一条ゆかり、著、『正しい恋愛のススメ』コミックス版4、愛されている自信
イケてる中年熟女と高校生出張ホストの、ふしだらな熱愛を描くラブコメディーなマンガ、『正しい恋愛のススメ』。
女性視点から観れば「逆光源氏風、好みな男の子育成恋愛」、男の子視点から観れば「本気になってから、彼女のお母さんだって知るなんて!? な禁断の愛」と、色んな方面でちょっと危ない熱愛関係も、コミック版4巻でいよいよ終結。
一条ゆかりさんの『正しい恋愛のススメ』は、コミックス版では全5巻なんですけど。実は、本編は4巻で、いったん完結。最終5巻は、中篇のサイド・ストーリー4本と、「正しい~」とは関連しない短編1本(扉込みで8頁)が採録された作品集になってます。
ちなみに、今回ご紹介するコミック版第4巻の内容は、集英社文庫版だと、2巻の終盤から3巻の前半にかけて。(全3巻の文庫版の方には、8頁の短編の採録は無し)
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(『正しい恋愛のススメ』ヤングユーコミックス版、4巻、書影)
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(『正しい恋愛のススメ』集英社文庫版、2巻、書影)
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(『正しい恋愛のススメ』集英社文庫版、3巻、書影)
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全5巻のコミックを、4巻から読もうって人はそうはいないと思う(笑)のですけど。
一応、お断りしてコミック版3巻のラストあたりを、ちょこっとネタバレさせたい。3巻でもオーラスの方だから、けっこうちゃんと紹介しちゃいます。
「ねえ」
「ん?」
「美穂が…
浮気されたって/泣いて帰ったわ」
「女とホテルに/入ったって」「そっか」
「ドジね」
「うん」
美少年高校生ホストの主人公(竹田博明)と、年上の熱愛相手(岬玲子)との密会での会話。
この密会の場は、TVドラマのシナリオ・ライターやってる玲子さんが、煮詰まったときに雲隠れする用らしい隠れ家マンションで、2人きり。
話題は、玲子さんの娘で、博明の彼女(セフレ以上、恋愛未満)な美穂ちゃん(小泉美穂)が、高校生ホストである博明の営業中を渋谷で偶然見ちゃったって話。
熱愛の2人が肩を寄せ合ったまま、ゆっくりやりとりされる感じで。
「ドジね」「うん」の吹き出しが被ったコマの後に、2人が重ねあう掌の無言のカットが1コマ入って。息苦しいような沈黙だけど、しっとり籠もった熱気が感じられる。
あー、人目をはばかる禁断の熱愛よねー♪ って感じ。
「桜が終わる前に/どっか旅行/行こうか?
1泊か2泊くらい」
「鎌倉しか/行ったこと/ないしね
温泉とか/いいな」「一緒にお風呂/入って
美味しいもの食べて/いい酒飲んで」
「夜桜でも/見ながら/抱き合おうね」「うん…/行きたい」
“楽しみね--と言って/玲子さんは口を閉じた
オレたちは ずっと/抱き合ったまま/言葉も交わさず
時折どちらからともなく/キスを繰り返し
ゆっくりゆっくりと/浅い眠りについた--”
この“ずっと抱き合ったまま言葉も交わさず/時折どちらからともなくキスを繰り返し/ゆっくりゆっくりと浅い眠りについた--”、ってとこが、すっごくいいのだわ♪
黒地ベタ塗りのコマに白抜き文字が置かれてるだけだけど。
“ゆっくりゆっくりと”って丸ゴチの白抜き文字が、無言のまま浅い眠りについてく意識の感じを表してて、こーゆーとこは、一条さん、ほんとに巧い♪
玲子さんの方は、オトナの女だから、娘の美穂ちゃんとのことがなくても、博明といずれ別れるって予想は抱いてた、と思うのね。
2人が熱愛関係になった後、博明が美穂ちゃんの彼氏だって知ったときに「2人の間のこともホストのバイトのことも、美穂ちゃんには秘密にして、その上で付き合いを続けてく」って約束させて。「その条件でなければ、これ以上付き合わない」みたいに言い渡したのは、要するに、一切合財を美穂ちゃんに告白して、別れるって、誰もハッピーにはなれない選択を、博明の封じ手にしたわけじゃん。
で、博明の方は、1巻当時、セックスは出来ても恋愛は出来ない男だったけど、短期間に玲子さんのリードよろしきを得て、玲子さんのオトナの考えも察せるまでに成長してる。
“桜が終わった頃には/彼女はもう/この腕の中には/いないんだろう
どうすれば/あきらめられるのか/解らないまま
恋だけが残り/恋愛は消えて/しまうんだろう”“したいことは/玲子さんとの/恋愛--
欲しいものは/愛されている自信--
恋を仕掛けた/ばかりの頃の/願いはかなったよ”“皮肉だな
今一番感じるよ/愛されてるって--
身体求め合うん/じゃなくって
初めて心を/求め合ってる/気がするよ”
“ひかれ合って
愛し合って
ひとつに/なってる/気がするよ”
ここまでは“ゆっくりゆっくりと/浅い眠りに”ついていく博明が、うつらうつらと思うモノローグ。
何故、そう解るかって言うと、目を開いて無言でいる博明のカットと、博明の脳内でイメージされてる夜桜のカットとが構成されてるから。
そして、見開きに渡って描かれる、風に散り行く夜桜の絵は、眠りに落ちていく博明のイメージなのでしょう。
散り行く夜桜に、重なる博明のモノローグはこう--
“玲子さん--
このまま抱き合って/目が覚めないのが
オレの一番の幸せ/なのかもしれない
桜--散らないで
オレやっと恋愛/始めたばかりだよ”
本気の恋愛感情に掴まれた人は、誰でも、恋愛の終わりにおののくような経験--つまり終わりの予感を、強い/弱い、薄い/濃い、短い/長い、などの強度で感知すること、あるはずと思うのだわ。
つまり、恋愛が、そのままいつまでも続くなんてことはなくって。もし、恋愛関係がうまく行っても、どこかで日常関係に転じるはず。そこですら恋愛関係は別の関係に変調してくはずなんだけど。それはさておき。
恋愛の終わりの予感と同時に、愛されてる自信もしっかり感じてるなんて、初恋愛をした割に博明はいい経験してる。
もちろん、フィクションだってことは、わかってるわよ(笑)。
アタシ(紹介者)が言いたいのは、クラシックな熱愛関係の1番大事なエッセンスのようなものが、この一連のシーンで描かれてるってこと。
それを描き出すために、いかにもフィクションめいた仕掛けがしつらえられてきてるけど。そんなこたーアタシは構わないと思う。
アタシは、このコミック版3巻終盤近くの場面は、『正しい恋愛のススメ』本編のハイライト・シーンだと思う。作者が「正しい恋愛」の姿として描こうとした事柄を、ここで描かれた「愛されている自信」を抱ける恋愛関係の在りよう、って呼んでも、多分、さほど的外れではない。
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そんなわけで、4巻では、元々オトナの女、玲子さんと、恋愛経験を通じてオトナに近づいた博明くんは、「別離をきっちり刻もうね」とか、別に言葉にして語ったりはしないままで、同伴旅行への準備をはじめる。
一方、ホスト営業中の博明を、単なる浮気と勘違いしてる美穂ちゃんは、泣くだけ泣いた後、腹をくくって(笑)、自分は別れないから、浮気相手と別れろ、別れなきゃ別れさす、って通告を、博明に告げるのだった。
別れる気満々な玲子さんと、別れない気を固めた美穂ちゃん。間に挟まれた博明の自業自得な女難は、最終巻でも続くのでした。読者にとっては笑えるドタバタが、4巻でも、これでもかってほどに、次々展開(笑)。
さて、突拍子もない設定で始まった、ちょっとありそうにないふしだらな3角関係の決着は、どうつくのか??
それは読んでのお楽しみでしょうけど。
ちょっと「ありえなーい(笑)」って感じで、ストンとオチます♪
アタシは、一条さんのマンガの、この手の唐突とも言える終幕を、勝手に「一条マンガの屋台崩し」って呼んでるんですけど(笑)。
もちろん「ありえなーい(笑)」って思うのは、クソリアリズムなジョーシキ的判断でのこと。
ラブ・コメディのエンディングが、いかにも、あるあるな結末だったら、それもそれで変な話じゃぁないですか。ことに、『正しい恋愛のススメ』みたいな突拍子も無い人間関係で。
ラブ・コメディなんだから、エンディングは、あり得るか/あり得ないかよりも、笑えるか/笑えないか、納得力が、あるか/ないかの方が大事なはず。
ここで言う「納得力」は、リアリズムっぽい説得力ではなくて、「このキャラクターたちじゃぁ、こうなっちゃっても仕方ないか(笑)」的な納得感のことね。
アタシは『正しい恋愛のススメ』本編のラスト、あっさりスッキリ、ストンと終わった感じは、いいと思います♪
「ありえなーい(笑)」とは思うんだけど(笑)、鮮やか♪ お勧めです☆
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書誌情報
一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』2(集英社文庫),集英社,Tokyo,2005.
ISBN 4-08-618288-2
一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』3(集英社文庫),集英社,Tokyo,2005.
ISBN 4-08-618289-0
一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』4(ヤングユーコミックス),集英社,Tokyo,1998.
ISBN 4-08-864346-1
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コミックス版では全5巻ですけど。実は、本編
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