石田衣良、作『びっくりプレゼント』(『4TEEN』所収)改訂版

 『びっくりプレゼント』は、石田衣良さん著の、連作短編集『4TEEN』(フォーティーン)の1篇。採録8作の冒頭に収められている。
 東京の月島界隈で暮らす、中学生男子4人組を描いた短編連作の第1作だ。

 『びっくりプレゼント』では、中学1年生の学年が終わった春休みの間に、4人組が関った出来事が描かれる。
 『4TEEN』では、4人組が中学2年の1年間に、普通の暮らしの合間に経験する、ささやかな“冒険”の物語が編まれてて。『びっくりプレゼント』で描かれる“冒険”は、ことにささやかなものだけど、読後感はいい。

 このレヴュー記事は、『4TEEN』未読の人を想定した紹介文です。2007年4月に初公開した文章を、2009年3月に大幅改稿した改訂版にあたります。

 少しネタバレが多めかもしれませんけど。主に粗筋レベルでのこと。
 粗筋程度のネタバレで、面白さが損なわれるようなヤワな作品でもありませんし。
 それに、物語の1番いいとこについては、直裁には紹介しません。軽い要約で書いたり書かなかったりの方針です。

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 『びっくりプレゼント』は、4人組の1人で、遺伝子性の難病を病んでいるナオトの誕生日に、他の3人が「びっくりプレゼント」を用意する物語。
 ジュン、ダイ、テツローの3人が、ナオトに用意する「びっくりプレゼント」は、4人のそれぞれに、忘れがたいような思い、他の思いとは取り替えようがないような思いをもたらす。

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 春休みに入ったばかりの月曜日。語り手キャラの「ぼく」、テツローは、月島駅の駅前で、仲間のジュン、ダイと待ち合わせる。
 4人めのナオトが入院してる病院に、見舞いに行くためだ。終業式の日まで元気にしていたナオトが入院したことは、中学の連絡網で伝達されてきた。
 3人は自転車で佃大橋を渡り、墨田川の対岸に向かう。

〔前略〕眠たそうな灰緑色の墨田川の両岸には、ガラスとコンクリートの高層ビルがならんでる。二十階建て、三十階建て、なかには五十階を越えるのもちらほら。自分が生まれ育った街なのに、この橋からのこぎりみたいなスカイラインを見るたびに、どこか外国にでもいったような気がする。

 ナオトが入院してるのは、聖路加ガーデンの1角を占めてる聖路加国際病院。
 3人は、聖路加国際病院に、何度か見舞いに来たことがあった。それまでも、ときどき、ナオトが数日間の検査入院をしていたかららしい。
 ナオトの家は裕福な家庭で、4人組の内ではただ1人、億ション級の高級マンションに住んでる(このことは、先々、連作の他の短編で描かれる)。
 『びっくりプレゼント』では、ナオトの病室が、シャワーつき個室(!)だって描写で、家庭の裕福さが描かれてる。病院まで3人が乗ってきた自転車の描写で、テツローくんとジュンの家庭が中流であるらしいこと、ダイの家庭は貧乏らしいことも暗示される。

 ぼくたちが病室にはいっていくとおばさんがカーテンをあけてくれた。白いスチールパイプのベッドでナオトが縦縞のパジャマを着て笑っている。まんなか分けの頭はシルバーのメッシュがはいったみたいに半分白い。染めているんじゃなくて白髪(しらが)なんだ。それよりぼくはナオトの首筋のしわの多さにショックを受けていた。何十本もネックレスをしたように丸いしわがたれて重なり、開襟(かいきん)の首のつけ根まで続いている。あわててぼくはナオトの目を見た。しわだらけでかさかさの顔のなか、目だけはぼくたちと同じ不安でいらいらした、それでも能天気な中学生の目だった。

 作中で、ナオトの持病の病名とされてるのは、「日本では100万人に3人」と言われる早老症の1種の病名。遺伝子異常に起因するものだけど、実際は、作中で言及されてる症候群は、成人期以降に発症することが多いそうだ。

「だいじょうぶかよ、ナオト。今日はいいお見舞いもってきたからな」
 ダイが目配せをしながらいった。〔中略〕
「むりしてこなくてもよかったのに。どうせいつもの検査入院なんだから」
「でもクラスの連絡網では、ぶっ倒れて救急車で運ばれたって話だったよ」
 ぼくがいうと、ダイが口をはさんだ。
「やりすぎて貧血になったんじゃないの。だいたいソーロー症なんて病気の名前があやしいじゃん」
「ダイはなんでもHかくいものの話だな」
 ジュンがあきれていった。ナオトのはソーローは早漏じゃなくて早老だ。普通の人の何倍もの早さで年をとっていく病気。髪が白いのも、顔や手や首筋にしわがあるのもその病気のせい。だけど年をとるのは身体(からだ)だけ。心はぼくたちと同じ中学生のままのはずだ。

 作中では、ナオトの期待余命は、次のような描写の「生存曲線」で示唆される。3人が図書館でコピーした医療雑誌の1頁に収められてたって設定の、グラフの描写だ。
 “うえにはぶっきらぼうに「生存曲線」と題名がはいっていた。十台の後半からじりじり落ち始めた曲線は、二十代も引き続き落ち続け、三十代には滝壺に落ち込む滝のような勢いになる。また目のまえが暗くなった。”

 語り手(テツローくん)の目のまえを暗くするような持病の描写と、「能天気な中学生」の心の描写の混在は、『びっくりプレゼント』に独特の味わいを生んでいる。
 “しわだらけでかさかさの顔のなか、目だけはぼくたちと同じ不安でいらいらした、それでも能天気な中学生の目だった。”
 “心はぼくたちと同じ中学生のままのはずだ。”

 「能天気な中学生」の心と、様々な重いできごとの描写との混在は、『4TEEN』の他の採録作でも味わえるけれど。『びっくりプレゼント』では、ことに新鮮な感じの味わい。

 例えば、3人は、示し合わせるようにして、それぞれ簡単な見舞品を用意してったんだけど。ナオトの母親に見られないように手渡す見舞い品は、3人それぞれの趣味丸出しのエロ雑誌(笑)。
 3人それぞれの趣味が、キャラの個性描写にもなってて、クスクス笑ってしまいます。

 ナオトが三冊の雑誌にざっと目をとおすあいだ、ぼくたちは教室でやるようにバカ話を続けていた。誰かと誰かがつきあってるとか、となりのクラスの図書委員の異常にでかい胸の話とか。ナオトはエロ雑誌をマットの下に押しこむという。
「ダイのが一番おかずになりそうだな。二番はテツロー、最後がジュン。悪いけど、ぼく外人ダメなの」
 ニワトリのとさかみたいなしなびた手を振る。ジュンは不服そうだった。いつも自分の高尚な趣味は頭の悪いガキには理解されないんだと怒ってる。
「単にコギャルが好きなんだろ。まえにナオトに借りたビデオも宇宙企画のセーラー服ものだったじゃん。そういえばナオトもうすぐ誕生日だよな」
「うん、三月二十八日。つぎの土曜日。つまんないけど、今度はパーティーできないよ。退院は無理だっていわれてる」

 病気のこともあって“ナオトの親は誕生日を盛大にやる”習慣だった。3人の仲間は、去年は、高層マンションの34階にあるナオトの家でパジャマ・パーティー。徹夜で、バカ騒ぎをした。

 「退院は無理だっていわれてる」って、ナオトに、ダイは「プレゼントなにがいい。なんでもいってみろよ。このオッサンたちがなんとかするから」と、言い出す。

「プレゼントなにがいい。なんでもいってみろよ。このオッサンたちがなんとかするから」
 ナオトは力なさそうにいう。
「別にないよ。ほしいものはすべてそろってる。うちの親にいえばすぐに買ってもらえるから」
〔中略〕
「プレゼントの中身はわかんないほうがたのしいよ。なんでも歓迎だ。どうせほんとにほしいものは手に入らない」

 「ほんとにほしいものは手に入らない」
 アタシ(紹介者)の印象では、淡々と語られる乾いたセリフで、重い口調では語られてない。
 むしろ軽い口調で語られることで、底の知れないような感情をうかがわせるセリフになってる気がする。

 物語は、“三人のなかで一番成績がよくて、おばさんにも一番受けがいいジュン”が、ナオトのお母さんと交渉、病室で秘密の誕生日パーティーを開く許しを得る、と展開。“秘密”って言っても、あまり騒がないで病院に迷惑をかけない、って線で、3人はオッケーを得る。

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 数日後、ナオトへの「びっくりプレゼント」をゲットしてやろうと、3人は渋谷に向かう。

〔前略〕みんな妙に緊張していた。東京に住んでいると、今日は新宿、明日は原宿なんていうふうに遊んでいると思うかもしれないけど、実際の東京っ子は地元と近くの繁華街くらいしかいかない。電車にのれば十五分だけど、ぼくだって渋谷にいくのは半年ぶりだった。それにカツアゲやチーマーとかのすごい(うわさ)も学校で流れていたし。
 でもしかたない。ナオトの誕生日プレゼントを売っていそうなところは、渋谷くらいしか思いつかなかったんだから。〔後略〕

 知恵を絞って、プレゼントを決めた3人だけど。エンコー(援助交際)やってるナオト好みのコギャルのお姉さんを、びっくりプレゼントに、って決定する“作戦会議”の場面はいい。
 本人たちが大真面目に話し合ってるのはわかるんだけど、「能天気な中学生」らしく、どことなく間が抜けた感じの会話が、ユーモラスで微笑ましい。
 言うまでもないけど、中学2年生のボクチャンたちからすれば、エンコーしてるコギャルちゃんたちは、お姉さんだし。カツアゲやチーマーとかのすごい(うわさ)も聞いてた渋谷に行くのに、“妙に緊張していた”のにも納得。

 案の定と言うか(笑)、3人は、渋谷のギャルたちにシカトされたり“バカじゃないのって顔で”笑われたり、センター街では“AVギャルのスカウトマンに、仕事場を荒らすなってすごまれたり”、散々なめに会う。
 この辺の描写は、コンパクトだけど、中学生が、普通の暮らしの合間に経験する、ささやかな“冒険”で面白い。動機が動機だけに、3人が精一杯頑張ってる様子もわかるし。

 一同は、3時間かけて、渋谷のあちこちを四巡。へとへとになった感じで、「つぎはお前の番だろう」と言われたテツローくんが、ファッションビル(109)の地下で、“階段の三段目につまらなそうにひとりで腰をおろし”てたリカリンに声をかける。
 このエンコーコギャル、リカリンのキャラ描写もいい。ちょっと理想化された描写かもしれないけど、その辺のオチは作品のラストで綺麗に纏められてて、読後感を爽やかにしてます。

 物語の山場は、もちろん「びっくりプレゼント」が病室のナオトに届けられる3月28日の誕生日。
 誕生日の日の出来事は、情感豊かに描かれてて、読み応えがあります。是非、作品で読んでください。

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 新潮文庫版『4TEEN』に収められている著者あとがき「四人の十四歳へ」によると、『びっくりプレゼント』は、池袋ウエストゲートパークの最初の単行本が刊行された4ヵ月後に1週間で書き上げられた作品だそうです。
 新人時代の石田さんが、デヴュー誌「オール読物」以外に、はじめて書いた作品とのこと。

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そういうのがいいな、わたしは。(読書日記) から 日, 2007-11-04 03:38 受信

4TEEN フォーティーン (新潮文庫)石田 衣良 内容紹介 東京湾に浮かぶ月島。ぼくらは今日も自転車で、風よりも早くこの街を駆け抜ける。ナオト、ダイ、ジュン、テツロー、中学2年の同級...


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