ネタバレ雑記:一条ゆかり、力投の『プライド』完結!!

 ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの最新作『プライド』が、掲載誌「コーラス」の2010年2月号で最終回を迎えました。(ファンの方はご存知と思いますが)

 コミックス版の最終巻(12巻)は、この2月中に刊行される予定が、告知されています。

 『プライド』をずっとおっかけて読んできたアタシとしては、最終巻が出たら、まず一読して。それから1巻から順番に読み返すつもりでいます。

 この雑記では、『プライド』最終話を中心に、11巻以降の展開について、今、思ってるところをまとめておきたいと思います。
 どちらかと言えば、私的覚書に近くなるかと思いますが。読者さんの想定としては、一条マンガのファンの方を第1想定に、劣らぬ優先度で『プライド』をずっと楽しんで読んでこられた方々を第2想定に、念頭に置きながら書くことにします。

 作品終盤の展開などについては、必要なネタバレは避けずに書きます。一応、掲載誌が店頭から消えるまで待ちましたし。あらかじめ、お断りしておきます。

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 最終話、最終頁の柱(小口側欄外)に、次のような一条ゆかりさんからのメッセージが記載されています。

ずっと、生きるってなんだろう。命と誇りってなんだろうと考えながら描いてきました。あらゆる意味で全力投球した漫画家生活最長の連載でした。応援してくれたファンの方、コーラス編集部、スタッフに感謝します。ありがとう! 頑張りました!

 まず、アタシは、ファンの1人として、長編を完結させた一条さんに労いの気持ちを惜しみません。
 「あらゆる意味で全力投球した」「頑張りました!」この言葉に、「お疲れ様でした。楽しませてもらいました」って思う。

 けれど、最終回に到る、終盤の展開には、残念なものも感じています。
 まず、最終巻をゲットして読んで。それから、最初から読み直しがら、自分の感知を整理していきたいと思っていますが。

 『プライド』は力作。まず、この評価には、今でも確信があります。
 「果敢なチャレンジが続けられた作品」とも思います。

 けれど、終盤の収束には、アタシは一条マンガらしくないものを感じて、そこが残念。

 報じられているところでは、眼病(緑内障)を患ってられるという一条さん。もしかしたら、今後『プライド』よりも長い長編は期待できないのではないか(?)との、危惧もあって。
 その分、過剰な期待を抱いているのかもしれませんが。もっと別の形の完結の方が、『プライド』って作品にとっては、望ましかった、と思っています。

【参照記事】:【ゆうゆうLife】病と生きる 漫画家・一条ゆかりさん」(MSN産経ニュース

 『プライド』は力作ですし、読ませる作品です。
 凄く、面白い。
 でも、マンガ家一条ゆかりの最長長編なのだから、もっと破天荒な結末を迎えた方が、一条作品らしさが増したと思います。

 つまり、アタシとしては「最長長編にして、一条ゆかりのマスター・ピース」これを『プライド』には期待していました。そうはならなかったのが、「残念」ということです。

 ここで言う「マスター・ピース」は、「代表作」とはちょっと違います。
 「代表作」を「世間的に最も有名な看板作品」とするなら、「マスター・ピース」は「(代表作であってもなくても構わないから)その作家さんの特質(作家性)が多面的に、かつ、鮮やかに、色濃く出ている作品」としておきましょう。
 例えば、ですけれど、一条ゆかりの代表作は、と言えば、どうしたって『有閑倶楽部』になるはず。アタシも『有閑倶楽部』は好きですけど、比較するなら『デザイナー』や『女ともだち』の方が、一条作品らしさは鮮やかだし、色濃いと思います。そういうお話。

 アタシの『プライド』についての評価、あるいは、一条ゆかりさんご本人は同意されないかもしれません。
 長編作品『プライド』には、印象的なエピソードや、味わい深いシークエンスがたくさん描き込まれている。
 けれど、それと作品としてのトータルな印象や、トータルの出来/不出来は、また別の話題です。

 アタシとしては、トータルな出来としては、同じ作家の『女ともだち』や、『正しい恋愛のススメ』の方が、上だろう、と思えます。
 内容面では、『女ともだち』や、『正しい恋愛のススメ』(や他の作品)でも描かれた題材、あるいは描かれなかった題材を、果敢に深く描写したシークエンスがたくさん観られるのが『プライド』。
 でも、その分、全体のバランスに無理が生じた感じでしょうか?(←この件は、考え中)

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 一条ゆかりさんは、おそらく“語りおろし”式かと思えるエッセイ集『正しい欲望のススメ』の内(P.105)で、『プライド』について、次のようにコメントしています。

 主人公たちが納得ずくで、「ここがゴールだ!」っていうちゃんとした正しい位置に収まるのがラストだから、そこに行かせるまでは描かねばならんのですよ。だから、飽きてはいられないし、仕方ないから(よく出るなあこのセリフ)頑張ります。
(一条ゆかり『正しい欲望のススメ』,集英社,Tokyo,2008)

 このコメントの主張や意図を疑わないとして(疑う理由はとくにないはずです)。
 おそらく、マンガ家一条ゆかりは、長い長編執筆の間に、一条さんご本人の意図以上に「主人公たち」のキャラクターを深く描写してしまったのだろう、と思えます。

 例えば、終盤、出産を控えた緑川萌が、母親に対する認識を更新した様子が描かれます。そこで、萌が「ここがゴールだ!」と思ちゃったのは、わかるんですね。
 でも、そこが、萌の本当のゴールであるはずがない。
 欄丸が見出し、ベティも条件付で認めた萌の才能は、偏ってはいても「本物」であるはずだから。
 つまり、オーラスで、萌が死んでしまうという展開を迎えなければ、出産後の萌は、自分の選択と、自分の才能との間で、新しいステージの悩みや苦しみを迎えるはず。その方が、物語的に自然なんです。

 もし、仮定の話、萌の才能が、もっとひらめきだけの一発屋的なものだったり、若いときの勢いだけ的なものとして描かれていたならば、その場合には、終盤の展開が、萌にとって「ここがゴールだ!」でも、納得感のある物語になった、かもしれない。
 一条さんご本人のコメントを踏まえれば、マンガ家一条ゆかりは、ご本人の意図以上に、萌の才能を、奥深いものとして描写してしまった、ことになります。
 例えば、8巻で、萌がウィーンの聴衆を震撼させたものとして描かれている「マノン・レスコー」歌唱のシーンなどがそれです。

 同じようなことは、欄丸や、神野氏、そして史緒の終盤での選択にも言えます。
 欄丸の才能と史緒の才能は、才能と才能が響きあい、呼び合うものであるはずですし。
 終盤で、史緒は、神野氏と萌のこと知った上で、神野氏との婚姻を選ぶ展開になりますが。このことで、将来、史緒はさらに複雑な悩みや葛藤を引き寄せるはずです。
 それこそ、ベティが大喜びで聞きたがるような(笑)ね。
 やはり、物語的にはその方が自然なんです。

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 もんだいは、雑誌掲載最終回分の、さらにエピローグにあたるような数頁に集約的に観られます。
 この部分では、先に書いたような「(将来の)さらに複雑な悩みや葛藤」を予感させるような隠し味が見当たらない。

 例えば、『女ともだち』では、全体のエピローグにあたる部分で、主人公や主人公の女ともだちたちはラブラブで、絵に描いたようなハッピーエンドを迎える。
 けれど、その前後には、主人公の母親と、腐れ縁のようになっちゃってる元愛人(主人公の実の父)との、どーしょもないような関係(笑)が、さり気に挟まれてる。

 この『女ともだち』エピローグ部分は、一見、“めでたしめでたし、それからみんな末永く幸せに暮らしました”的なエンディングに思えるかもしれない。
 でも、母親の滑稽味のあるカットが、隠し味として挟まれることで、味わいは微妙に変わってる。
 その味わいを、アタシなりに言ってみるなら、こんな感じです。
「それから、主人公たちそれぞれには、泣いたり喧嘩したりいろんなことが起きるでしょうけれど、それでも彼女たちがこの時の選択を後悔するようなことだけは、ありませんでした」。

 『正しい恋愛のススメ』の方では、全体のエピローグにあたる部分は、決して「めでたしめでたし」ではなく(笑)、新たなラブ・バトルの開幕で終わっています。
 一見、絵空事めいた終幕を迎えてて--実際、ちょっとこーゆーことは起こりづらいよねって意味では絵空事なんですけど(笑)、「めでたしめでたし、それからみんな末永く幸せに暮らしました」なんてことはあり得ない、ような感じで描かれてる。少なくとも恋愛に伴う幻想を相対化する視座は、作中にちゃんと描き込まれている。

 「めでたしめでたし」は、幻想なんだけど、それでも恋愛感情に掴まれた人は、幻想を追い求めてしまう、「濃い恋愛を、“正しく”体験している間は、せざるを得ない」って、とこまで描かれちゃっているのが『正しい恋愛のススメ』。

 そのような豊かな錯綜が描かれた作例と比べると、『プライド』の終盤は、あまりに単調な方向に収束しすぎた、と思える。
 『プライド』でも、「めでたしめでたし」なハッピーエンドが描かれているのですが。ここで、アタシは、「ハッピーエンドの描き方が単調なのが、一条作品らしくない」と、言っています。
 「ハッピーエンドで終わること」自体の是非は、ここでは言っていないんですね。

 元々、シリアスな主題を、コミカル味も交えて描いてきた作品です。「ハッピーエンド」が、「リアルでない」とか、「あり得ない」とかいった評価は、そもそも無効(そんなこと最初っからわかってる)なのですが。
 「リアルではない状況」「あり得ない展開」のお話を通して、何が描かれているかが、ポイントなわけで。そこに注目すると、アタシは、作品トータルでは『女ともだち』や、『正しい恋愛のススメ』の方が優れているし、一条作品らしさが色濃く鮮やか、と評価せざるを得ない。

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 ただ、長い『プライド』の物語には、『女ともだち』や、『正しい恋愛のススメ』には描かれていないようなエピソードがたくさん編み込まれています。

 よく、フィクション作品の出来/不出来については「終わりよければ」的なことが言われて。つまり、終盤の収束の仕方がうまく行けば、途中展開の多少の難も救われる、ということが言われるのですが。
 『プライド』くらい長くて、複雑な物語になると、逆に「終わりが単調」だとしても、途中の面白さが損なわれるわけでもないのですね。(もしくは、損なわれるとしてもそこそこ、と言うべきか??)
 これは、物語、特に長い物語の面白いところだと思います。

 とりあえず、今の段階の意見をまとめてみます。
 完結した『プライド』は、力作だし、作者が長期間、果敢なチャレンジを続けた作品。
 終盤が、単調に収束してしまったのが残念だけど。これは、「一条作品らしさが薄い」と言った視点からの評価で、楽しいマンガとしては成立してる。ただ、作品のトータルな出来としては、他の一条作品に遅れをとった、というだけのことだ。
 それにもかかわらず、面白いエピソードがたくさん詰まったマンガ作品が『プライド』と、思います。
 力作ですし、面白い。

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 ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの『プライド』が、全12巻で完結。著者の最長長編となりました。
 オペラ歌手の一流を目指す美女2人、史緒(麻見史緒)と萌(緑川萌)、生まれ


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