イスラーム文化を知る
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イスラーム文化 その根底にあるもの 井筒俊彦:著 1991.6月第1刷、2010.3月第30刷発行
イスラーム帝国のジハード 小杉 泰:著 2006.11月発行
イスラムの怒り 内藤正典:著 2009.05月発行
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上から順に読みました。
9.11事件以来、いつかはイスラムについて知りたいものだと思ってはいたのですが、イスラム文化を理解するにはけっこういろんなものを消費しそうだったのでなかなか手がつけられず。
というか、じつは二番目のイスラーム帝国のジハードは4年前に買って、すぐに読み始めたんだけど、半分くらい読んだところで、自分にはまだ理解不能と感じて中断していたのでした。
それがこのたび縁あって一番目にあげたイスラーム文化 その根底にあるものを読んだところ、するする頭に入ってきたので、これはチャンスとばかりに勢いで三冊読みました。
わたしがイスラム世界に抱いていた疑問は
・世界の人口の5分の1を占めるというムスリム(イスラーム信徒)。コーランに記されたアッラーの教えの、なにがそんなに彼らの信仰心をかきたてるのか
・シーア派とスンニー派はなぜ対立しているのか
・そもそもアッラーってなに?
・パレスチナ問題がよくわからん
・アラブ世界は、なおわからん
・キリスト教との関係のほんとのところ
パレスチナとかキリスト教との関係とかは、とにかく複雑なんだ根が深いんだ、と覚悟していたのだけれど、おかげでかなり解けた感じがしますし、また、イスラム文化自体はめちゃくちゃ興味深かったです。
たとえばアラブ人。
イスラムの聖典であるコーランはアラビア語で書かれていて、アラビア語で読むことによってしか聖典ではありえないことを、アラブ人はとても誇りに思っている。中でもとくに「ダード(D)」を上手に発音できるかどうかに深い思い入れがあるのだそうで、ラマダーンの「ダ」がそれにあたる。ペルシア語だと「ラマザーン」になるんだそうで、この「ダード」を綺麗に言えることがアラブ人の特徴とされ、今でも彼らを「ダードを発声する者」と呼ぶ表現がある。
また、アラブ人は、アラビア語を話す人間を仲間だと思うので、旅行者に「どこからきた?」と聞き、旅行者がアラビア語で「日本からきた」と答えると、「じゃあ、おまえは日本からきたアラブ人か」というような受け答えをする、そういう民族。
次にイスラム教と他の宗教との決定的な違いについて──この理解しにくい決定的な違いこそが、イスラムが誤解される最大の原因でもあるのだけれど──
イスラーム教というのは「~せよ」という命令の宗教なので堅苦しいと誤解されがちだけど、もし命令どおりにできなかったとしても「できなかったときは、しょうがないよね」と許してくれる、見方によっては本当にラクチンな宗教で、神は人間の弱さや欲深さを熟知していて、そんな人間が失敗したり欲望に負けたりしても自分を責めずに生きていけるような教えを授けてくれる。
たとえば人間の力の及ばない家族の死や災害などは、神の意思なので、どんなにつらくても、あきらめる。また、努力してなにかを達成しようとして叶わなかったときも、「神が望まなかったのだからしかたがない」とあきらめる。
そうすると、民は「自分を責めなくていい」。
私は無神論者というわけでなく、ただ単に宗教を持たないだけの人なのですが、この「自分を責めなくていい」っていうのは、精神衛生上ものすごくよろしいことだと思うわけで、宗教を持たない人々はこのへんのメンタリティを自分でコントロールしないといけないから大変だと思った。
また、ムスリムは「因果律」というものに重きをおかない。
これはイスラムの怒りに書かれていたエピソードなのですが、著者がイスラム社会と付き合いだしたとき、アラブ人が運転する車の助手席に座ってすごい恐怖を味わったんだそうで、何度注意しても前を見て運転しないので「追突するだろ、前を見ろ前を」と文句を言ったら、「人と話をするときは眼を見て話すもんだ。そうじゃなきゃ失礼だろ」と言って聞かなかった。
そのくせ事故ってひっくりかえっている車を見かけたら、チェッと舌打ちして悲しそうな顔をする。だけど、自分がこんなことをしたら、こんな目に遭う、という関連性を全く気にしないので、事故を起こさないようにするために安全運転をしよう、というような行動には繋がらない。
この、日本人には理解しがたい感覚は多分、ムハンマドの口述したアッラーの教えが概念的に見れば「点と点」の集合体で、点と点がつながって線になるという考え方ではない、つまり原因があって結果が生じるという教えではなく、そのときそのときに生じたできごとに対して絶対者である神はどう判断するか、というようなものであるから、事象同士の繋がりがなく、その場限りになってしまう。
そのかわりに、恨みつらみが尾を引きにくい。
それらを含め、イスラーム教とはまことに人間味あふれ、神の慈愛に満ち、一見ご都合主義にも見える神の裁きは茶目っけたっぷりで、なんか原初に還るというか、原風景を見る思いさえしたのでありますが、キリスト教がイスラムを忌み嫌うあまり、その教義をねじ曲げて世界に広めたという歴史的事実がそこにあります。
それに加えて9.11以降は「イスラム原理主義」という言葉がひとり歩きして、ますます誤解が拡がった。
そこらへんが、今回読んだ三冊の本の、共通の見解でした。
はじめて知ったイスラームの世界は想像以上に魅力的なものでした。なのに今まで触れることさえかなわなかったのは、暗く凄惨なテロや内紛のニュースばかりが届き、私の中に意識せざる先入観が刷り込まれていたゆえだったのかなとの残念な気持ちもあります。
以上、ここでは触れませんでしたが、シーア派とスンニー派の対立やパレスチナ問題について手っ取り早く知りたい方はイスラーム帝国のジハードがおすすめです。イスラーム帝国の興亡史が地図や年表、家系図など込みでわかりやすくまとめられています。
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