一条ゆかり、著、『プライド』1,オペラ歌手(の卵)のラブ&バトル
『プライド』は、ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの、雑誌連載継続中作品(2007年4月現在,「コーラス」連載)。1巻には、2003年2月号~7月号の掲載分が採録されている、とのこと。
水と油のような性格の2人の女性キャラと、美青年男性キャラが絡むラブ&バトル。一条さん得意中の得意の展開。『プライド』では、オペラの世界を中心に、音楽業界の関係者が、入り乱れます。
作中人物に「クール・ビューティ」と呼ばれる麻見史緒は、一流音大で声楽を学んでいた。4年生で卒業も近かった史緒と、やはり声楽を学んでいるけど、一流とは言い難い音大の3年生だった緑川萌との出会いには、はじめから、ちぐはぐな食い違いが多かった。
物語は、小さな貿易会社の社長の令嬢である史緒の家に、月に1度入るクリーニング・サービスのバイトで、萌が訪れる日の出来事から始まる。
史緒の広い私室にはグランド・ピアノが置かれていた。驚く萌だが、1枚5万円のオペラ・コンサートのペア・チケットには、さらに驚く。
父から、急にコンサートに行けなくなった、との連絡を受けた史緒は、会ったばかりの萌を誘う。グランド・ピアノとチケットの話題をきっかけに、互いにオペラ好きと紹介しあっていたからだ。
「無駄にするより/行きたい人が/行った方が/いいでしょ」とチケットを差し出す史緒。
「あの…/でもそんな/高いもの」と、躊躇う萌。
「高くても/安くても この/チケットは もう/いらないのよ/
あなたが/行きそう/だったから/言っただけで/
ゴミ箱に捨てるのも/あげるのも/同じなの」
ここまでで、見開きのタイトル・ページと、その裏の空頁(単行本では1コマ、史緒のカットが据えられてる)とを含めて9ページ。
コンサート会場では、恵まれた史緒を「ズルイ」と羨む萌と、何も卑怯な事はしていない、と正論を言う史緒が口論。史緒はコンサートの途中で、帰宅してしまう。
その晩、史緒は、帰宅した父から、経営していた会社が倒産した事を告げられる。
ここまでで、最初の頁から、23ページ。
史緒は、家庭の事情を、オペラ歌手でもあるゼミの教諭に話して、卒業後の身の振り方を相談。教諭の勧めで、翌月催されるオペラ歌手を目指すアマチュアのコンテストに、応募することにする。金賞はイタリア留学だ。
そして、コンテスト当日。史緒は、やはり参加していた萌の意外なほどの表現力を知り、驚く。
事実上の決戦。「普段の実力を/出せば絶対/勝てるわ」と励まされる史緒に、舞台から下がってきた萌が、ある事をささやく。それは、史緒がまだ幼い頃に、死んだ母の、死の真相だった。
動揺したまま舞台にあがった史緒は失敗し、イタリア留学の権利は、萌が獲得する。
授賞式の後、会場ロビーで、史緒は、萌を非難する。
「恥知らず」
「あんなことで/歌えなく/なるなんて/
麻見さん案外/気が小さいん/ですね」
〔中略〕
「恥知らず!!/そんな事まで/して優勝した/かったの!?」
〔中略〕
「もっと殴っても/いいですよ/
それとも/土下座しま/しょうか?」
「なに…/言ってるの…/
あなた/プライドは/無いの?」
「そんな役に/立たないもの/
捨て/ました」
後に「目的のためなら/手段を選ばないほど/追つめられて/いる女」と、作中で評される萌の、史緒に向けた宣戦布告と言っていい。44ページめから、45ページめの頭にかけてのやり取りだ。
掴みはオッケー、よね☆
え? ネタバレさせすぎ??
そんなことはありません。この後、もっと面白くなるんだから。
ウソだと思ったら、読んでみて。
45ページまでの間に、主要なキャラクターは、全員顔を見せてる。後に、重要な新キャラも登場するけど。史緒と萌のラブ&バトルに関わり、振り回されていく人物は、ほぼ全員、45ページめまでに出揃ってる。
『プライド』1巻に採録された本編は、タイトル・ページ込みで、191ページ。
巻頭から1/4以下のボリュームで、天敵とも思える史緒と萌の出会いが、萌の緒戦勝利と、宣戦布告とでブレイクに入るところまで描かれてる。
そして、お嬢様だった史緒は、生まれてはじめての1人暮らしをはじめる。家は差し押さえられ、父は、海外に住む知人が営む牧場経営に参加するため出国していく。
幼い頃に死別したママのようなオペラ歌手になる、との夢を持つ史緒に、父は「一緒には…/行かないよね」としか尋ねられなかった。
一方、プライドなんて役に立たないものは捨てた萌は、「どんなに/みっとも/なくっても/与えられた/チャンスに/食いつく事」を、導きのようにして、成り上がり目指して邁進していく。
ちなみに「どんなにみっともなくっても~」は、クイーン・レコードの若き副社長、神野(美青年)が、偶然に、萌と史緒との口論に立ち会った時、気まぐれのように萌に与えたアドバイス(の一部)だ。
恵まれた環境から転落した史緒は、それでも、夢を目指してプライドを捨てずにやって行こうとする。
プライドなんて捨てた、と言う萌は、娘が稼いだバイト代をホストに貢ぐような母との暮らしと縁を切ろうと、手段を選ばない成り上がりに挑む。
2人は、人間関係と、理想と野望、そして、若干の偶然に導かれるようにして、同じ職場で仕事をすることになるのだった。
最初に「水と油のような性格の2人の女性キャのラブ&バトル」って紹介したけど。
うーん、1巻の大筋「だけ」紹介すると、まるで「理想と野望と、プライドをめぐる女2人のバトル、ラブはちょっとオマケ」って感じよね。
困ったわ。
萌の健気さと、史緒の可愛さを、少しでも紹介しなくては。
『プライド』1巻の「ラブ&バトル」について、肝のところのネタバレは避けながら、もう少し書いてみましょう。
萌は、ちゃんと恋愛してるのよ。でも、「どんなにみっともなくっても与えられたチャンスに食いつく」と決めて、自らプライドなんて役に立たないものは捨てた彼女は、実は、自分が思うほど器用には、恋愛で立ち回れてない。
それどころか、常に、恋愛よりも成り上がりを、自ら選ぶ選択を、どんどん重ねてく。自分で自分を追いつめてくようなもんだけど。その心理は切実で、やる事なすこと、ど汚いけど、健気。
一方、史緒は……。1巻の史緒は、恋愛不感症(笑)。
世間知らずの自分を置いて出国することに、不安を覚えている父親を安心させようと、同じ大学のピアノ科のアイドル蘭丸(美青年)に頼み込んで、ナンチャッテ・フィアンセを演じてもらう。
この、ごっこ遊びそのものの、恋人ごっこが、おそらく史緒が、はじめて体験する、異性との親密な(?)人間関係。もちろん、父を安心させた後、短期間で、ものの見事に決裂(笑)。
これまでの自分があまりに恵まれていた、これまでの自分にとっての普通は、大多数の人にとって、見下していることになっていた、と、やっと気づいた史緒は、深く落ち込み、反省をする。
反省した末、自分が相手なら、もう2度と自分と口を利こうとしないだろうとか、思いつめちゃう。
だから、それは、あなたの普通なんだって(笑)。この不器用な生真面目さが、可愛い。
一条 ゆかりさんのメロドラマは、本当に面白いっ☆
世間では、しばしば“メロドラマ”って、陳腐なほど定型的で、とてもドラマチックとは言えない、上辺が大げさなだけのドラマもどき、みたいな含みで言われるけど。アタシも時として、そういう色眼鏡で、メロドラマのジャンルを見ることはあるけど……。
一条ゆかりさんが描くメロドラマは、徹底してる。徹底的にメロドラマなのよ。
一見、定型的に見えても、定形からはみ出すようなキャラの言動が、訴えかけてくる。
オペラ歌手って、題材もいいわよね。オペラ歌手が大げさでも、なんとなく、そんなもんかな、とか思っちゃう(笑)。
1巻では、天敵同士の2人の出会いと、身辺の変化。それぞれの女の、割と奇妙で大げさだけど、説得力のある言動の対照が楽しめます。
2巻での波乱を予感させ、1巻は、とりあえずの幕を閉じるのだ。
1巻を楽しんだら、2巻、3巻と読み進むことをお勧め☆
2巻でいよいよ激しくなるバトル、不器用にもつれていく恋愛関係。そして、1、2巻のドラマを「溜め」のようにバネにして、一気に飛躍する3巻冒頭が最高、気持ちいい☆
====
書誌情報:
一条ゆかり,『プライド』1(クイーンズコミックス コーラス),集英社,Tokyo,2003.
ISBN 4-08-865142-1
この記事へのトラックバックURL:
ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの最新作『プライド』。
オペラ歌手の一流を目指す美女2人、史緒(麻見史緒)と萌(緑川萌)の、プライドを巡るラブ&バトル☆
9巻が刊行
『プライド』は、ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの、最新作。
一条さんほどのベテランになると、新作を読む前に、読者が予想するメージは結構いろいろ。
『砂の城』の一条ゆか

最近のコメント
12時間 24分前
13時間 40分前
2日 13時間前
2週 5日前
2週 5日前
3週 1日前
4週 5日前
6週 3分前
7週 5時間前
8週 2日前