『戦術入門たくてぃくす!!』番外編:演習の後かたづけとベロチュー

 これは、『MC☆あくしず』連載『戦術入門たくてぃくす!!』の第二回と第三回の間の出来事をショートショートにしたものである。
 pixivキツネ長官さんが描いてくれたキャノ → こちら に感激してキャノ中心に描いてみた。
 『戦術入門たくてぃくす!!』の読者限定であるが、ご笑覧いただければ、幸いである。

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 最後に残った敵陣に、陥落をつげる白い旗があがった。
「よし、演習終了だ。みんな、お疲れ様」
 指揮官役の少年が、人なつっこい笑顔を、四人の戦闘精霊に向けた。防人守人(さきもりもりと)。精霊界を救う勇者と予言された、現実世界ではオチコボレ気味の士官候補生である。
「やれやれね。最初から私を使ってくれれば、こんなに手間取らなかったのに」
 ツインテールの少女が守人に文句をつける。この気が強そうな少女は、エリル。航空兵科の戦闘精霊である。
「ボク、お腹ぺこぺこ。守人も、一緒にご飯を食べようよ!」
 守人にひまわりのような笑顔を向ける少女は、ファン。歩兵科の戦闘精霊だ。
「そうだな。守人殿には反省してもらうべき点が多い。反省会もかねて、食事にしよう」
 すらりと背が伸びた、グラマラスな美女は、アルモ。機甲科の戦闘精霊である。四人の戦闘精霊のリーダー格だ。
「みんな先に行っていて、なの。片づけがちょっと残っている、なの」
 眠そうな目の、ちびっこい少女が自分の分身へ指示を出しながら言った。少女の名前はキャノ。砲兵科の戦闘妖精だ。
「何よ、キャノ? まだ片づいてなかったの?」
「仕方がない。今回は、森林が多くて戦車や航空機が活躍できなかったからな。キャノの大砲に少し頼りすぎたか」
「ボクの分身もっかい出して、片づけを手伝おうか?」
 他の仲間たちにキャノはあまり表情が変わらない顔を向けてかぶりを振った。
「すぐに終わるから大丈夫、なの」
 キャノの分身たちも迫撃砲を片づけながら、手をぶんぶんと振って健在ぶりをアピールする。
「じゃあ、先に行ってるわよ」
「食事の準備は私たちですませておこう」
「頑張ってね、キャノ」
 三人の戦闘妖精の姿が薄れ、消えた。妖精界の演習場からの離脱は、歩くのではなく転移(ログアウト)だ。
 残ったのは、キャノとその分身たち。
 そして、所在なげに突っ立っている守人だった。
「?? ……守人は何をしている、なの」
「いや、俺は男だからな。力仕事を女の子だけに任せて去るのはどうも落ち着かないんだ」
「甘くみるな、なの。力仕事なら荒魂(あらみたま)モードの戦闘妖精が上なの」
 キャノはそう言って近くに据え付けられていた山砲を片手でひょいと持ち上げる。いわゆる『聯隊砲』とも呼ばれる旧式の山砲だ。馬1頭で牽引でき、分解すれば馬6頭に載せて運べ、密林・山岳地帯では最悪、人力でも運べる――とはいえ、総重量は500kgを超える。
「わわわわっ」
「ふふん、このくらい造作もない、なの。守人もさっさと転移するの。……んっ?!」
 キャノの身体を明滅する光が包んだ。そして、光が消えると同時に、キャノの手から、山砲が落ちる。
 重い響きをあげ、山砲が地面にめりこんだ。続いて土塊をはじき飛ばして、バウンドし、転がる。
「キャノっ! 危ないっ!」
 守人がキャノの身体を抱きかかえるように飛びつき、地面に伏せる。周囲にいたキャノの分身たちが、あわてて山砲にとりついて、動きを止めた。
「おい! 大丈夫か、キャノ!」
 ぺちぺちと、キャノの柔らかいほっぺを守人が叩く。
「……あ」
「気が付いたか。突然、荒魂モードが解除されたぞ。どうしたんだ?」
「……ちょっと油断したの。今回、ちょっと分身と大砲を出し過ぎた、なの」
「おいおい、無茶するなよ。指揮力をオーバーした分は、俺の生命エネルギーが使われ……あれ? 俺、何ともないぞ?」
 戦闘妖精は、契約者の指揮力に応じた分身や兵器を出すことができる。おちこぼれ士官候補生の守人では、指揮力がまだまだ小さく、兵力の過剰な投入は、守人に負担となる――はずだった。
「……ちょっとくらいなら、戦闘妖精が自分の生命エネルギーを使って分身を維持できる、なの」
「ってことは、キャノ、お前が、俺の指揮力の不足分を補ってくれたのか。どうりで今回、あまり失敗せずにクリアできたはずだ」
「勘違いするな、なの。めんどくさかったので、早く終わらせたかっただけ、なの」
 顔をそらし、頬を染めてやや早口になるキャノ。
 ――んなはずあるかよ。道理で、他の三人が自分の分身と装備を片づけても、キャノだけ残ったわけだ。制限オーバーしてたんだからな。
 守人はそう思ったが、それを指摘するとキャノはますますむくれるだろう。
 かわりに、守人はぽん、とキャノの頭を撫でた。
「守人?」
「ありがとうな、キャノ。理由はともかく、俺は助かったんだから、礼くらい言わせてくれよ」
「~~~~っ。守人の癖に生意気、なの」
「ははは。でも、正直、このままだとまずいだろ。分身たちもなんか力が出ないみたいだし。なんか手伝えることはないのか?」
「もう一回、契約すればいい、なの」
「あ、そか。じゃあ、えーと……」
 戦闘妖精との契約は、キスで行う。いつもやってはいることだが、これまでは他の3人が一緒で、これから演習、という状況だった。
 今はふたりきりだ。誰も見ていない。
 ――それに、なんかやばいカッコになってるよな。
 守人は、自分がキャノを抱いて地面に押し倒したままの姿勢であることに、今更ながらに気付いた。どぎまぎとした様子の守人を見て、キャノが意地の悪そうな笑顔をみせる。
「どうした、なの? 早くするの」
「う、うるさいな」
「それと、2回連続して契約となるわけだから、守人にも少し負担がかかるかもしれないの。覚悟しておけ、なの」
 ――くそ、からかってやがる。
 にやにやと笑うキャノに、守人は仏頂面のまま顔を近づけ、そして、唇を重ねた。
 ――引っかかった、なの。
 キャノの両手がぐるん、と守人の首に回される。実を言うと、キャノの荒魂モードの解除は表面的なもので、後かたづけをするのに充分な力は、まだ残されていた。二度目の契約の必要はなく、当然、キスも必要ない。
 それでもあえて、キャノがキスをしようとしたのは。
 ――どうも守人は、私だけ子供扱いしているの。背は小さいけど、私だって立派なレディなの。ちゃんと分からせてやるの。
 キャノの唇と、守人の唇が重なる。
 ――くっくっく。驚愕するがいい、なの。守人の世界から取り寄せた映像データにあった、ちょっと大人のキスをしてやる、なの。
 キャノの舌が、守人の唇をつつく。守人があわてて身を引こうとするが、キャノの舌はそのまま守人の唇を割って歯列をなめる。そして。
 ぱあっ、と。
 契約の輝きが、ふたりを包む。
 ――えっ? どうして?
 それに驚いたのはキャノの方だった。キャノの荒魂モードは持続している。契約がなされるはずはなかった。
 同時に、守人の声が聞こえてくる。
[我と汝の先祖がかわした盟約に従い、我、汝と契約す。これより、我が力、汝のものなり。汝、我が士魂(しこん)を受け、禍ツ神(まがつかみ)を討ち払え]
 ――なんで守人が契約の神言(かむこと)を知ってるの?
 そもそもキスをしているのだから、守人が喋れるはずがない。キャノはおそるおそる目を開いた。アップになった守人の顔は契約の輝きに包まれたまま、どこか心ここにあらず、という風になっている。
 ――この契約は私じゃないの? 守人はまさか……にゅにゅにゅにゅっ?!
 守人の口に差し込んだキャノの舌に、名状し難き感触が走った。
 それが、自分の舌と、守人の舌が触れ合った感触だと分かった時には、すでに攻守ところを変え、守人の舌がキャノの口の中に入り込んでいた。
 ――なんなの、なんなの、なんなのっ?!
 キャノはパニックになった。守人の舌は、まるで別の生き物のように、ぬめぬめぬるぬるねろねろとキャノの口腔内を這い回る。生まれて初めての感触は、これが不快なものであれば、それでも抵抗できたろう。
 ――頭が痺れそう……なの。
 人間は、苦痛には耐えられる。だが、快感には耐えられない。
 ――もうダメ……なの。でも、守人になら……
 キャノが諦めて、覚悟を決めた時。
 ぼんっ! と。
 守人を包む光が飛び散り、消えた。そして、守人もまた、糸の切れた操り人形のように、くたりと倒れた。
「いったい、なんなの……」
 ようやく言葉が出せるようになったキャノが守人の身体の下からはい出る。興味津々とふたりの様子をうかがっていた分身をキャノがにらみつけると、分身たちは大あわてで大砲などの装備を片づけていっった。
 キャノは自分の手のひらを見つめた。
「力がみなぎっているの。今なら四〇サンチの要塞砲でも呼び出せそう、なの」
 続いてキャノは、倒れ伏した守人を見る。ぐーすかぴー、と太平楽な寝顔をしている。
 ――私はまだ、こんなにドキドキしているのに、こいつときたら緊張感のかけらもないの。
 なんだか、無性に負けた気分になる。
「えい、なの」
 ぽくり、と。
 キャノの拳が、守人の頭を小突いた。

(第三回に続く)
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