エピソード・メモ:悠希と悠里

エピソード・メモ:
悠希と悠里

鍼原神無〔はりはら・かんな〕
*悠希のお話、エスキス(下書)。

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「勝手すぎるわッ。今さら」
 カラオケ・ボックスの明るい部屋で、若い女が声を上げた。
 狭い部屋だが、2人しかいない。マイクも、曲目集も手付かずのままで、向き合っていた。

 よく似た2人の内、少し小柄な方の女が、感情を高ぶらせていた。
 長めのマッシュルーム・カットで、20代の半ばくらいに見える。地味なスーツのせいで、実際より年上に見えているのかもしれない。顔を見ると、化粧っ気もさほどなく、意外と童顔にも見える。
 壁越しに、籠もったような歓声と歌声が、かすかに聞こえている。

「お兄ちゃん、勝手に……、勝手に、変態になったんじゃない。これからも、好きにすればいいわ。
 戸籍なんて、今までどおりでいいじゃない」
「ごめんなさい。……済まないと思ってるわ。でも……」
 兄と呼ばれた相手は、背中までのストレートが茶髪。20代半ばくらいの女に見えた。ポイントを決めたメイクが、少し派手なスーツと釣り合ってる。年は、わかりづらい。

「病院に行って、お父さんに、そんなふうに言うつもり!? お父さん、お兄ちゃんのせいで仕事辞めたんじゃない。体壊したのだって、お兄ちゃんのせいよ」
 違う、と、悠希は思った。
 おやじが、酒に耽るようになったのは、かあさんが家を去って、離婚届けを送ってきてから、と、言いたかった。
 けれど、仕事を辞めることになったのは、それはわたしのせい、とも思っていた。

 この街で暮していた頃、悠希は、暴走族のメンバーだった。大きな事故を起こして、死にかけ、高校から退学処分を受けた。

「病院行って、謝って、女の戸籍に変えてください、って、頼むの? それとも、わたしが、お父さんに、戸籍変えてあげてっ、て言うと思ってるの??」
「そんなんじゃない」首を横に振る。長い茶髪がサラサラ揺れた。
「悠里に、わかってもらいたくて……。どうしても、……戸籍は変えたいの」言葉を搾り出しながら、ブラウスの胸元を握り締めていた。紅い光沢の爪が長い。
「わかんないっ! 女言葉なんてやめてよ!! 不良の癖に!」
 何人かが調子を併せた手拍子が、聞こえていた。

 悠里と呼ばれた妹は、無言で、何かのシートを小さなパッケージから取り出した。涙を滲ませた目尻にあてた後、シートをたたんで灰皿に棄て、煙草を取り出す。
 兄と呼ばれる悠希が、気後れしたようにライターを差し出そうとする前に、妹は、一口めを吸い込んでいた。
 間が悪い感じで、悠希もバッグのサイド・ポケットから、自分の煙草を取り出す。
「悠里が煙草吸うなんて、思わなかった」
「わたしだって、とっくに二十歳過ぎてるわよ」と、泣き笑いのような表情を見せる悠里。拭いきれなかった涙が、目じりに溜まっていった。
「そうだよね。ごめん」悠希も煙草を吸い込む。
「謝らないで」と、静かな口調。
「言い過ぎたわ」ぽつりと、言うと、ごめんね、と小声で続けた。悠希は首を横に振る。
「ずっと、お金送ってくれて、感謝してたの。……今でも、感謝してる。ありがとう」
 今度は、悠希の方が何かを小声で言ったが、よく聴きとれなかった。

「……お父さんね、もう駄目だって、言われてるの。
 会ってあげてほしいけど。戸籍の話は、しないでほしいわ。男の格好で会ってあげて」
「……悠里」
「いいの。今、返事しなくても。考えてちょうだい」

 悠希と悠里は、駅前まで一緒に、ゆっくり歩いて行った。
 駅前に通じる通りには、酔漢もちらほら出て来ていた。学生らしい若いグループが目立つのは、近くにキャンパスが多いせいだろう。
 東京の外れの小さな都市。高校を中退して、上野の方に出てから、悠希は、年に1度くらいしか、この街に顔を出さなくなっていた。通りは覚えている。けれど、見知らぬ建物ばかりが並ぶ街並みは、悠希の知っているものではなかった。街の匂いも違うようだ。

 妹が事務職で勤めている学習塾に電話を入れ、会ってほしいと頼んだのは、悠希だった。駅前を待ち合わせ場所に、指定したのは悠里。
 カラオケボックスに、連れていかれるとは、思わなかった。でも、悠里が、あそこを選んだわけは、わかる。わかりすぎるくらいだわ。
 言いたいことを、吐き出してもらって、よかったんだわ。悠希は、そんなふうに、考えようとしていた。

「お兄ちゃん、何かあったら、教えてもらった携帯にメールするわ。
 それでね。今度会うときは、そんな派手な服、着てこないでね。
 お願い」

 妹の去り際の一言を思い起こしながら、悠希は、人ごみの間をゆっくり歩いていく。
 一番、無難そうな服選んできたのよ、と、困ったあたりで、我慢が効かなくなった。立ち止まり、煙草を取り出したところで、後ろから肩を叩かれた。
「いい女は、灰皿、無いとこで、煙草吸っちゃいかんねぇ」女の声だ。
 振り向くと、駅前の人ごみを背に、暴走族時代からの懐かしい顔が、よっ、と笑っていた。駅ビルの夜景が浮かんで見えていた。

 ショート・ボブの淳は、わざとらしく上から下まで、悠希を眺め回して、短く口笛を吹く。
「SRSしたって聞いてさ。期待してたけど、いい女になったなー」とニヤニヤしている。
 暴走族時代から、レズビアンだ、とカム・アウトして突っ張っていた淳は、世間で言う性転換手術の事を、SRS(性別適合手術)と言っていた。
「ジュンに誉められると、嬉しいような、怖いような」と、笑う悠希。連絡しようと思ってたんだよ、と続けた。

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 久しぶりなんだから家に来な、と言う、強引な誘いを、悠希は断れなかった。淳は、明日は勤めが休みだから、泊まっていきな、と命令口調で言う。
 悠希が高校を中退した後、美容師の専門学校に入った淳も、都心の方で暮していた時期があった。
 その頃の悠希を直に知っているのは、地元では淳くらいだ。東京での友達づきあいは、暴走族時代よりも、暮らしのあれこれに渡る、普通のつきあいだった。
 数年たって、淳が地元に戻る少し前、バーテンをやっていた悠希は、ゲイ・バーにスカウトされた。
 悠希は、淳に、あれこれ相談にのってもらって、恩義を受けたと感じていた。それで、少しだけ考え、泊めてもらおう、と決めた。

 駅前から乗ったバスが、小1時間ほど行ったところに、団地があった。悠希が暴走族だった頃には、無かった団地。その外れが、終点だった。
 最後までバスに乗っていた人数は、意外と多かったが、皆、降りて間もなく、流れるように別れ、あちこちの棟に入っていった。
 バス停に、悠希と淳だけが残っていた。蛍光灯の明かりが、夜の暗さを際立たせている。
 悠希は、ちょっと待って、と断って、厄介になっている、やはり暴走族時代からの親友と、携帯で話し始めた。

「うん。又、会うって約束はしてくれたの。
 ……いきなりは、無理だって思ってたし。だいじょうぶ」
 悠希が妹と会う、と聞いて、心配してくれていた親友に報告を入れる。

「でね、泊まってけって言ってくれて。
 ……何、言ってんの、そんなことあるわけ」
 貸しな、と横から携帯を取り上げられ、あっ、とどぎまぎする悠希。

「ヨシ。今日はユウキ帰さないよ。
 ばぁか。どうせ、ウチの話は聞いてんでしょ。そうよ。
 手ぇ出したりなんて、しませんって。
 んじゃな」
 ほんとどガチャギリにした携帯を、ニヤニヤ笑いながら差し出す。

「ヨッちゃん、バカなこと言って」と、どぎまぎしたまま、受け取る悠希。
「あの野郎、ユウキのこと、心配してんだよ。こっちは、いちいち気にしてられませんって」笑いながら肩をすくめてみせた。

 団地から10分ほど歩いて、街頭もまばらになるあたり。どこか遠くで、番犬が吠えているらしい鳴き声がしていた。
 小じんまりした2階建ての家は、塀で囲まれていても、隣り同士、壁を擦り寄らせているようだ。
「くたびれてるけどさ。親戚に頭下げて、ローンで買った。借金まみれだけど、あたしン家」土地は、まだ、親戚のもんだけどね。と、それでも自慢そうだ。てっきり、アパート住まいだと思っていた悠希は、とても意外だった。

 門から手を伸ばせば届きそうな、玄関のチャイムを鳴らす。家の内で、小刻みで軽い足音が聞こえた。その後で、眼鏡をかけた女が、おかえりなさい、とドアから顔を覗かせた。悠希や淳よりも2、3歳年上に見える。
「ただいま」と、2人は当然のようにキスをした。短いけれど、ディープ・キスだった。
「リサ。あたしの連れ合い。一緒に暮しだして、2年」と悠希に紹介する。理沙は、丁寧に会釈した。
「いらっしゃい。悠希さんね。前からジュンちゃんに、お名前、聞いています」

 淳が玄関に屈むと、理沙の陰から、小さな男の子が、体当たりのように飛びつく。
「ジュンちゃん! おかえりぃ」
「カズぅ~。起きてたのかぁ」子供を抱き上げると、器用に脚でハーフ・ブーツを脱ぐ淳。
「ジュンちゃんがお友達連れてくる、って言ったら、待ってる、って聞かないのよ」
「ユウキさん。ジュンちゃんの、お友達だぞぉ」抱き上げたまま、悠希の方を向くと、男の子が、淳にしがみつきながら、こんにちは、と、言う。目を丸くしていた悠希も、こんにちは、と、返した。

「お風呂、ありがとうございました」
 借りた寝巻きで、悠希が出て来た頃、来客に興奮していた子供も寝付いていた。淳が、座卓の周りに散らかったミニ・カーを、1つ1つケースに入れてから、おもちゃ用の箱に収めてる。
「よく出来てるのね」と悠希。
「ジュンちゃん、お給料出るたびに、カズ連れて買いに行くんですよ」と、理沙が、ビールや、つまみを出してくる。
「なんか、ジュンのおもちゃみたい」
「わたしと、カズの共有だよ。リサママは、車には興味ないんだ」
「触らせてくれないんじゃない」
「遊んで壊すならいいけど、雑に扱われちゃかなわない」
「乱暴になんかしないわよ」
「乱暴とは言ってない」
 リサに、ビールを注いでもらいながら、悠希は、目を細めるようにして、言葉のジャレ合いを見ていた。

 淳が、入浴している間、ゆっくり、ビールを飲みながら、とりとめなく、言葉が交わされた。
 悠希は、淳との付き合いを理沙に話し、理沙は、淳と一緒に暮すようになったいきさつを、悠希に聞かせる。

 3人でウィスキーを舐めはじめた頃には、悠希もリラックスしていた。
 これが、噂に聞く、女のパジャマ・パーティーって奴ね、とか、のん気なことを考え、なんだかわくわくしていた。
「ジュンちゃんが、昔の仲間の人、家に連れてくるの、初めてなんですよ」
「“愚礼怒”の内でも突っ張ってたから」
「レディースの特攻隊長やってただろ。ユウキは野郎の特攻隊長だったのさ」
「つまり、同期で、同じ役職だったってこと?」
 理沙の言葉に、なんとなくおかし味を感じた2人は、顔を見合わせ、同時に困ったように微笑んだ。まぁ、そんなとこ、と淳。
「信じられます? 金髪で丸刈りにしてたんですよ」と、淳を横目で見ながら悠希。
「あんたのパンチパーマも、似合ってなかったよね」
 淳は、あの頃は、いつもムカツイてたよな、と、続けながら、水割りを飲んだ。自分が、とも、悠希が、とも言わなかった。

 レズビアンだと隠しもしなかった淳は、暴走族の内でも孤立気味で、それでも毅然としていた。
 度胸も、実力も、根性もあって、おまけに要領もよかった。
 先輩に「ヘンタイは嫌いだ」と言われても、すみません、変えようがありませんから、と、胸を張っていた。

 悠希がそんな風に言うと、理沙がイタズラっぽく笑う。
「その『ヘンタイは嫌いだ』って人、皐さんて言うんでしょ」悠希たちの先代、初代のレディース・ヘッドのことだ。
「ジュンちゃんね、ずっと、その人に恋してたんですよ」淳がむせてる間に、理沙がすっぱ抜いた。
「えーっ?? だって、あの頃いろいろ……」と口ごもる悠希。
「いろいろ、なんだよ。あたしは、族の内輪じゃ、ふざけるくらいしか、してなかったよ」後輩にチューしたり、パイ揉んだりさぁ、と余計なことまで言ってる。
「だから、外で……。よくナンパの連中と、揉めてたじゃん」と、理沙が笑ってる様子を窺いながら、聞いてしまった悠希。
 異性交遊には硬めの“愚礼怒”とは別の、性に奔放な不良グループと、淳がよく揉め事を起していた、と言っているのだった。
「そりゃ……、惚れてた皐さんには、弱み見せれないと思ってたからさ。ガキだったんだよ。
 族の内では突っ張ってたさ。けど、ガキでも、せーよくは、あったからね」と淳。
 今でも、気は多いし、手も早いしね、と、わざとらしく睨んで見せる理沙。
「よく、とっちめてます」と笑顔だが、目が笑っていない。

「なんなんだよ。お前ら。ユウキ、あんたも、なんか秘密、しゃべんな」その後はリサね、と言う淳に、戸惑う悠希。秘密って? と尋ねる。
「だからさ、めったに他人に話さない事。あんだろ」
「じゃぁ……、聞いていいかな。ユウキさんは、子供の頃から性別違和あったの?」と理沙。
 自分が男であることに、違和感を感じていたか? と聞いていた。後で、ジュンちゃんのプロポーズ教えてあげるから、聞かせて、と舌を出して見せる。
「いえ……、わたしは、上野に出るまで、自分のこと男だって」うそうそ、と淳が割って入った。
「本人は、そう思ってただろうけどさ。族の頃は、無理して男っぽくしてたよ」
「無理……してたかしら?」
「女顔とか、肌が綺麗とか、その手の事言われると、ムカツイてたろ。そのくせ、野郎同士のエロ話なんか、いっつも、しらーっとしてたしさ。ストレスだったでしょうに」あたしには、わかってた、と言う淳の話に、そうかもしれない、と悠希は思った。
「生で見た事ないけどさ。ユウキのちんぽ、小っちゃかったんだよね」
「な、なに言ってんの!?」今度は、悠希がむせた。
「野郎連中バカだからさ、サイズ自慢だの硬さ自慢だの、大声でするじゃん。聞きたくなくたって、聞こえるっつぅーの」ユウキはその手の話に積極的じゃぁなかったけど、よくからかわれて、マジギレしてた、と言う。そこまで言われると、黙ってグラスを傾けるしかない悠希だった。

「あー、ふこーへーだ!」皐さんの事をバラされたのに、ユウキの話は、とっくに知ってる事ばかりだ、と淳が駄々をこねる。
「そうだ。ユウキ、SRS決心したきっかけ、聞かせな」それなら、知らないから、と根に持っている。

 突然の言葉に、びっくりした悠希は、口をつぐんだ。濡れたものが頬を伝い落ちるのを感じていた。
 あれっ? っと手の甲で拭う。
「あれ。ごめん。なんで涙なんか」唐突にこみ上げてくるものがあった。
 湧き出てきて止まらない涙を、両掌で拭う。
 拭っても止まらない涙に、混乱して、両掌で顔を覆った。
「ごめんなさい。なんか。わたし、変」ホルモン剤のせいだと思う、と言い訳をする悠希。
「だいじょうぶよ」暖かい手に肩を抱かれると、理沙の声がした。
「今のは、ジュンちゃんが悪い」
 ごめんなさい、と、身を離そうとした悠希は、暖かくて柔らかな力に、いっそう抱き抱えられた。
「だいじょうぶよ。わたしも、ジュンちゃんも、誰にも話したりしないから。泣いちゃいなさいな。全部」

 柔らかい肩に、顔をうずめて、悠希は、ああそうか、と思った。
 わたし、2人の暮らしが羨ましかったんだ、と思った。

 あの人とこんな暮らしをしたかった。

 思いに気づいた悠希は、声を上げて泣き出していた。

 感情の大きなうねりが過ぎた後、悠希は、しゃくりあげながら、恋人と初めて肌を合わせた時、幸せだった、と、話しはじめた。
 話しはじめると、思い出される事が、ポツポツと続いて、話しても、話し足りるという事が無かった。
 ジュンとリサさんの、2人の暮らしが羨ましかった事。
 事故の後、おやじに、面と向かって、いっそ死んでくれればよかった、と言われた事。
 親友のヨッちゃんが親身になってくれたこと。

 3人が寝室に移って、川の字に横になっても、淳と理沙が、合いの手で促すので、途切れ途切れに話し続けた。
 ジュンに、ゲイバーへの転職を、勧めてもらった事。
 はじめてみたら、不思議なほど馴染んだ事。
 あの手この手で口説いてきた彼氏の事。
 恋人になって、相談して、ホルモン剤を飲み始めた事。
 女の体になっていくのが嬉しかった事。
 恋人が死んだ事。
 どうしても、女の戸籍を手に入れたい事。
 妹に拒絶された事。……
 ……話している内に、悠希は眠り込んだ。

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 翌日、遅めに目覚めた悠希が、おずおず1階に顔を出すと、淳が1人でTVを見ていた。
 リサさんは? と尋ねると、キッチンに立った淳が、カズを幼稚園に連れてった、と応える。
 トーストと、ベーコン・エッグを用意し、理沙が作ったサラダも一緒に出した淳は、コーヒー・カップを持って、換気扇の下で煙草を吸い始める。
 食事が終わる頃合で、立ったままの淳が、座卓の悠希に話し始めた。
「ユウキ。一度だけ言うから、怒らないで聞いてよね。
 戸籍の話だけど。急がない方がいい。時間かければ、妹さんにも、わかってもらえるって」
「うん。きっと、そうだよね。でも、やっぱり、おやじが生きてる内に、話はしたいの」

 悪いけど、おやじさん逝った後の方が、戸籍の処理だって楽でしょうに、と思った事を、淳は口にはしなかった。
「あんたは、普通の男が見たら、女にしか見えないよ。だから、急ぐことない、と思うんだけどね」
「外見だけ?」と、笑ってみせる悠希。
 淳は、胸の内で、舌打ちするように、思った。あんた、昔は無理して男やってたけど、今は、無理して女やろうとしてるよ。気長に、経験値、積みなって。

「ありがとう。怒ったりしてないよ。
 でも。決めたの。わたし、お店、辞めるわ。
 こっちに戻って、堅気の女で出直す」
「はぁ? なんだよ、唐突だねぇ」
 前から考えてたのよ、と、首を横に振る悠希。それに、と続ける。
「悠里に、お姉ちゃん、て言ってもらうのが、戸籍より先」
「……堅気って、仕事は、なにやんの」
「別に、今すぐ辞めるつもりじゃないよ。一度、戻って、きちんと相談して。3カ月か、半年くらいの内に辞めれると思う」
 うーん、と、腕を組むジュン。
「仕事は……、これからじっくり、考える」
「決めたんだ」
 うん、と、淳に向かってうなずく悠希。
 淳は、煙草を吸いながら、悠希の顔を、見つめていた。

<未了>

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備考:
ノート=あれこれ、妄想を巡らせてたけど。
このエピソードを、悠希のストーリーの冒頭部原形にしようと思う。
(2007年4月12日)

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