ひぐちアサ、著、『おおきく振りかぶって』(4巻、5巻):初公式戦に「挑め!」

 1年生部員だけでスタートした新生西浦高校野球部が、いよいよ初の公式戦に臨む。
 初戦は、夏の高校野球選抜、埼玉県大会の2回戦。
 対戦相手の桐青高校は昨年夏の甲子園出場校。この夏大会では、Bシードだったので、2回戦が初戦になるのだった。

 西浦野球部が挑む初戦の様子は、『おおきく振りかぶって』のコミックス(ひぐちアサ著、アフタヌーンKC)の、8巻までかけて描かれます。
 4巻の巻末で西浦チームの初戦の球場入りまでが描かれ、5巻では、試合開始直前から3回の表までが描かれる。
 エピソードで言うと、第10回「春が終わる」、第11回「夏がはじまる」が4巻採録分。5巻採録分は、丸々、第12回「挑め!」。

 西浦の正捕手、阿部くん(阿部隆也)は、投手三橋くん(三橋廉)の精密コントロールと球種の多さを煙幕に、クセ球の「まっすぐ」を決め球にする配球作戦を組む。そして西浦打線は、桐青の投手、高瀬選手(高瀬準太)の投球に照準を併せた練習をみっちり重ね、初戦に臨む。

 若き女監督、モモカン(百枝まりあ)が、導く1年生だけの野球チーム。そのポジティブシンキングな野球が、昨年夏の優勝校相手に、吉と出るか凶と出るか。
 緊迫する試合運びが楽しめます♪

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(『おおきく振りかぶって』4巻、5巻、書影)

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◎夏がはじまる

 6月中旬、埼玉県大会、対戦組み合わせ抽選会が開かれる(4巻)。硬式野球部としては新設されたばかりの西浦高は、初出場になる。
 部を代表して、主将の花井くん(花井梓)がクジをひいた時、期せずして会場からは拍手が。
 「こりゃあ お礼の拍手だな」と、泉くん(泉孝介)。
 「なんのお礼だよっ」と訊く田島くん(田島悠一郎)に、「花井が/桐青引いたんだよ!」。

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 桐青高野球部は、昨年の夏大会で甲子園に進んだチームで、部員の人数も多い。学校は、中高一貫のキリスト教系私立校。
 1年生だけ10人の部員全員が会場客席にいる西浦チームでは、ほとんどのメンバーが、抽選結果発表と同時に、初戦負けを覚悟したが。エースプレイヤーの田島くん、正捕手の阿部くん、そして、女監督モモカンの3人は、違っていた。

 「弱気はダメ!!」と言うモモカンの本気に刺激され、西浦チームは、昨年の県大会優勝校桐青相手に、勝つ気の練習を重ねていくことに。

 「シードに勝てれば あとしばらく楽だからね/一緒にがんばりましょ!」と、あくまで勝つ気のモモカン。

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 一方、西浦の初戦相手になる桐青側では。
 抽選結果発表後、会場に来ているベンチメンバーに楽観気分が漂うが、3年で主将の河合さん(河合和己)が、「夏の初戦だぞ」と、釘を刺す。
 「去年と同じ道がオレたちにも用意されてる-- なんて錯覚すんなよ?/夏大には道なんかないぞ」と、河合主将。

「夏大には/道なんか/ないぞ/

 3年は/おととしの/1回戦負け/
 スタンドで/経験したから/わかるよな/

 あの学年だって/けして悪いチームじゃなかった/
 あの時桐青(うち)に勝った北本南稜も/
 2回戦で消えた!」

 1度緩んだ表情を引き締めるレギュラー陣に、「大丈夫だよ/これが“夏大”だってことさえ忘れなきゃ/勝つのはうちだ……!」と、河合主将。

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 ところで、抽選会会場の場面では、西浦、桐青だけでなく、武蔵野第一高校春日部市立高校ARC学園高校など、注目高、古豪高などのチームの描写が織り交ぜられてて、面白いです。

 例えば、西浦の三橋くんは、会場のお手洗いで、武蔵野第一のスゴイ投手榛名さん榛名元希)と行き会うと、親し気に言葉を交わしてもらう。
 憧れの速球派投手と会話できて、舞い上がる三橋くん。
 そんな三橋くんの様子に、榛名選手に対するわだかまりをシニア時代から引きずりっぱなしの阿部くんはオモシロクない(笑)。イマニミテロヨ的に、心中敵愾心を燃やしちゃう阿部くんだったりする(笑)。

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◎伝染するやる気

 「ね/強い学校と弱い学校の絶対的な違いは/なんだと思う?」と、部員一同に訊くモモカン。抽選会の会場で、初戦の相手高が桐青と決まった直後のことだ。

 「ええーセツビ?」と田島くん。「でもグラウンド小さくても強いとこは強いしな」、「部員数……もそうか」、「じゃあえーと……」。
 「練習時間スね」と阿部くん。
 「うんそうね/強いって言われるところは/練習時間が違うのよ」とモモカン。

 「今の練習時間のままだと/やりたいことやりきる前に夏大が始まっちゃうんだよね」。

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 モモカンは、部員たちに、朝5時集合の早朝練習、放課後は、後片付けも含めて9時上がりの練習スケジュールを告げる。
 「それでも午後授業を全部部活にあてるような学校にはかなわないけど/うちは人数が少ないから/5時~9時で守備から攻撃までひととおり回せると思うの」、「シードに勝てれば あとしばらく楽だからね/一緒にがんばりましょ!」と、ニッコリ笑うモモカン。

 (本気だ)、(モモカンは本気だ……!)。
 5時~9時の練習スケジュールには、驚く部員たちだけど。

 (オレたちゃ授業中 座ってられんだよ)。
 (モモカン バイト肉体労働だろ?)。
 モモカンは、ビルの窓拭きとかガテン系の仕事で稼いでて、収入のかなりを野球部の活動につぎ込んでる。
 すでにそのことを知ってる部員たちは、「一緒にがんばりましょ!」と、ニッコリ笑うモモカンに「はいっ」と応える。
 ここは、モモカンの意気込みに、刺激されながらつり込まれてく、西浦野球部の面々てとこだと思うな。

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 『おおきく振りかぶって』の魅力の1つに、「ポジティブシンキングで動くのは気持ちいい」的なキャラクターたちの描写があります。
 そして、ポジティブシンキングな言動が、伝染してく様子の描写が面白い☆

 4巻、5巻では、西浦チームで「ポジティブシンキングで動くのは気持ちいい」を体現してるキャラクターは、やっぱりモモカンが、田島くんと1、2を競いあってる感じ。

 例えば、4巻で、対桐青戦に向け野球部が本格始動しだす頃、モモカンが、有志で野球部の応援団をはじめようとする浜田くん(浜田良郎)と面談する場面。
 浜田くんが、野球部顧問教師のシガポ(志賀剛司)に「応援団てスゴク大事なんだよ」、「浜田が応援団やるっていうなら/一度 朝練に参加してくれるかい!?」って言われて、初めて朝練に顔を出す時のことになる。

 「応援団は選手を元気にもできるけど」「選手のやる気を/一気に奪うこともできるの!」とモモカンは、朝練最初のメントレにも体験参加した浜田くんに語る。
 浜田くんの方では「そんなことしないっすよ」と応えるけれど。
 2人の会話は、敵のヤジよりも、味方のため息の方が、選手のやる気を奪うって話題に進んでいく。

 「浜田君には選手以上のポジティブシンキングを身につけてもらって/スタンドを常に前向きにしといて欲しいの!」
 “--この女”と、“去年の優勝校と当たるってのに/本気で勝とうとしてる……!”と、思う浜田くん。
 “うわ……/うわ なんかオレ……”“変なカンジに楽しいぞ!”

 ここの“変なカンジに楽しいぞ!”は、浜田くんが、ポジティブシンキングで応援団をやってくきっかけになる場面。まだ、浜田くん的な「ポジティブシンキングで動くのは気持ちいい」の描写自体ではないんだけど。
 モモカンが、ポジティブシンキングなやる気を伝染させてく様子が、くっきり描かれる場面の1つで、面白い♪

 この後、浜田くんは、脚の早い生徒を誘ってランナー役として練習に参加したり、地道なとこから野球部に協力。もちろん公式戦の応援でも頑張っていく。
 西浦の初戦、埼玉県大会2回戦の対桐青戦は、7月上旬。まだ、1学期が終わっていない時期。
 それでも、浜田くんが呼びかける応援団は、野球部の父兄や、1年生を中心に200人ほどを応援に動員する。

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◎ホントの1番で、挑む三橋くん

 1ヶ月に満たない期間、対桐青に絞った練習を重ねて、初戦に臨む西浦野球部。
 試合は、西浦の先攻に。桐青は、抽選会で主将が言っていたように、レギュラーでスタメンを固めて来ていた。
 西浦ベンチでは、“本気で相手してもらって光栄だけど/みんな顔が怖いよ!”、“その本気 吉と出るか凶と出るか/勝負!!”と、モモカン。

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 1回の表、西浦チームは、ランナーを1人出す。桐青の2年生投手、高瀬選手(高瀬準太)が立ち上がり乱れたこともあって、2番打者、3番打者はきちんとバットを当て、4番、田島くんに。
 二死三塁で4番田島を警戒する桐青バッテリーは、フォーク、シンカーも投入して、これをねじ伏せる。

 そして1回の裏、桐青の攻撃。
 俄然、活気づく桐青側応援スタンドを見て“はじまった”と、思う阿部くん。
 “ベンチに入れなかった部員の踊り付きスタンド応援/コレがあると強いチームな気がするよな”“レギュラーはあの人数の上にいるってことだからな”。

 けれど、ピッチャーズマウンド上の三橋くんは、割と落ち着いてる感じ。
 「先頭切ろうな!」と告げて、ホームベースに向かう阿部くん。
 “びびってねーみたいだからいいか”と、三橋くんの様子が、意外らしい阿部くん。“味方の援団にはびびんのに/ホントよくわかんねーヤツだぜ!”とか思ってる。

 実は、三橋くんの方は、“……/ホントの1番で/はじめてのマウンドだ……!”と、内心、高ぶってる。

“……/ホントの1番で/
 はじめてのマウンドだ……!”
“オレは/一生懸命/投げるぞ!”

 “ホントの1番”。
 中学時代の野球部では、祖父が学園理事をしてる関係で、「ヒイキでエースピッチャーを任されてる」と言われ続けた三橋くん。
 三橋くんの挙動不審な言動も、異常とも言えるほどのピッチャーズマウンドへの執着も、同じ根っこ、中学野球部での経験から生まれてる。

 阿部くんも、そんな三橋くんの事情は頭ではわかってるけど、バッテリーとしては、今ひとつ気持ちがかみ合わずにいる。阿部くん自身も、気持ちが噛みあわないでいる様子を感じてはいるんだけど、まだ、もどかしく糸口がつかめない様子。

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 例えば、試合前の三橋くん、「味方の応援団」の人数にびびってた訳ではない。
 「応援席の大勢の人たち」の期待を裏切るかもしれない不安、に一瞬立ちすくんだんだけど。
 そんな三橋くんの様子を傍で見た阿部くんが「味方の応援団」の多分、人数にびびった的に勘違いしてる。

 中学時代、三橋くんがエースナンバーを背負ったチームは、試合に負け続けた。にも関わらず、三橋くんはエースピッチャーの座を降りようとしなかった。
 大方のチームメイトに「ヒイキ」と言われて続けた三橋くん本人も、「ヒイキだった」って思ってるんだけど。
 実は、真相は物語からは、はっきりしない。

 2巻で描かれてるけれど、「三橋はヒイキでエースをやってる」と、野手たちが手を抜いては、勝てる試合も勝てるはずがない、悪循環が生じてたはずだから。
 もんだいは、周りに「ヒイキ」と見られ続けた三橋くんが、自分でも「ヒイキを利用してエースでい続けた」と信じ込んでたこと。

 この、三橋くんの凝り固まった自己不信と、屈折も抱え込んでる前向きさを、阿部くんはまだ、今ひとつ理解しきれずにいる。
 今の三橋くんの根っこのとこにあるものが、今いちピンと来てないもんで、どうしても気持ちに噛み合わないとこも生じてる三橋-阿部バッテリーなのだわ。

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 三橋くんと阿部くん、バッテリーの関わりが深まってく様子は、『おおきく振りかぶって』の物語を長い目で楽しむとき、太い筋の1つになっていきます。
 5巻から、描き出される対桐青戦では、“ほんとの1番”での初公式戦に臨む三橋くんが、阿部くんの予想を越える頑張りを見せていく。

 最初の打者には緩急を織り交ぜ、三球三振を奪う三橋-阿部バッテリー。2番手、3番手には打たせて捕る作戦をうまく進め、投球数6球で、イニングチェンジ。
 この時、ベンチ前で“6球……で/おわっちゃった”と、ピッチャーズ・マウンドを振り返る三橋くんが印象的♪

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 ヘロ球にしか思えない三橋くんの「まっすぐ」を、何故か次々打ち上げ、不審に感じる桐青打線。
 そして、三橋くんは、2回の裏終了時、強豪桐青打線から、通算で4三振を奪う。
 2回の表に1点とは言え、まさかの先取点を許していた桐青側は、選手たちもベンチの監督も、1年生だけの西浦チームの野球に不可解な思いをつのらせていく。

 一方、西浦側では、さすがに三橋くんの高いテンションに気づいて、憂慮する阿部くん。
 “ランナーズハイ……とはちょっと違うか/でも/顔赤いのも汗すごいのも/何かで変なスイッチ入ってるせいだ”と、三橋くんの様子を見た阿部くん。3回の表ベンチでのことだ。
 “あいつ今/自分じゃ回転数落とせなくなってる気がすんぞ”“調子がいいというよりは/力をセーブできてないんじゃねぇか?”

“あいつ今/
 自分じゃ回転数/落とせなくなってる/気がすんぞ”
“調子がいいと/いうよりは”
“力をセーブ/できてないんじゃ/ねぇか?”
“中学でずっと完投してただけあって”
“普段の三橋のペース配分はまいもんだから考えなかったけど”
“三橋が1試合投げきるためのペースは”
“もっとゆるいんじゃなかったか?”
“これはただのカンだ”
“けど”
“このままつっぱしると--……”
“たぶんこいつ”
“どっかでパンクする--!!”

 果たして、三橋くんのやる気は裏目に出るのか?
 それとも阿部くんの憂慮は、杞憂にすぎないのか??
 そして、桐青ベンチも逆襲の機会をうかがう。

 小雨が降り始める球場で、1対0のまま、3回の表が終わろうとしていく。
 物語は緊迫したまま、以下、次巻☆

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書誌情報:
ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』4(アフタヌーンKC),講談社,Tokyo,2005.
ISBN=4-06-314384-8

ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』5(アフタヌーンKC),講談社,Tokyo,2005.
ISBN=4-06-314393-7

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 1年生部員だけでスタートした新生西浦高校野球部の、初公式戦。
 シードされてる桐青高校を対戦相手にした、夏の高校野球選抜、埼玉県大会の2回戦だ。
 桐青は、昨年夏の甲子園


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