宇宙の戦闘:『天冥の標III アウレーリア一統』より、エスレル号vs海賊船
小川一水さんの『天冥の標III』では、IIから再び時代が流れて24世紀の太陽系が舞台となっている。
さまざまな謎がしだいに明らかになっていくのだが、今回はそのへんのネタバレはおいておいて、宇宙戦闘について語っていきたい。
リアルさを演出に取り込んだ宇宙戦闘といえば、日本では谷甲州さんの『航空宇宙軍史』シリーズがまずあげられる。合わせて林譲治さん(『機動戦士ガンダム MS IGLOO』など)や、笹本祐一さん(『ミニスカ宇宙海賊』など)、佐藤大輔さん(『地球連邦の興亡』など)らの作品も、おすすめしたい。
リアルっぽい宇宙戦闘の最大の特徴であり、困難な点は、相対距離と相対速度、そして、その結果から導かれる戦闘の流れである。
宇宙空間では互いの距離が数千キロメートルとか、数万キロメートルという、地上ではまず考えられない距離になるため、どうやってまず、戦闘距離まで近づくかが問題になる。
続いて、遮蔽物がない空間での戦闘であるため、可能であれば遠距離で戦闘したいところだが、遠くなればなるほど、どうやって命中させるかが問題になる。
さらに、これらの問題をクリアした場合、戦闘が実に単調になるのである。単純に遠距離での砲撃戦で、優勢な側が優勢なまま決着がついてしまっては、ドラマが盛り上がらないことおびただしい。
これらをどう処理するかは、それぞれ作家の腕の見せ所であるが、谷甲州さんの『砲戦距離一二、〇〇〇』(『仮装巡洋艦バジリスク』に収録)がまさに、このみっつを全部短編の中に組み込んでおられるため、未読の方はぜひぜひ。。
小川一水さんも、こうした谷甲州さんからのリアル演出の流れを汲んでおられるが、今回、『天冥の標III』では、宇宙戦闘に法的な制約を取り込んで、ドラマを盛り上げている。
それが、第三次拡張ジュネーブ協定。西暦2222年に制定されたので「クアッド・ツー」と作中で呼ばれる法律である。
致命的宇宙戦闘の禁止により、遠距離砲撃戦だけであっさり決着がつくという展開を防いだのだ。実際、推進に莫大なエネルギーを必要とする宇宙船は、たとえ民間船であろうが、あまりに危険すぎる存在である。『百万年の船』でポール・アンダースンが描いた未来図でも、木星探査のような莫大なエネルギーを個人を使える未来は、すでにしてメンタリティや生き方が現代とはかけ離れた人類の社会となっていた。また、安芸一穂さんの『オペレーションMM』シリーズでは宇宙船の反物質燃料が、へたな兵器よりもよほどヤバイ存在として描かれている。
そういうわけで、『天冥の標III』では、クアッド・ツーのおかげで時代遅れとも言うべき宇宙空間での白兵戦という、実に熱い戦闘がそこかしこで繰り広げられている。
このうち、一章の40頁で描かれているエスレル号と海賊船の戦いを、図版で以下に紹介する。
一部、私の推測や妄想も混じっているので、そのへんはご容赦いただきたい。




[amazon cover 4150310033]
この記事へのトラックバックURL:
最初に言っておく。この怒濤の物語を読んだら第3巻も読まないわけにはいかなくなった。というのは前回の感想。前2作でしっかり『天冥の標』の虜になってしまったわけで、今回、当然...
最近のコメント
1日 20時間前
1日 22時間前
3日 22時間前
3週 1時間前
3週 3時間前
3週 3日前
4週 6日前
6週 1日前
7週 1日前
8週 3日前