魔法のおさけのつくりかた。(仮) Ep003
魔法のおさけのつくりかた。 Ep003
うきうきしてたのは、ほんの半時。
「ええと、ここが一丁目で、こっちは……」
ええ、ご察しの通り、完璧に迷ってしまいましたとさ。でも、だってだって。誰だって、初めて訪れる町に地図も持たずに入ったら、わけわかんなくなるでしょう?
それに加えて、この町はどこかおかしい。高い建物を目印にして一直線に進んでいるはずなのに、いつのまにか目印が横目に見えてたりする。角を二つ曲がっただけで、最初と同じ場所に出たときは、背筋がぞっとした。
今、必死に追いかけてる何丁目かの表示だって、三丁目の隣に十三丁目なんて書いてあって、とてもアテにならない。ここに来るまでさんざん歩かされたのに、あと何時間歩けば良いの? もう、めげそう。
でもどこかで、わくわくしてる自分が居る。
だって、道に迷えば迷うほど、ここが魔法使いの町だって確信が強くなっていくから。
三つの山と二つの川、それに一つの坂を越えた先にある、海と山に挟まれた小さな町。それが、わたしが今立っている真木乃町って場所。おばあちゃんや駅員さんの言葉を信じるなら、ここは魔法使いの町なんだ。
でもなぜか、わたしはいまだ、この町の住人に出会ってない。人どころか、ネコの子一匹さえ。まさかゴーストタウン? いやいや、それにしては町が死んでるって感じじゃない。
ぐるぐる渦巻く考えは、足がじわじわ痛んでくるのに従って、風船のようにしぼんでいく。ああもう、疲れた、もう歩きたくなーい。
ため息ひとつ。ふと、首筋に視線を感じた。
振り返って、視線の近さにうわっと驚く。地面に引いたシートの前で、小さな椅子に座るハンチング帽の大男。ごつっとした四角い顔でじっとこちらを見つめる目は、まるで獣のように鋭くて……こ、怖い、怖いよお。
「おい」
「は、はい!」
「何か買ってけ」
「……はい?」
言われてやっと気づく。薄茶色のシートの上には、大小さまざまなアクセサリーが並べてあった。動物のものらしい牙や爪に、革や布で細工した小さなお守り。日の光を受けて鈍く光るそれは、とても綺麗。ただその隣には、笛みたいに穴の開けられた骨とか、なにこれっていうのも平然と置いてあるのだけど。
思わずお守りに手を伸ばそうとして、はっと手を戻す。大男さんが、む? と唸った。
「どうした」
「いや、その、わたし、あんまりお金、持ってなくて」
持ってないというか、むしろ無一文。ここに来るまでの旅費で、少ない貯金はぜんぶ使い果たしてしまった。
……って、それわ、かなりヤバイのでは。
今更ながらに、自分の無計画さが重くのしかかってくる。思わずフラリとめまいを起こして、へなへなと座り込んでしまった。
はああ、とため息ついたって、幸運がやってくるわけじゃない。これから、いったいどうすれば良いんだろう。
悩む間に、ふと日がかげった。顔を上げる。大男さんの怒ったような顔。う、とうろたえている間に、ごっつい手が、意外なほどの素早さで、わたしの首に何かをかけた。
視線を下げれば、銀色の牙が一つ。
「あの、これ」
「お近づきの印ってやつだ。あんた、この町は初めてか?」
「あ、はい、初めてですけど……その、一つ、聞いても良いですか?」
ん? とまるで犬かなにかのようにうなる大男さん。胸がキュッと詰まるのを感じつつ、言葉を選んで、選んで、結局、やっぱりこう言うしかなかった。
「ここは、魔法使いの町、なんですか?」
「おうよ」
あまりにも軽い返事。思わずへえと頷いて……ええええええええええええええええ!?
口をあんぐり開けたまま、固まってしまうわたし。大男さんはそれを見て、二ヤッ、と意味深な笑みを浮かべた。
「そんで、おまえさん、この町に何の用だい」
「あ、いや、その、そう、そうです、わたし、魔法使いに、魔法使いになりたいんです!」
「ほほう。で、アテはあるのか?」
「……えーと」
言葉に詰まるわたしを見て、大男さんはわっしと立ち上がる。右手でわたしのカバンを掴んだ大男さんは、それを片手でやすやすと持ち上げる。力を入れる素振りさえなかった。
「あ、あの」
「案内してやる。魔法使いの店によ」
たったそれだけ、大男さんは呟いて。
わたしはただただ、付いていくだけだった。
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