共感の時代へ─動物行動学が教えてくれること
という書き出しではじまる本書は、動物行動学者であるフランス・ドゥ・ヴァールの研究対象であるチンパンジーの行動や生態、また、それらを確認するための実験に携わった結果などの事例が豊富に盛り込まれている。
あまりに豊富なため途中でうんざりしかけたにもかかわらず一行も飛ばさず読んだのは、観察対象となったチンパンジーをはじめとする霊長類やその他の哺乳類、魚や鳥にいたるまで、その行動のひとつひとつがとても興味深く驚きに満ちたものだったから。
たとえば、川でおぼれかけていた老犬を、どこからともなく現れたアザラシが押してやって川岸まで運んでやったとか
チンパンジーに餌を与える実験では、Aのボタンを押したら餌は自分にしか与えられないけどBのボタンを押したら隣の檻にいる仲間のチンパンジーにも餌が与えられると知ったとき、チンパンジーはほとんどがBのボタンを押し続けるとか
ボタンを押したら餌が手にはいるということを訓練されたマウスが、そのボタンを押すことによってほかのマウスがつらい目に遭うのを見た途端にボタンを押さなくなったとか
じつに人間と似通っているというか、他者を観察して自分の取るべき行動を決めている。
著者が言いたいのは、そういう動物たちの取った行動は「共感」能力があればこそできることであり、その共感能力に、これら動物と人間との間に差異はさほど認められないという点です。
それがなぜ重要かというと、共感能力が、多くの動物に生まれつき備わっている能力でなく、人間だけが後天的に獲得したものであれば、それは操作可能なものになってしまうから。
なぜ操作可能だと問題になるかといえば、とくに政治経済学の点において、人間はみずからの本能を無視したかのような思想に熱中することがあり、それがおうおうにして悲劇を生む結果となった。
ということで、著者はおもに「社会ダーウィン主義」について否定的な見解を示している。
それはいったいどういうことなのか、そのあたりは本を読んでいただくとして──。
チンパンジーなどの示す「共同体」における暗黙のルール、状況判断、仲間とうまくやっていくための習慣や作法、チンパンジーに限らず象やくじらなどが人間や仲間に見せる思いやりの行動、助け合いの行動には胸を打たれるものがある。
仲間のためのみならず、ときに動物は、犬を助けたアザラシのように、仲間でない者にさえもその身に起きた危機を察知し、その状況に応じた援助の行動を取ることがある。
そんな感動的なエピソード満載の本書は動物好きの人にはこたえられない一冊だろうと思います。
人間は、これら動物たち同様、生まれつき備わっている「共感」能力によって、もっと住みよい社会を作っていけるはずだ。自分たちが失いかけている欲求について、素直な気持ちで動物たちの取る行動を観察し、学んで欲しい。
これが、この本から私が受け取ったメッセージだったと思います。
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