『仮面ライダーW』第31話-第32話「風が呼ぶB」:翔太郎が探しあて、フィリップが読み解くもの

 『仮面ライダーW』の第31話~第32話、「風が呼ぶB」の前後編は、面白い。前後編だけ観てもかなり面白いんだけど、シリーズを通じた流れの内で、前後編を1つのセクションとして観るとさらに面白い。

 前後編の観どころは、まずは、2人で1人のヒーロー、仮面ライダーWに変身する左翔太郎(演者=桐山漣さん)と、フィリップ(演者=菅田将暉さん)、2人の相棒関係の危機。

 変身不能になって、それでも這いずるようにして、生身の自分にできることをしようとする翔太郎。
 謎の女シュラウドのそそのかしにたぶらかされ、翔太郎との相棒関係解消を考えてしまうフィリップ。
 それぞれのドラマに、見応えがあります。そしてもちろん、2人や、2人にかかわるキャラクターたちの綾なしがいい。

 『仮面ライダーW』は、複数のキャラクターのプロットが、シリーズを通じて観せる長期の綾なしが面白いんですけど。長期展開の節目節目に描かれる、鮮やかな錯綜、葛藤も面白い。「風が呼ぶB」も、そんなエピソードの1つです。

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「左翔太郎……、あなたにとって不吉な存在……。
 一緒にいてはいけない。
 あの男とは、別れなさい」

 “なぜ、シュラウドはあんなことを……”
 悶々とするフィリップ。

 ウェザー・ドーパントに襲われ、重症を負ったところをエクストリームメモリに救出されたフィリップは、メモリの内ではじめて対面した謎の女シュラウドに、気がかりなことを言われた(第30話「悪夢なH/王子様は誰だ?」)。

 照井竜(演者=木ノ本嶺浩さん)に仮面ライダーアクセルへの変身能力を与えた謎の女、シュラウド。フィリップたちにも、新しいメモリガジェット製造の便宜を図るなど、ガイアメモリ密売組織との戦いを、何かと支援してきた。

 “なぜ、シュラウドはあんなことを……”悶々としながらシュラウドの言葉を回想するフィリップに、「なんか具合でも悪いのか」と翔太郎。
 「なんでもない」と言うフィリップに、「だったら、早速、検索を頼みたいんだが」と、新聞を差し出す照井竜。そこには、10年ほど前から風都で噂になっていた都市伝説、野獣人間の記事が、小さく載っていた。

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 そんな時、鳴海探偵事務所にやって来る見知らぬ男、尾藤(尾藤勇,演者=小沢和義さん)。
 探偵事務所の先代所長鳴海壮吉を訪ねてきた尾藤は「旦那(鳴海壮吉)に世話になってた者だ。10年間ム所に入っていたが、出てきたら会いに来るように言われてた」と、告げる。

 「おやっさんは……、もう……」と、かすれたような声を押し出し、口ごもってしまう翔太郎。
 「父は」と、はっきりした声で、話を引き取る亜樹子(演者=山本ひかるさん)。「父は、死にました」「不慮の事故で」。

 生前の壮吉が、尾藤のために動いていた、と聞くと、亜樹子は過去の調査ファイルを探るが、記録は見当たらない。
 「ならいい」と出て行こうとする尾藤に、「おやっさんの残した仕事なら、俺の出番だ」と言う翔太郎だけど。「半人前に用はねぇよ」とデコピンされちゃう(笑)。
 「がーん。会ったばっかりなのに~」とか、メゲてる間に、尾藤さん出てっちゃって。「待ってくれよ」と、ドタバタ後を追って行っちゃう翔太郎。

 そんな翔太郎の様子を見やりながら、「シュラウドは……、翔太郎のどこが不吉だと言うんだ」と、つぶやくフィリップ。

 ここまでが、アーバン・パート(OP前)で、密度濃いです♪ 上の紹介でも、ちょっとハショってるくらい。

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 フィリップが悶々と回想するシュラウドとのやりとりは、1つ前の前後編(第29話-第30話「悪夢なH」)で描かれたものの回想。
 シュラウドの言葉の真意は、「風が呼ぶB」の前編「野獣追うべし」の中盤で明らかになり、後半では、シュラウド自身の口からダメ押し的にフィリップに伝えられる。

 ちょっとだけ、ネタバレさせちゃいます。
 シンプルに言っちゃうと、変身した後のフィリップがパワーアップしてきてて、2人で1人で変身してもWのバランスがうまく取れなくなっちゃう。Wのパワーも激減してピーンチ!! ってことなんです。

 シリーズのこれまでのエピソードにも、翔太郎がフィリップに、「俺のことは忘れろ!!」と言った危機はあったけど(第16話「Fの残光/相棒をとりもどせ」)。
 今回のは、もっと根本的なピンチ。

 前後編の敵役、野獣人間ビースト・ドーパントと戦っても、歯が立たないし。
 ウェザー・ドーパントには、「不調ですね、診察しましょうかぁ」と、含み笑いでからかわれる。

 フィリップのパワーアップが、第30話「悪夢なH/王子様は誰だ?」で、彼がエクストリームメモリと接触したことがきっかけ(らしい)って示唆も、皮肉めいてていい。

「来人……。
 あなたはもうすぐ進化する。エクストリームメモリを使って。
 ……、でも。そこに到達できる真のパートナーは、左翔太郎ではない」
「翔太郎ではもう……。僕のパワーについてこれない」

 「来人(らいと)」ってのは、記憶を喪ってるフィリップのもう1つの名前(らしい)。

 後編「風が呼ぶB/野獣追うべし」の冒頭で、フィリップは、もう1度変身しようって言う翔太郎に、「もう、君には無理だ」と告げる。自分のサイクロンメモリを、ウェザーと交戦中のアクセルに投げるフィリップ。アクセルは、サイクロンメモリをエンジンブレードに挿し、大出力のマキシマムドライブでウェザーを撃退するんだけど。

 ここのシーンで、「もう、君には無理だ」って言うときのフィリップの表情、言われる翔太郎の表情、自分が握ってるメモリを見つめるフィリップの様子(投げる直前ね)などなどが、すごくいい。

 「俺はもう……、Wになれない」って、つぶやく翔太郎。その後、「Wがまともに勤まらない俺には……探偵しかねぇ……」と、雨の中を這いずるようにして、鳴海壮吉が尾藤に残した手がかりを探していく翔太郎。
 すごくいいです。

 翔太郎ってプロの調査員やる適性、明らかに高くないんですよね。1度会った人物の顔、すぐに思い出さないとか(井坂のことね)、あれだけ色々あって園崎家のこと怪しむ様子がないとか。探偵やるには、人が好すぎる(笑)。

 そんな奴が「探偵しかねぇ……」つって、1人で這いずりまわるとこは、とてもカッコいい。

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 フィリップと翔太郎は、前後編の内で、相棒関係をリスタートします。翔太郎がふんばって、Wへの変身もするんですけど。
 この物語が、薄っぺらなお約束展開に収まらずにいるのは、「不在である鳴海壮吉」の描写が、効果的に織り込まれているから。
 フィリップの気づきとか、亜樹子のアドバイスとか、色々いいとこはあるんですけど。それらを、影のように縁取ってるのが「鳴海壮吉の不在」。

 例えば、前編冒頭で「親父さんはもう……」と口ごもる翔太郎、「父は死にました」と言う亜希子。「なくなったのか、鳴海の旦那」と、驚く尾藤。

 あるいは、「かつて組織と戦った男か」「すごい男だったようだな。会ってみたかった」と言う照井。
 「僕も、命を救われ……、生き方を教わった」と語るフィリップ。
 ことに上の照井とフィリップのセリフは、翔太郎がいないところで、亜樹子を交えて交わされてるのが効果的。

 こうしたセリフや、セリフをやりとりする役者さんの演技が、「鳴海壮吉の不在」を、ポッカリ空いてる一角のように、空白を示す描写になってる。たとえば、部屋の模様替えの途中で、家具を動かした後の空間、みたいな雰囲気の描写です。
 「攻殻機動隊」の、劇場用アニメ『イノセンス』でも、公安9課での草薙素子の不在が、効果的に描写されてますけど。ちょっとだけ似た感じ(色合いはかなり違いますけど)。

 「風が呼ぶB」では、鳴海探偵事務所のキャラクターたち、誰も直接言葉にはしないけど。3人がそれぞれに「鳴海壮吉ならどうするだろう」って風に動いていく。そんな展開が、物語の見どころです。

 後半で「俺は無力だ」と言う翔太郎に、フィリップは、翔太郎が探し出した手がかりに、鳴海壮吉が尾藤宛に残していたメッセージが秘められていたと教え、「僕は大事なことを忘れていた」って聞かせる。

 そのメッセージは、“Nobody is perfect(誰も完全じゃない)”。
 ここもいいとこで。尾藤宛に遅配されることになる鳴海壮吉の言葉を、フィリップが解釈しながら翔太郎に聞かせるとこがいいです。
 つまり、あまりに理想化されちゃってる翔太郎の壮吉像に、フィリップが、別の視線から観た壮吉像を交えてくとこがいい。それが2人の再起のきっかけになるとこもいい。

 でも、これも「鳴海壮吉が尾藤宛に残していたメッセージを聞かせる」に至るまでが、いいので、一際よくなってる。
 経過がいいから、節目での綾なしが、くっきりと浮き立って感じられる。平板ではないエピソードって、そういうもんです♪

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 さらに言えば、前編後半で、突然リボルギャリーのガレージに現れ、「真のパートナーは、翔太郎ではない」と、フィリップにささやくシュラウドまで、暗に「鳴海壮吉の不在」描写に使われてる。

 フィリップが独りで残ったガレージに、突然現れるシュラウド。
 「どうしてここが?」と、いぶかしむフィリップ。
 「あなたより、ずっと以前からここを知っているもの」と、シュラウド。
 「え??」と、眉をひそめる感じのフィリップだけど。その疑念は「来人……。あなたはもうすぐ進化する」って、当座の重要話題の影に隠れて、話題は「真のパートナーは、翔太郎ではない」って方向に転じてく。

 『仮面ライダーW』って、前後編の事件を進める要所で、もっと先の展開の布石を、ちゃっかり打ってくる描写、うまいですよねー♪
 「あなたより、ずっと以前からここを知っているもの」ってシュラウドのセリフも、多分、先々、シュラウドと
鳴海壮吉の10年前からの関わりを描いてく描写の布石になってくんじゃぁないかな。
 これまでの展開と描写を、重ねてみると、期待していいと思います♪

 そして、園崎家では、仮面ライダーWのパワーアップを予期していたかのように園崎琉兵衛(演者=寺田農さん)が、次女、若菜(演者=飛鳥凛さん)に、あるものを見せる。

「すごい……。綺麗!!
 これが私に見せたいものですの!? お父様」
「はっはっはっは。
 そうだ。この時を待っていたのだ」

 はじまりの場所遺跡を彩る光の奔流は、果たして何??

 「地球が来人を呼んでいる」
 園崎琉兵衛の言葉の真意は?

 こっちはもう、確実に先のお楽しみのはず。ますます楽しみです☆

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【おまけ】『仮面ライダーW』資料メモ
第31話「風が呼ぶB/野獣追うべし」
監督=諸田敏、脚本=三条陸、キー局オンエア=2010年4月18日
第32話「風が呼ぶB/今、輝きの中で」
監督=諸田敏、脚本=三条陸、キー局オンエア=2010年4月25日

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