魔法のおさけのつくりかた。(仮) Ep002
魔法のおさけのつくりかた。 Ep002
どこまで行けば、いいんでしょうか。
「はあ、ああ、もう、坂なんて、ない、じゃない!」
田舎町の駅員さんから教えてもらった道。このあぜ道の先にある坂を超えた所に、目指す場所はある、らしい。
そう、あるんだ。魔法使いの町が。
いや、本当にこの先に魔法使いの町があるかといえば、確かではないんですけど。この道を教えてくれた駅員さんは、わたしの肩に泥手形を残して消えちゃったし、駅員さんの言う真木乃町って町が、絶対に魔法使いの町であるかどうかは、聞けなかったし……。
坂のさの字も見えないまま、気分だけが暗くなる。カバンはむっちゃくっちゃ重いし、自然、視線は下へ下へ。いつのまにか、砂っぽい路面をじっと見つめて歩くだけになって、頭もぽわんとしてきて、思わず溜息を付いて。
顔を上げて、へ? と思った。
「あ、あれ?」
まわりを見回す。青々とした木々の連なり。ひんやりとした、でも清々しい香りの潜む風。そして、目の前にそびえたつ、視界を覆う坂。
夢でも見たのかと思った。だって、わたしはさっきまで田んぼの間を歩いていたはず。
なん、だけど。周囲でざわめく森の感触は、とても夢のようには思えない。でも、ちょっと気になったから、そっと頬に手を伸ばして。
「い、いふぁい」
やっぱり、夢じゃない。じゃあ、ここは一体どこ?
……でもこれ、坂、だよね。
いやおうなくドキドキしつつ、一歩、坂に足をつける。最初からきつい角度。カバンの重みが、ぐいっと五割増しくらいになった。
二歩、三歩と上がっていく度に、地面の角度はどんどん急に。これでこの先に何もなかったら、流石のわたしでも怒る。怒って泣いちゃうぞ、もう。
「ひい、ふう、はあ」
息切れするのが早いって? だってわたし、文科系だもん。運動なんて苦手、だっ、もん。
なにが信じられないかって、斜め四十五度はあるんじゃないかという、この坂の傾斜。カバンを引っ張ってちゃ腕がもたないから、カバンを前に構えて、ひたすら押す、押す。
そんなに日差しは強くないのに、じわじわっと額に汗が浮いてきた。息が詰まる。でも押す。押さなきゃ行けない、魔法使いの町に行けない。わたしは行くんだ、行って覚えるんだ。魔法を。みんなを幸せにする魔法を!
ぐいっ、と押した瞬間、カバンの重力がなくなった。
「へ?」
それだけじゃない。さっきまで上向き四十五度だった坂が、今は逆に。え、えええ!?
「わあああああ!」
転げるカバン。その後ろで転げそうになりなるわたし。ストップかける暇もなく、二人並んで坂を駆け下りていく。
なるほど、これだけ急なら登りにくいのもわかるというもの。自分の足が乗っ取られたようにぐるんぐるんと回転して、逆に頭はとても冷静……だけど、坂の下、緑色のなにかが広がってる。このままいくと、突っ込む?
「うわわわわ!」
慌てたところでもう遅い。大地があっという間に迫って、とっさにブレーキかけようとして、代わりに足がもつれてしまった。
「きゃあ!」
かばう間もなく顔面から。あーあ、眼鏡が壊れちゃうな、と、やけに冷静に受け止めて。
瞬間、柔らかい感触が全身を包んだ。
スポンジ? いや、それよりももっと柔らかくて、むせ返るような草の香りが漂う地面。
ぶはっ、と顔を上げて、やっと正体がわかった。これ、草だ。幾重にも重なった草の層。
草のクッションのお陰で、わたしの体にはケガはない。横を見ると、倒れたカバンが草にまみれてた。はいはいしながら近づいて、引き起こして傷を確かめる。うん、大丈夫。
でも、この草のクッションは、いったい何なんだろう。というか、さっきまで坂を上ってたのに、なぜ、急に下り坂に?
振り返った先にあるのは、遠く高く続く登りの坂道。わたし、ここを駆け下りたんだ。
……まさか、これも含めてぜんぶ夢とかじゃないよね。ちょっと、確かめてみよう。
「や、やっふぁふぃいふぁい」
夢じゃないんだ。じゃあ、ここはどこ?
首をかしげたとたん、風の渦が吹き抜けた。
「わ!」
風に押されて向いた先。坂道の続く先。そこに広がる、西洋の港町を思わせる街並み。
潮の香りが、かすかに香る。新緑と青海と、七色の屋根が眩しく映る。ここが、そう。
真木乃町、なんだ。
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