強化ガラスばらばら事件に学ぶ

 昼下がり、営業マンが出払ったオフィスで、私は事務員さんと二人、パソコンに向かって仕事をこなしていた。
 しょっちゅう客の出入りするオフィスも、この時間帯は一段落。車道から奥まったところに建っているビルの一室にはキーボードを打つカタカタという音だけが響き、いま思えば不気味なほどに静かだった。

 突如、バシャン! という炸裂音が背後ではじけ、
 なんの音なのか、
 なにが起こったのか、
 まったく予想できない私は振り返って──この時点で隣のデスクにいた事務員さんは、大音響にもかかわらず、普通にキーボードを打ち続けていたので、そのことにも驚きつつ──
 振り返って、あぜんとした。

「あぜんとする」という言葉は、小説など書くときによく使う表現だけど、あのときの私はまさに「あぜん」とするしかなく、この表現がこれほど似合うシチュエーションはほかにはないのではなかろうかと自画自賛したくなるほど、あぜんとした。
 
 だってですよ、

 なにも置いてない。
 だれも触ってない。
 振動も、急激な温度変化もない、ごくごく平和な部屋の中で、
 ガラステーブルが、厚さ10ミリはあったと思われるガラスの天板が、こっぱみじんと砕け散っていたのだから。

「こっぱみじん」という言葉は(以下略。

 モザイク状のヒビが均一にはいった分厚いガラスは、その大部分がテーブルの受けとなる書類を置くスペースに崩れ落ち、その他の破片は半径1.5メートル周辺の床に飛び散っていた。私および、やっとなにが起きたかを把握しだした事務員さんは、ラッキーなことに半径1.5メートル圏内からはずれた位置に座っていたので、飛び散った破片が体に当たることなどもなく、もののみごとに無事。
 立ちあがった事務員さんに、取りあえず箒とちりとりを渡した私は、ヒビが入ってまだ「メチメチ」と不気味な摩擦音を唸らせているガラスに近づき、さっそく「なぜこういうことが起きたのか」を考えはじめた。
 考えてもわかるはずがない。
 このとき私は、この割れたガラスが「強化ガラス」と呼ばれるものであることすら知らなかったのだから。

 なかなかガラスを掃き終えない事務員さんが「重いですーこのガラスー」と言い訳するのを横目で見つつ、たしかこのテーブルはニトリで買ったんではなかったっけと思いだした私は急いでもよりのニトリに電話した。保証書があることを知らなかったから、ネットでニトリを検索して電話した。

 すごいぜニトリ。

「ガラステーブルのガラスが割れました」
 と言ったら、電話番号と会社の名前を聞かれただけで、
「すぐにいきます。危険ですからガラスには触れないでください」
 そして本当にすぐきてくれて、男性二人でていねいに掃除したあと、
「テーブルがなくてはお困りでしょうから、代わりのテーブルと椅子をお持ちします」
 と、既存のテーブルと椅子を引きあげて帰っていった。
 そのころには会社の棚を掘り返してテーブルセットの保証書を発見していた私がその書類を見せるまでもなく、「電話受付した時点で保証内であることを確認しております。後日お時間のあるときに、当店で代わりの商品を選んでください」と言われ、

 すごいぜニトリ。

 と、また感動した。 
 これこそが当社も目指す、顧客の立場に立った理想的なアフターサービスの形だっ。

 でも、なんでガラスが割れたのかの説明だけはイマイチで、
「強化ガラスは割れたらこういう風に全体に亀裂が入る。製造段階でガラス内部になにかが混入したのでしょう」
 みたいなことしか聞き出せなかった。
 まあ、いい。
 けが人も出なかった(もしあのときテーブルに誰かが座っていたらと思うと、いまでも背筋が寒くなる)し、無料で新しい商品と交換できるし、なにより店員さんの対応がすばやくて、重くてやっかいなガラスの破片はほぼ完璧に清掃され、私はとても満足している。
 細けーことはいーんだ細けーことは。
 と思っていたのであったが。

 数日後。
 業務が立て込んでいて、新しいテーブルセットを選びにいく時間が誰も取れずにいた中、前のガラステーブルとは似ても似つかぬ木目調の代替え品が置かれたオフィスに、取引先の、ある人物がやってきた。
 テーブルに座る前から、
「お。新しいテーブルですね」
 と、目ざとく声をかけてきたその人物は、ガラス屋さん。

 いいタイミングできてくれたものだと、私はさっそく事件の顛末を熱く語った。
 ガラス屋の彼は、ふんふんと聞きながら、「輸入ものはそういうことがあるんだよね」と、物知り顔でつぶやいた。
「製造段階で異物が混入したから?」
「いや、異物が混入したら製品になる前に砕けます。僕、前から思ってたんだけど、あのテーブルはガラスの表面に擦り傷やかき傷がけっこうたくさん入ってたから、多分そのせいじゃないですかね」
 
 さすがプロだとここでまた感心。
 ガラス屋さんは、普段から、人んちのガラスの状態をよく観察しているのであった。

 そのあと根掘り葉掘り、「なんで割れたのか」を聞いた結果、得られた納得のいく答えは、
「使用2年間でついたかき傷や擦り傷で、強化された表面が劣化し、圧縮されたガラスの内圧に耐えられなくなり、一気にはじけた」
 というもの。

 まだ本当には理解してないはずだけど、私はわかった気になれればそれでいい人なので、真偽のほどは定かではないことをここにお断りしておきます(^^;

 帰り際、ガラス屋さんは、
「今度またカラステーブルを選ぶ場合は、強化ガラスじゃなくて普通のガラスにしたほうがいいですよ」
 とアドバイスしてくれたけど、後日やっとニトリにいって選んだ代替え商品は、前のと全く同じガラステーブル。

 だってニトリの店員さんが、「強化ガラスが割れるなんて事故は当店でも珍しく、それこそ何万に一件という割合です」と言ったから、それはガラス屋さんの言ったことと激しくニュアンスが違っていたけど、そのテーブルはデザインも使い勝手も(なにより価格的に)非常に満足していた商品だったので、店員さんの言うことを信じることにしたのです。
 
 これでいいのだ。
 今度ガラス屋さんがオフィスにきたら、どんな言い訳しようかなw

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 という日常のささいなできごとを、scuttle.cre.jpの記事として写真付きで紹介したのですが、文字制限があって書きたいことが全部書けなくてストレスを起こしかけたのでブログに書きました。
 興味のあるかたは、http://scuttle.cre.jp/bookmarks/nazuna/ いまならこちらの2ページ目で、商品の写真が見られます。

 
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強化ガラス その後

# もの書き予備ログhttp://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write-ex1/2010/06/20100602.html#120000であがった記事二つ。

●アミューズメント機器の強化ガラス取扱に関してhttp://sega.jp/business/news/0711_3/

●強化ガラスが自然破損に至るメカニズムhttp://sega.jp/business/news/0711_3/glass.pdf

 以上を読んで、傷防止というよりは訪問客の安全のため、保護シートを貼るなどの対策を取るべきだとの判断に至りました。
 事故の必然性に気づいておらず、軽く考えすぎていたもよう。


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