石田衣良、作、『池袋ウエストゲートパーク』の中篇

池袋ウエストゲートパーク』って、タイトル名を聞いたことある人、知ってる人は多いと思う。
 石田衣良さん作の小説連作のシリーズ名で、TVドラマ『I.W.G.P. 池袋ウエストゲートパーク』の原作。
 シリーズ1冊目の作品集の題名も『池袋ウエストゲートパーク』。
 シリーズ最初の、中篇の題名も同じ。
 この、シリーズ最初の1編について、不必要なネタバレを避けながら、紹介をしてみたい。
 小説家、石田衣良のデビュー作で、1997年のオール讀物推理小説新人賞(第36回)の受賞作だった。

 池袋西口公園(おれたちはカッコをつけるときはいつも「ウエストゲートパーク」と呼んでいた)〔後略〕

 こんなふうに語る語り手のキャラは、真島誠。通称マコト。
 地元の工業高校を卒業して、池袋西一番街で母親が営んでいる小さな果物屋、ウエストゲートパークまで、歩いて5分、を手伝う事になる。父は、死別している。

 中篇『池袋ウエストゲートパーク』は、真島誠が、工業高校を卒業した年に関わった一連の出来事が、事後に回想しながら語られた物語。
 高校を卒業した年のマコトが「まともに就職もできなかったし、する気もなかった」ので、「プーになった」年に数ヶ月に渡って断続した出来事が回想される。

 おれのPHSの裏側にはプリクラが一枚貼ってある。おれのチームのメンバー五人が狭いフレームになだれ込んで移ってる色のあせたシール。フレームの絵柄は緑のジャングル。バナナめあての下品な猿たちがスイングしてる。それはこっちの世界と変わらない。プリクラのなかには、ほっぺたとほっぺたをくっつけて、最高に面白い冗談を今聞いたばかりって顔が並んでる。もちろん、ヒカルもリカもいる。なにがそんなにおもしろかったのか、おれはおぼえていない。

 長めに引用しちゃったけど。
 引用したのは、中篇の冒頭部。
『池袋ウエストゲートパーク』ではすでに、石田衣良さんの基本スタイル、長短様々の断章を構成する手法が打ち出されてる。
 引用したのは、最初の断章の部分で、半分以上に渡ってる。
 引用部の後には「そんなシールをいつまで貼ってるんだ」って言う奴には「適当にこたえる」と、続き、「けど、本当はなぜなのか、おれにもよくわからないんだ」と、断章が締められる。

 メインプロットで語られるストーリーは、物語内のメディアに、「ストラングラー(絞殺魔)」と呼ばれた連続絞殺殺人者の起した事件、マコトとつるむようになっていたリカが殺人事件の被害者になった出来事、元々リカのつれだったヒカルとの出来事、などなどが編まれたもの。
 ストーリーは、「マコトが池袋のトラブル・シューターとして、ストリートで知られるようになる最初の事件の顛末」と、要約することもできる。
 TVドラマ「I.W.G.P.」では、複数回放送分に渡る、長めのプロットの原形として使われていた。

 小説版の真島誠は、シリーズを通じて、池袋の街のトラブル・シューターとVigianteの間を揺れ動くような一面を見せていくことになる。
“Vigiante”は、今のところ日本語に訳しづらい、強いて言えば“Vigiante”は、「警戒する者」とか、「ワンマン自警団」とか、あるいは「自発的ボランティアの夜警」とか。
“Vigiante”は、時として私刑の執行者に転じるんだけど、中篇『池袋ウエストゲートパーク』の物語では、マコトが、ぎりぎり私刑の執行を踏みとどまるような箇所がある。読みどころの1つだろう。

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 中篇で語られる一連の出来事は、6月頃からのもので、多分、秋口にかけて起きたように思える。
「語り手の今」は、当然、語られた出来事よりも後だけど。具体的にいつなのかは、中篇からだけでは、特定できない。
「ちょっとしたトラブルがあって、今回の礼に」Gボーイズを「手伝ったことがあるが」、それは「次の機会にでも話すよ」、とも語られていて。この「ちょっとしたトラブル」よりも後になる「いつか」とは知れる。

 ただ、中篇で語られた物語内の出来事の翌年のいつか、と思える。
 なぜかと言うと、作中「去年の夏おれは小銭のあるときや仲間の誰かが金を持ってるときは、たいていの時間を池袋西口公園のベンチで過ごした」とあるから。
 マコトは、『池袋ウエストゲートパーク』の中篇で語られた一連の出来事の後「ちゃんと店をやるようになった」。
 だから、この「去年の夏おれは~」の「去年」は、高校を卒業した後「金がなくなると、おふくろがやってる果物屋を手伝って小遣い銭を稼いだ」時期を回想する時間差であるはずだ。

 例えば、作品冒頭に置かれた断章の語りも、「翌年のいつか」からの回想と思って読むと、もっと近い時期からの回想として読むより、腑に落ちるような気がする。

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 小説版の真島誠は、後にストリート・ファッション誌でコラムを担当するライターになる。ライター専業とは言えないけど、署名記事の連載もちだ。マコトのコラムには、隠れファンもいるらしい。
 作中人物に「汚いものを美しく書きすぎる」と評される(『少年計数機』)のが、小説版のマコトのコラムらしいんだけど。中篇冒頭部の語りに込められた感傷は、アタシは嫌いになれない。
 ウェットな感情は感じさせるけど、それを表に出したくないって、含羞も同時に抱いてる様子が窺える、そんな語りだ。

「なにがそんなにおもしろかったのか、おれはおぼえていない」シールを、いつまでもPHSの裏に貼ってる。「本当はなぜなのか、おれにもよくわからないんだ」と、語りだされる物語は、ただ事件の顛末を要領よくまとめただけのストーリーではない。トラブル・シューターとしての手柄話ですらない。

 強いて言えば「本当はなぜなのか、おれにもよくわからない」思いに突き動かされて語ってみた物語とも、マコト自身「よくわからない」気持ちを手繰りながら語った物語とも思える。
 少なくとも「おれにもよくわからない」部分は、ストーリーを経由して、物語の内容(コンテンツ)を読み解いていく糸口ではあるだろう。

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書誌情報:
石田 衣良,『池袋ウエストゲートパーク』,文芸春秋,Tokyo,1998.
ISBN 4-16-317990-9

石田 衣良,『池袋ウエストゲートパーク』(文春文庫),文芸春秋,Tokyo,2001.
ISBN 4-16-717403-0

備考:
“Vigiante”について=Vigianteのことを、「自警団の団員」とか書いてる辞書があったけど。この説明は、なんだかピンと来ない。
自警団があってその構成員がVigianteってイメージは、原語のものとは考えづらい。Vigilanteが複数集まって、自警団が結成されるというイメージの方が優勢と思える。
(もちろん、形容詞Vigiant、って言葉もあって、そう簡単に割り切れないって言う理屈もあるだろうけど)
付記:
レヴューの内容に及ぶ、微妙な修正の覚え=2007年4月28日に最初のアップ。
5月9日に、数箇所に微妙な修正と文章構成の大幅変更を加えました。曖昧だった記述を絞るような修正を加えたんだけど。修正がきっかけになって構成の変更に及びました。

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『池袋ウエストゲートパーク』書影

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いちおう入ってないので書いときます。


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