ひぐちアサ、著、『おおきく振りかぶって』(3巻、4巻):じっくりと夏に向かう、西浦野球部

 1年生部員だけでスタートした、新生の高校野球部を描くマンガ、ひぐちアサさんの『おおきく振りかぶって』。
 コミックス(アフタヌーンKC)の3巻、4巻で読めるのは、第7回~8回の「スゴイ投手・1」、「スゴイ投手・2」、第9回「ちゃくちゃくと」、第10回「春が終わる」、第11回「夏がはじまる」。

 1巻で新入学シーズンからはじまったお話も、4巻で「夏がはじまる」。いよいよ夏大会の開幕です♪
 もちろん県大会ですけど、新生野球部にとっては、初の公式戦になる。

 4巻のラストの方では、夏の高校野球埼玉大会の開会式を経て、西浦チームが初公式戦に臨む球場入りのとこまでが描かれる。
(後、3巻には番外編『基本のキホン!』も採録)

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 掲載誌の「アフタヌーン」って、かなり分厚い月刊マンガ誌。『おおきく振りかぶって』も1回分の掲載頁数は多い。多めの紙数を使い倒してる感じの、ゆったりしたペースと、丁寧な描写、じっくりした展開は、作品の魅力になってます。
 週刊マンガ誌連載の、毎回20頁くらいの間に、ヤマ場があって、ヒキもあって、ってゆーのとは、又、別の魅力。どっちがいい悪いじゃぁなくて。料理法が違うんです。

 単行本で読んでも、『おおきく振りかぶって』に特徴的な、丁寧でゆったりしたペース、こくのある物語は、楽しめます。
 キャラクターたちの人間関係が少しずつ深まってくような描写に、味わいがあります♪

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(『おおきく振りかぶって』3巻、4巻、書影)

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◎チームらしくなっていく、西浦野球部

 選手は1年生だけ10人の新生西浦野球部。「ちゃくちゃくと」(エピソード第9回)では、控え投手2人と控え捕手が決められ、主将、副主将も選ばれて、いよいよチームらしくなっていく。
(3巻採録の第7回~8回、「スゴイ投手・1」、「スゴイ投手・2」の辺りは、別の紹介文で触れてみました。よければ「スゴイ投手、と、チグハグなバッテリー」を読んでやってください)

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 5月のある日、モモカン(百枝まりあ)は、グラウンドで部員たちを前にして「うちもだいぶチームとして形になってきたけど/勝ち上がるためにはまだ足りないものがあるよね」、「まず/何が欲しい?」と訊く。
 こんな風に、方向は示すけど、まず考えさせるのが、モモカンの部員指導のいいところ♪

 スっと手を上げる阿部くんが「もう一人投手がほしい!」。「うん/私もそう思う!」とモモカン。

 週末に二試合ずつ練習試合をするスケジュールを組んでるから、控えの投手が欲しいって話なんですけど。
 ピッチングに自信の無いエース・ピッチャー三橋くん(三橋廉)は、“もう一人投手がいたらマウンドとられちゃう”的に、オロオロ動揺(苦笑)。
 (あらまあ/このチームでもマウンド独り占め願望は健在か/やっぱりこの子は……)と、モモカンは、多分、呆れ半分、感心半分(でもここでは口を挟まない)。

 ちょびっと、部員たちのすったもんだが描かれて、結局、控え投手は花井くん(花井梓)と、沖くん(沖一利)。花井くんは、外野手(ライト)と兼務、沖くんは、一塁手と兼務です。
 サードで4番、西浦のナンバー1選手の田島くん(田島悠一郎)が、控え捕手に。

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 控え投手は、部員たちが提出してたプロフィールを見たモモカンが、投手経験者を指名するけど。田島くんの控え捕手は、もっと積極的な指名。「田島君どう?」「え!? オレがキャッチっすか!?」と、意外そうな田島くん。
 脇で聞いてた正捕手阿部くん(阿部隆也)は、ナルホド田島か! と、思う。
 実際、モモカンってよく見てるし、適材適所なだけでなく、素質的な適性もよく推し測ってる。

 一方、阿部くんの方は、ナルホド田島か! に続けて、(なんかこいつら仲いーんだよな)、(天然どうし)、--と思う。
 「こいつら」ってのは、三橋くんと田島くんのこと。2人はクラスも同級で、仲はいい。物語の先の方では「田島は三橋の、にいちゃん」とまで言われる。「天然どうし」も、他部員も認めるところ(笑)。

 さらに阿部くんは、(オレが捕手をやれない場面で/パニクった三橋をうまいことひっぱれんのは田島かもしんねェ!)、とかも思う……。
 阿部くんが、三橋くんのことを色々考えてるのはわかるけど。過保護気味に気を回してる(笑)。
 三橋くんの方は、自分の投球に自信はないけど、マウンド独り占め願望は強い子なんで、無理もないのですが。

 それでも、阿部くん自身が三橋くんのキャッチャー依存を誘導しちゃってるのに、阿部くん本人はその辺のことに気づいてない。気づいてないとゆーか、精確に言えば、つい、見過ごしてる感じ。結果的に浅く考えてるような形に。

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 阿部くん的には、三橋くんに自信を持たせたい、自信をもって欲しい的に思って、色々接し方に気を使ってはいる。けれど、年の割にはマセてる(笑)阿部くんと、年の割には子供っぽい三橋くんの取り合わせなもんで、どうしても依存関係に傾いちゃってる。

 例えば、控え投手、控え捕手が決まってから、投球練習の合間に、阿部くん「もっかい言うけど/投手もう1人欲しいっつったのはお前が頼りねェからじゃねェぞ」って言う。
 「へ……/へえ?」と、やっぱりわかってなかった三橋くん(笑)。

 「だから……エースかどうかじゃなくて/体きかなくて投げらんねェ日があるかもしんねェってこと/そういう日を花井と沖で乗り切るんだよ」と、阿部くん。
 けど、三橋くんは「ほ/捕手も……?」と、訊く。
 「捕手?/ああ捕手〔オレ〕か!/そうだよ!」、「オレだってタックルくらって肩でもはずれりゃ その日は引っ込むしかないだろ」と、阿部くん。

 そりゃそうなんだけど。三橋くんは真っ青に。「なんだソコかよ!」と言う阿部くんに、阿部くんがいなかったら自分は「ただのダメピー」だ、と三橋くん。

「だって…あ/阿部くんがいなかったら/
 オ…/オレは/
 ただのダメピーで……」
「なことねーって」
「あ/あ/あるんだ!/
 --オレはダメピーだ/
 阿部くんが/捕ってくれなかったらオレは--……/
 ……また/
 役に立たない/
 投手に……/
 なっちゃう……」
「……」
「オレが受けりゃあ/お前“いい投手”になんのか」
「…………/
 ……う……/
 --うん」
(こいつ……/
 自分を肯定するセリフを言ったの/
 はじめてじゃねェか!?)

 ニッと笑う阿部くんは「ならオレ3年間ケガしねェよ/病気もしねェ!」と宣言。「お前の投げる試合は全部キャッチャーやる!」と続ける。
 「ホ……/ホントに!?」と、三橋くん。
 「そのかわりお前も故障すんじゃねェぞ!」
 「うん!!!」

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 控えの投手、捕手を決めるあたりは、まだ作中の5月初旬。三橋くんのお誕生日である17日よりも前です。
 三橋くんが阿部くんとはじめて会って「オレの/言う通りに/投げろよ」って言われて、1ヵ月立った頃くらい。
 むしろ、阿部くんは、入部の日に「その弱気どうにかしなきゃマウンド登らせないからね!!」と、モモカンに言われてた三橋くんを、よく支えてきてる。

 読者的には「阿部くんが三橋くんの捕手依存症を誘導してる」的に、どうしても思えるんですけど。この時点の阿部くんにそこまで言うのは、ちょっと酷だとは思います。
 それでも「3年間ケガしねェよ/病気もしねェ!」って、意気込みとしてはわかるけど、野球選手が約束できることじゃあないと思うな。
 阿部くんと三橋くんの“お約束”は、青春っぽい、いい話ではあるんだけど、薄氷を踏むような感じも伴ってる。ちょっとドキドキ、ハラハラします。

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 三橋-阿部のチグハグなとこもある、依存関係含みのバッテリー。この際どいものも孕んだ関係の描写には、新設の西浦野球部に上級生がいない、って設定も活きてる。
 上級生いたら、もうちょっとなんとかなりそうな気もするじゃぁないですか。最初のとこで、三橋くん入部しなかったかもしれないけど。

 実は、さっき引用したあたりの阿部くんと三橋くんのやりとり、少し離れたとこにいるモモカンの耳にも入ってて。
 細かなとこまで聞き耳たててるわけでないけど、「うん!!!」て三橋くんの返事を聞いて、(むふふいいお返事!/何 話してんのかわかんないけどきっといい話したのね!)とか、思うモモカン。
 これは、さすがのモモカンちょっとだけ勘違いもあると、思えます。
 こっちも、上級生部員がいれば、もう少し細かく気づいて、うまく指導できると思うな、モモカンなら。

 ほとんど毎日朝から晩で一緒に野球をやってるような1年生部員たちとモモカンだけど。
 一緒にやってるからこそ、うっかり気づかないことってあるよね。

 それにつきあいって言っても、まだ1ヵ月くらいなんだし。
 ゆったりしたペースの時間経過が、丁寧に追われる「おお振り」ならではの描写で。魅力的です。

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◎モモカンの魅力

 この日の練習の後、やっぱりモモカンのリードで主将を選出。

 「部が始まってからそろそろ1ヵ月! お互いの性格もだいたいつかんだよね/ここらで主将を決めましょう!」と、モモカン。「誰が/いいと思う?」と続ける。
 10人の部員たちが、互いに互いを見やって、無言のまま視線が花井くんに集中してく。
 「おっ/お前らっっ」と花井くん。「アラマー一発だわね~~」と言うモモカンに、「マジすかっ」と花井くん。
 「花井君/私も同意見ネ/やってくれる?」と言われ、「まっ/いっすけど」。

 花井くんと言えば1巻の最初では、「監督 女ってありえねー」とか言ってたんですけど。1ヵ月ほどの間に、モモカンに信服してる様子。
 副主将を指名していい、との承認を得る花井くんが、阿部くんと、栄口くん(栄口勇人)を指名。こうして西浦野球部は、夏大にむけて、チーム体制も整えていくのでした♪

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 花井くんが、モモカンに信服してる様子は、例えば4巻で読める面白いシーンで描かれてます。

 それは、夏の高校野球埼玉大会の開会式が終わった直後、会場外で、花井くんのお母さんと、三橋くんのお母さんが、2人してモモカンに挨拶するあたり。
 花井くんの言動が、お母さんに対する時とモモカンに対する時とで、全然違うんです。

 監督さんはどこ? とか訊くお母さんに「知んねー」とか言ってた花井くん。モモカンに、みんなを連れて先に学校に戻って、とか言われると「はいっ!」とか言って、高校球児っぽくきびきび動く(笑)。
 この辺の感じも、高1男子なら、いかにもありそうで、微笑ましい。

 花井くんのお母さん、関心した様子で「なんかすごいわぁ/うちの子こき使ってやってくださいね!」とモモカンに。こっちのお母さんのセリフも、ありそうだわ(笑)。
 監督に信頼寄せてる親御さんでないと、ちょっと言えないだろうと思いますけど。

 「私ねぇ/ずっと監督さんにお礼 言いたかったんですよ」「うちの子家じゃあんまり話さないんですけどね」「今の野球部はホントに楽しいみたいでね」と、花井くんのお母さん。

 「監督や先生のことほめるんですよ」とも聞かされ。「へえ」と、モモカン。
 「中学ではそんなことなかったんですから!」と花井くんのお母さんが言うと、横にいた三橋くんのお母さんも「うちの子も/毎日楽しそうです!」。
 「そりゃよかった」と、モモカン。

 続けて、花井くんのお母さんと、三橋くんのお母さんは、野球部の父母会を作るよう呼びかけるって、モモカンに話します。野球部が新生だから、父母会も、1から作ることになっていきます。

 こうしたやりとりの間に、何コマか描かれる、モモカンの笑顔がいい♪

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 夏大会(県大会)開会式の直後に、父母会発足の件が話題になるペースもいいのだわ。

 『おおきく振りかぶって』では、この辺りから、大人同士のやりとりも、短くだけど繰り返し描かれるようになっていく。高1男子たちのやりとりの子供っぽいとこもある面を、引き立てるような隠し味になっていきます。

 野球部員たちの親兄弟も描かれる例は、他の高校野球マンガでもあるけれど。親と監督の関係が描かれる例ってやっぱり珍しいと思うな。

 監督とOBの関係とかが描かれる例なら思い出せるけど。部員たちの親と監督の関係が、こんなふうに描かれる高校野球マンガって、少なくとも、アタシ思い出せないんです。ちばあきおさんの『キャプテン』に、PTAと野球部の関係が描かれた例くらいかな、アタシに思い出せるのは。

 モモカンと、組織されてく父母会の関係は、もうちょっと直接的な感じで描かれていきます。この辺も、『おおきく振りかぶって』の魅力を支えてる隠し味の1つ。こちらでも、じっくりした描写が、いい味わいです♪

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書誌情報:
ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』3(アフタヌーンKC),講談社,Tokyo,2005.
ISBN=4-06-314368-6

ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』4(アフタヌーンKC),講談社,Tokyo,2005.
ISBN=4-06-314384-8

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「じっくりと夏に向かう、西浦野球部」筆者ノート

 親記事は、2010-05-28に最初の版を公開。旧題は「ゆったりしたペースと、こくのある味わいで『夏がはじまる』♪」でした。
 公開後、細かな校正は加えていました。

 2010-07-15に、タイトルを変更。本文内に小見出しを立てて、構成を詳細化、関連して一部、文章の言い回しにも手を加えた。
 手を加えた箇所は、わずかだけど。実は、タイトル(旧題)は、ピンボケ気味だと思い、気になっていた。
 公開時に、もっと考えを詰めておいた方がらよかった、と思います。


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