ひぐちアサ、著、『おおきく振りかぶって』(2巻、3巻):スゴイ投手、と、チグハグなバッテリー
ひぐちアサさんの『おおきく振りかぶって』は、高校野球を描くマンガ。
主人公たちが属す西浦高校野球部は、長年休部状態だった軟式野球部が、硬式にリニューアルされたばかりで、事実上の新設野球部。1年生部員だけの部員たちの内でも、ピッチャー三橋くん(三橋廉)とキャッチャー阿部くん(阿部隆也)が組むバッテリーの、チグハグした感じが、一風変わってるけど面白い♪
自分の投球に自信が持てなくて、けれども頑張る挙動不審ピッチャー三橋くんと、三橋くんの努力を試合で活かしたいと思ってるけど、結果的に依存させちゃってるオレ様キャッチャー阿部くん。
2人のチグハグさを主軸のようにしながら、1年生だけの部員たちの高校野球部が描かれていきます。
コミックス(アフタヌーンKC)の1巻、2巻では、三橋くんが中学野球部時代で孤立してきた暗い体験に、練習試合で区切りをつけるドラマが描かれました。
2巻のラストに収められた、エピソード第6回「スゴイ投手?」 から、3巻採録の「スゴイ投手・1」(第7回)、「スゴイ投手・2」(第8回)にかけての物語では 、阿部くんの方が、なんでピッチャー不信の自己中キャッチャーになっちゃってたか、回想も交えて描かれます。
先々、西浦高野球部のライバルの1つになってく武蔵野第一野球部の榛名投手と、阿部くんの因縁とは??
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(『おおきく振りかぶって』2巻、3巻、書影)
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◎阿部くん、三橋くんの、チグハグなバッテリー
埼玉県立西浦高野球部の三橋くん(三橋廉)、阿部くん(阿部隆也)のバッテリーは変わってる。
特に、野球マンガって分野の内では変わってると思う。
1巻で、阿部くんが、三橋くんとはじめてバッテリー組む時のセリフだって、なんだかなー、みたいな感じ。
「オレが/
お前を/
ホントのエースに/してやる」
「そのかわり」
「オレの/
言う通りに/投げろよ」
「首 振る/投手は/
大嫌いなんだ」
三橋くんって、中学野球部時代の“実績”から、自分はヘボピッチャーと信じ込んでる。
そこに阿部くんの「オレがお前をホントのエースにしてやる」が重なって、西浦でピッチャーやれるのが、阿部くんのお陰、みたいに思い込むようになってっちゃう。
阿部くんの方は、3巻までに、三橋くんの努力を試合で活かしてやりたいって、ピッチャーの役割に目覚めてはいるけれど。三橋くんが、最初の“約束”「オレの言う通りに投げろよ」の延長線上でピッチャーやってることを、割と軽く考えてる。で、本人が思ってる以上に三橋くんのキャッチャー依存を誘導しちゃってる形。
例えば、現実の野球だったら、3年生キャッチャーと1年生ピッチャーで、ピッチャーの方がキャッチャーに頭が上がらない、みたいなことも、無くはないかもしれない。
けれど、阿部-三橋のバッテリーは、どっちも1年生なんだし。
三橋くんは、阿部くんのリードに対して首を横に振ることを、絶対にしない。
ほんとに、しないのだわ。
これって、かなり変わったバッテリーだと思う。
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◎スゴイ投手
さて、2巻のラストで、練習の一環で春大会の試合を観戦に出向く西浦野球部。3巻に渡って、公式試合観戦の様子が描かれます。カードは、浦和総合対武蔵野第一の試合で、勝者が県下ベスト8に進む。
武蔵野第一高は、野球よりサッカーが強い学校だったけど。野球部も昨年の秋から躍進。
躍進の原動力になったのは、2年生の速球派投手、榛名元希だった。
西浦の三橋くんも、チームメイトの栄口くん(栄口勇人)から、榛名のことを「スゴイ投手」って聞かされてた。
榛名がシニア野球のチームで、阿部くんとバッテリーを組んでたとも聞いて、気になる三橋くん。
(スゴイ投手/--…とオレは/比べられてるハズだ)と、思い込む。
ところが、観戦のために出向いた球場のスタジアムで、阿部くんは、榛名のことを「サイテーな投手」って言う。
球場で、噂のスゴイ投手、榛名さんの投球を目の当たりにする三橋くんは、(榛名サンは最低じゃない)と、思う。
(コントロールがいくらよくても/変化球が/いくつあっても/この速球の魅力とは比べものにならない)と、思う三橋くん。あるいは、(100人いれば100人が……/オレより榛名……サンを欲しいっていうよ)とかも思う。
ここは、野球少年三橋くんの、「速球投手への憧れ」がストレートに描かれてるところ。
阿部くんの方は、ほっとけば無茶な練習ばかりやろうとする三橋くんのことを、最低とか思ってはない。つまり、榛名投手のことを「最低」って言うのも、実力とかの話ではないのだけれど。そんな阿部くんの考えは、三橋くんには思いもよらない(笑)。
さすがの阿部くんも、そんな三橋くんに「お前とは全然違うんだよ榛名は」と聞かせる。「榛名は/プロになるために野球やってるんだ」。
阿部くんが榛名選手のことを嫌うのは、プロを目指してる彼が、例えば、「一試合80球」とかって、ワガママな自己管理を押し通してたとことか。
けれど、そんなワガママを周囲に認めさせるだけの実力も持ってる投手が榛名だった。
シニアに入る前、中学野球部でかなりヤバイ故障をした榛名は、シニア時代、コンディション管理に異様なほど神経質になってたのだった。
プロを目指して野球をやってる榛名のことを、その実力も含め、「スゴイ奴だ」と認める阿部くん。
だけど「チームのエースとしては最低だと思うし」「オレは/二度と組みたくないね」ってのが阿部くんの言い分。
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◎スゴイ投手、と、チグハグなバッテリー
さて、榛名選手についての阿部くんの言い分、どこまでもっとな感じか。
是非、マンガで読んでほしいところです。
アタシ(紹介者)としては、阿部くんの話を聞いていく三橋くんの描写を、面白い読みどころとして挙げます。結構長い紙数に渡って断続して描かれるんですけど。
(阿部君の根元ントコに榛名サンが/----いる!)と、直感する三橋くん。
回想も交えて、阿部くんが抱え込んでる榛名への思いが描かれた直後、話を聞いた三橋くんは、(阿部くんが榛名サンを許せないのは/“チームのエース”としてじゃない)と、思う。
こことか、すごく面白い♪
(--阿部君が榛名サンを許せないのは/“チームのエース”としてじゃない)
(“自分のエースとして”/----だよ)
(阿部君は榛名サンに/ちゃんとこっちを向いてほしかったんだ)
(榛名サンと/ちゃんとバッテリーになりたかったんだ)
(プロになってからじゃなくて/阿部君と今やってる野球を/大事にしてほしかったんだよね)
口下手な三橋くんは、この理解を言葉にしないんだけど。
中学時代、孤立感と闘いながら野球をやってきた、三橋くんならではの理解は、とても興味深い。
アタシが思うには、三橋くんが、自分が感じたことを、もし、この時点で過不足なく言葉にできたとしても、阿部くんの方では、受け入れ難いものだろうと思います。
3巻のこの時点では「まだ」。
三橋くんの方が、この時、自分が感じた直感を言葉にしないのは、阿部くんを交えたチームメイトの会話が、三橋くんは感情が顔に出やすいから、ピッチャーとしてはもう少しなんとかしろよ、みたいな話題に転じていったから。
「マウンドでは……そうねェ/無表情もいいけど……/やっぱ笑顔がいいね」と、阿部くん。
三橋くんの方では、(--阿部君には/オレが/投げる)と、思うのだった。
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『おおきく振りかぶって』って物語は、1年生だけでスタートする新生野球部で、正投手になる三橋くんと、正捕手になる阿部くんとが、出会ったとこから主筋がはじまるようなもんです。
長い物語を通して、野球少年らしい速球への憧れを抱いている1年生投手三橋くんが、まだ体が小さいなどの資質も踏まえて、自分に出来ることの幅を、少しずつ増やしていく様子が描かれていきます。
ほんとうに、少しずつ進んでく様子を描く、丁寧な描写がいい♪
バッテリーを組む阿部くんの方も、中学時代の榛名との体験から、ピッチャー不信に凝り固まっちゃってた様子が、少しずつ変わっていく。
後に、同じチームの控え捕手になる田島くん(田島悠一郎)から「配球オタク」と呼ばれる(笑)阿部くんにとって、「首を横に振らない投手」三橋くんとの出会いは、天の配剤のようにも思えたことでしょう。
最初の出会いには不自然なものもあったけど、それぞれが、少しずつ変わっていく2人。3巻では、まだまだチグハグした様子がほほえましいと思います。
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一方、武蔵野第一対浦和総合の試合には、4回から登板した榛名くんが、4対3で武蔵野第一に勝利をもたらす。(4回からの登板は、相変わらず、一試合で80球しか投げないからだ)
試合で、今の自分の速球を、阿部くんに見せつけるつもりだった榛名は、試合後西浦チームと一緒に阿部くんも引き上げちゃった様子に気づいて、ご立腹(笑)。
シニア時代から、面と向かって「最低」と言ってた生意気な阿部くんに、今の自分の実力を自慢したかったらしい。
榛名の方は、榛名の方で、シニア時代の阿部くんが、自分の何に腹を立ててたか、わかってないんですね(苦笑)。つまりここにも過去のチグハグがあって。こっちも面白いです。
実は、榛名元希ってキャラクターは、決して阿部くんが言うような、ワガママなだけのピッチャーではない、とアタシは思う。
ワガママでないわけではないし、充分オレ様性格なんですけど(笑)。それを言ったら阿部くんだって、オレ様性格だし。
阿部くんのオレ様性格だって、シニア時代、榛名と張り合い続けた結果身についちゃったもので、対抗形成されたものだと思うな(笑)。
(阿部君の根元ントコに榛名サンが/----いる!)って、三橋くんの直感は鋭いです。
とゆーようなあれこれがあって、榛名くんも、『おおきく振りかぶって』って物語の内では、すごく魅力的な役どころをしめてるキャラ♪
コミック本3巻の巻末に採録されてる『基本のキホン!』は、西浦野球部が動き出す前年秋の、榛名と武蔵野第一野球部を描く中篇(58頁)。番外編ですね。
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本編の先の方では、三橋くんは、阿部くんと出会わなければ、榛名さんはずっと遠い人だった、阿部くんを介して榛名さんを近い人と思えるって、阿部くんに言うようになります。「??」みたいな感じの阿部くんに、自分は榛名さんとも競う、とも言う三橋くんなんですけど。これはずっと先の方でのお話。
そんな三橋-阿部と榛名との、物語の上での最初の綾なしがはじめて集中的に描かれるのが、第3巻♪
番外編の『基本のキホン!』も併せて、すごく面白いです☆
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書誌情報:
ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』2(アフタヌーンKC),講談社,Tokyo,2004.
ISBN=4-06-314353-8
ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』3(アフタヌーンKC),講談社,Tokyo,2005.
ISBN=4-06-314368-6
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コミックス(アフタヌーンKC)の3巻、4巻で読めるのは、第7回
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