エピソード・メモ:悠希と吉住のドライブ
エピソード・メモ:
悠希と吉住のドライブ-改訂版
鍼原神無〔はりはら・かんな〕
*悠希と愚礼怒のお話、エスキス(下書)。
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概要:
暴走族“愚礼怒”、2代目特攻隊長だった悠希は、性別適合手術を済ませて間もないTS(Trans Sexual)。
戸籍改訂のため、古巣の町に戻ってきた悠希は、しばらくポン友、吉住(ヨっちゃん、ヨシ)の家に、身を寄せることになった。
戸籍改訂についての、親族との話し合いがうまくいかず、浮かない様子の悠希を、ある晩、吉住がドライブに連れ出す。
(下書きは、次段から)
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「ったく、あんのポリ公、しつけーよ」と、ゆっくりハンドルを回しながら吉住。
「うん。酒飲んでる、って決め付けてたんだよ」と、助手席の悠希は浮かない表情だ。
深夜の街道沿いの、ファミレス。駐車場に、吉住酒店のワゴン車が停められた。
悠希が上野の店からとっていた長期休暇は、後、数日になっていた。仕事を辞めると決めたのはいいが、円満に辞めるには何ヵ月か、かかるだろう。悠希には、自分がその程度には、店の看板だ、という自覚はあった。これまで世話になった店に義理を欠くつもりもなかった。
妹との間柄をどうやって結んでいくか、塞ぎ込みがちになっていた悠希を、吉住がドライブに誘い出したのだった。もっとも、うまく仕向けたのは、吉住の妻、万理だったが。
2人は、現役時代に仲間と走ったコースを、軽く流した帰路、検問に出くわした。
最初の検査で酒気帯びですらなかったのに、担当の警官に、いくつも追加検査を強制された。それで、吉住は、文句を言い続けていた。
「わたし、こんな服しか持ってないから」ファミレスで、隅の席に座りながら、悠希が言った。吉住相手に、詫びているようだった。
シルバーの糸が僅かに混ざったアイボリーのスーツ。ミニスカではないが、膝上。いかにも、水商売風だ。だから、飲酒してると決め付けられた、と言っているのだった。
吉住は、そんな悠希の様子に納得できないでいた。
昔は、こんなふうじゃなかったように思えた。
今も、厨房の脇、手洗いに近い一画で席を選んだ。深夜の時間帯でも、まばらに客のいる明るい店内で、このコーナーは無人だった。
吉住が、何か言おうとした時、騒がしい足音と、無遠慮な声が聞こえてきた。
「あ、いたいた、吉住さん、ちぃーっす」「ワゴンあったんで、いると思って」「ちぃーす」
5人ほどの少年少女が、吉住に、口々に挨拶する。2人いた少女が、悠希にも目礼していた。
迷彩やら、派手な色のスェット・スーツやら、ファッションも賑やかにまとまりが無い。暴走族“愚礼怒”の現役メンバーたちだ。
年は15、6くらい。内には、もう少し、下に見える顔もあった。
「ハクい姉さんと、深夜の密会っ」
「万理さん、知ってるんすかぁ」バカ笑いのおまけもついていた。
「バカすけ。特攻隊長だった悠希さんだ。挨拶しろ」
とたんに、少年たちの態度が変わった。口をつぐんで目配せしたり、俯いたりする男子。女子2人が、唇を噛んで、男たちを睨む。吉住も顔色を変えた。一瞬のことだった。
「悠希だよ。よろしく」落ち着いた口調が、場の空気に割って入った。
「ちぃす。姉さん」少女2人が尋常に挨拶し、男子たちも、やっと歯切れの悪い挨拶をした。
「杉山ッ」吉住がこもった声を出す。
「杉山。他のも、こっち見な」目配せして吉住を制した悠希が、言葉を継いだ。のろくさ、顔を上げる少年たち。
「これまでは、上野の方にいてね。現役には、幹部くらいしか面通し、してなかった。
これから、面、合わせることも、増えるから。今さらで悪いけど、よろしく頼む」
それでも、煮え切らないような返事しかしない男子たち。吉住が何か言おうとするのを、再び制した悠希は、いいから行きな、と言ってやった。
「ヨッちゃん、でしゃばって、ごめん」悠希の声は、白々したテーブルの上で静かだった。
「謝んじゃねぇよ」不機嫌にコーヒーを飲み込んで、顔をしかめる。
悠希も、冷めてしまったコーヒーを含んだ時、メイン・フロアの方で、甲高いわめき声と、食器が派手に割れる音がした。
ファミレスから脇道に入って、少し行くと、小さな公園があった。
アパートと町工場の煤けた壁に挟まれた空間が、虫歯の抜け落ちた跡みたいに、開いている。
「お前ら、はしゃぎ過ぎだ。俺らがいなかったら、ポリ呼ばれてたぞ」
薄明るい街頭の下、吉住が、現役連中に小言を垂れている。誰の吐く息も白い。
吉住の脇には悠希。“愚礼怒”の少年、少女が、後ろ手で、2人の先輩の前に立ち並んでいる。
吉住と悠希が駆けつけた時には、ファミレスの卓を押し倒す勢いで、取っ組み合った2人を、他の者が押さえ込んでいた。
吉住が、数枚の万札と、自分のコンビニ副店長の名刺とを、ファミレスの店長に握らせた。足りない分は、明日、又、来て相談するから、と、なんとか後輩たちを連れ出したのだった。
「揉め事のタネは、わたしだろ」悠希は、聞かせな、と取っ組み合いを演じた2人に尋ねる。
「勘弁してください、姉さん」返事にならない返事をしたのは、金髪の少女、美由紀だった。
「オレは、ちょいふざけて、冗談、言っただけっす」美由紀と取っ組み合った少年が、うそぶく。
杉山っ、と、吉住が促すと、リーダー格の少年は、渋々口を開いた。
「木本が『吉住さんたち、デキてんのかな』みたいに言ったんす。んで、ミユキがキレて」
「木本はね『ヨシさん、あのカマと、やってんのかな』つったんすよっ」美由紀が、吐き棄てるように暴露した。
「てんめ」と、拳を挙げようとした吉住だが、すでに両手が、ふさがれていた。悠希が前にしゃしゃり出た。
杉山のセリフの途中で、悠希が脱いだコートを押し付けていた。美由紀のセリフが終わる頃には、スーツの上着も押し付けた。
高そうな服を放り出せずにいる吉住の前で、悠希は、シャツ・ブラウスのボタンを散らし、裂くように引き上げる。下着もたくし上げた。蒼白い肌が冬の夜気にさらされる。
わき腹から、胸の下に掛けて、大きな傷痕と引きつれの跡。
「現役の時、事故ってさ。肋骨、折れたんだ」傷痕をさらしながら、ゆっくり、ブラウスを脱ぎ捨て、キャミソールも脱ぐ。胸元で、ペンダント・トップが小さく揺れた。
「ヨっちゃんが、輸血してくれて、死なずに済んだ」下着を片手に、男子らを、順にねめつけていく。
「それから、兄弟みたいに付き合ってきた。わかるか? 兄弟とは、ヤんねぇよ」
現役たちは、ぎごちなくうなづくだけだ。
「木本、今日は聞き流してやる。2度と、人の事、カマ呼ばわりするな」
木本の両肩に手を置き、ゆっくり顔をよせていく悠希。噛んで含むような口調が、抑え込まれた感情を、ことさらに滲ませていた。
「カマって連中はな、尻売って、日銭稼いでんだよ」
襟を締め上げながら、さらにゆっくり顔を寄せ、木本の目を覗き込む。
「あいにく、“愚礼怒”レディースは、ウリ禁止だッ」
ヘッド・バットを1つ叩き込み、突き放す。額を押さえて、へたり込みながら、それでも木本は「うす」っと応えていた。
「わかったら、もう行きな」現役たちは、侘びや挨拶を口にしながら離れていく。
「ミユキと、そっちの……」悠希に呼び止められ、2人の少女が立ち止まった。
「エミです」と、ほとんど角刈りのようなベリー・ショートの少女。
「ありがとうね。ミユキも、エミも」
「あんなんで、いいんすか?」と美由紀が、吉住から受け取った服に袖を通している悠希に尋ねる。ヤキ、入れますよ、と、少女たちの目が言ってる。
「男はさ、わたしみたいの見ると、頭んなかグチャグチャで、わけわかんなくなるんだ」と、悠希は横に首を振った。
「1度。1度だけ、聞き流す」コートを羽織った悠希に、少女たちは頷いた。
「あの、悠希姉さん。あたし、皐さんが言ってたこと、わかりました」と、美由紀。
首を傾げる悠希。
「悠希姉さん、スレてないって。ほんとっすね」
何か勝手に勘違いしてるらしい少女に、いいから、行きな、と苦笑する悠希。口々に挨拶しながら、少女たちも去っていった。
公園から走り去るバイクの音を聞きながら「この、出しゃばり」と、吉住。笑ってる。
悠希も、無言で、笑みを返す。
「お前、イカしてたぞ。まるで、皐さんみたいだった」
バカ、と小さく言った悠希は、顔を赤らめていた。
「ところで、なんだ? あれ?? スレてねぇって?」と、尋ねる吉住。
悠希は、なんでもないの、と、すまして応えた。
<未了 改訂していく予定>
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