸海の生まれ変わりの様だ。
これは、
金持ちを排除して、すぐれた詩人を集め、
趣のある場所で、詩に技巧を凝らす。
雲閒や日下のような美しい流れ、
正しい儒教の生徒が簡単に裁き決める。
心をしっかりさせ、文の骨格と修飾を研き、
手本となるようなものを書き、
趣を課して、文章を書き、
手本となるようなものを書く。
まさしく、
このすばらしい詩会にやって来て、
その秘めた想いを詩にする
だけではない。
さて、
季節は冬を迎え、
木々は紅葉を散らす。
紅葉は散って林の外に出て行き、
水の上に落ちてそこを紅く染める。
朝に風に乗って飛んでいる時は、
楚江の萍實のようであり、
夕に川に流されているときは、
まさに武陵の桃源ではないかと思う。
あのようなものは、
乱れ散って酔っぱらった人を連れて、
入り乱れて釣りをしている人を驚かし、
高陽池で酔っぱらった山季倫のように、
酔った赤い顔を池の水面に作り、
渭濱で年を取った太公望のように、
波頭はその白髪のように変わる
者か。
既に
夜遅くになっても酒を飲み続け、
下若の酒の味も濃くなり、
それからやっと水時計を動かし、
水の音がうるさく聞こえるようになった。
孝貞は
詩宴にやってきたが一人だけ才能に乏しく、
多勢の列の一番下に並んでいる様なもので、
すぐれた人に認められたいが、
そこまでには超えられない隔たりがある。
心に憂いはあるが、
気力を奮い起こして率直に述べる、
以上。

【語釈】
賀州……加賀の国。現石川県南部。
員外……定員外の官。
刺史……国守。地方長官。
豪毅……すぐれた者。
逸思……すぐれた思想。
光花……光栄
後栄……後に栄えること。
棘……大納言・中納言・参議。
槐……大臣。
辭藻……すぐれた詩。
前脩……前世の徳を修めた賢人。
潘江……清・桐城の人。詩・古文に巧み。
陸海……曹玉珂。清・富平の人。書に長け、鑑賞に精通。
餘瀝……杯に残った酒。転じて人の恩恵。
高門……金持ち。
群俊……大勢のすぐれた者。
詩境……詩趣に富んだ場所。
六義……詩の方式。風・雅・頌・賦・比・興。雲閒日下……陸雲と荀隠。共に天下に隠れのない名士。[晋書・陸雲傳]
儒雅……正しい儒教。
簡裁……手軽に裁き決めること。
氣岸……心のしっかりしていること。
骨彩……骨采。文章の骨格とそれを飾る言葉。
程……手本。
意……趣。
勲……率いる。
祕懷……秘めた思い。
節……季節。
玄英……冬。
楚江……川の名前。
萍實……萍蓬草の実。河骨。[孔子家語・到思]
武陵之桃源……桃源郷。ユートピア。[桃花源記]
倒載……船に乗せた酒を飲み倒し尽くすこと。[蒙求・上・山簡倒載]
繽紛……花や雪などが入り乱れて落ちる様子。
山季倫……姓は山。名は簡。字は季倫。晋・河内懷の人。酒飲みで有名。
酡顔……酔った赤い顔。
呂尚……太公望。呂尚。姜子牙。
渭濱……渭水。太公望が釣りをしていた場所。[史記・范雎傳]
下若……酒の名産地。
壺……漏水の器。漏刻。水時計。
柳市……
李門……旧友か英賢の士にしか開かれないという、後漢の李庸の家の門。[後漢書・孔融傳]

【解釈】
 1~3
詩宴についての概要を解説している。
(1)初冬、前賀州員外刺史の書斎で開かれた詩宴である。
(2)詩題は「葉飛水上紅」(水上に紅葉が飛んできて紅く染まる)というもの。
(3)序者は、学生の惟宗孝貞。東曹・西曹の別は不詳。
 4~24
主催者や詩宴について。
(5~6)五字単対。詩宴の開催者について、前半で人柄を、後半で知性を褒める。
(8~11)上四字・下十三字の隔句対。前半で家柄を、後半で詩への造詣を褒める。
(13~14)七字単対。詩宴について褒める。
(15~16)七字単対。
(17~20)上七字・下六字の隔句対。詠まれる詩のすばらしさを褒める。
(22~24)四字単対。詩宴を褒める。
 25~41
詩題について。
(26~27)四字単対。題目。「葉」と「紅」が使われている。
(28~29)五字単対。引き続き題目。「飛」と「水上」が使われる。ここで五文字すべてが使われたことになる。
(30~33)上六字・下七字の隔句対。破題。「萍實」が「紅」を、「楚江」が「水上」を表す。
(35~36)八字単対。37~40の故事を引くための前振りとなっている。35が三季倫を、36が呂尚父を、それぞれ示している。
(37~40)上八字・下九字の隔句対。本文。「酡顔」が「紅」を、「高陽」「池面」「渭濱」「波頭」がすべて「水上」を表す。
 42~54
序者の献辞など。
(43~46)上四字・下七字の隔句対。詩宴が盛り上がっている様子。
(48~51)49の2文字目に「如」を補って、上七字・下九字の隔句対。序者の献辞。己の菲才さを嘆いている。

本文の冒頭に「忠基」という文字が見える。これを詩宴の主催者だとすると、前賀州権守・藤原忠基であろうと推測される

【引用・典拠】
[晋書・陸雲傳]
雲與荀隠素未相識、嘗會張華坐、華曰「今日相遇、可勿爲常談。」雲因抗手曰「雲閒陸士龍。」隠曰「日下荀鳴鶴。」鳴鶴、隠字也。

[孔子家語・到思]
 楚昭王渡江。江中有物。大如斗。圓而赤。直觸王舟。舟人取之。王大怪之、遍問羣臣、莫之能識。王使使聘於魯、問於孔子。子曰、此所謂萍實者也。可剖而食之。吉祥也。唯覇者爲能獲焉。使者返。王遂食之。大美。

[桃花源記]
 晋太元中、武陵人捕魚爲業。縁渓行、忘路之遠近。忽逢桃花林。夾岸数百歩、中無雑樹。芳草鮮美、落英繽紛。漁人甚異之。復前行、欲窮其林。林尽水源、便得一山。山有小口、髣髴若有光。

[蒙求・上・山簡倒載]
 晋山簡、字季倫、司徒濤之子、温雅有父風、永嘉中、爲征南將軍、鎭襄陽、四方寇亂、天下分崩、朝野危懼、簡優游卒レ歳、唯酒是耽、諸習氏荊土豪族、有佳園池、簡毎出多之池上、置酒輒醉、名之曰高陽池、時有童兒歌、曰、山公出何許、往至高陽池、日夕倒載歸、酩酊無所知、時時能騎馬、倒著自接離、擧鞭向葛強、何如并州兒、強家在并州、簡愛將也。

[史記・范雎傳]
 臣聞、昔者呂尚之遇文王也、身爲漁父、而釣於渭濱耳。

[後漢書・孔融傳]
 孔融字文擧、魯國人、孔子二十世孫也。七世祖覇、爲元帝師、位至侍中。父宙、太山都尉。融幼有異才。年十歳、隨父詣京師。時河南尹李庸、以簡重自居、不妄接士賓客、勅外自非當世名人及與通家、皆不得白。融欲觀其人。故造膺門。語門者曰「我是李君通家子弟。」門者言之。膺請融、問曰「高明祖父嘗與僕有恩舊乎。」融曰「然。先君孔子與君先人李老君同徳比義而相師友、則融與君累世通家。」周坐莫不嘆息。

【参考文献】
大漢和辞典 修訂版 (大修館書店)
漢文名作選4「文章」 (大修館書店)
新釈漢文大系58「蒙求・上」 (明治書院)
新釈漢文大系53「孔子家語」 (明治書院)
中国古典文学大系「漢書・後漢書・三国志列伝選」 (平凡社)
晋書 第五册 (中華書局)
後漢書 第八册 (中華書局)

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