一条ゆかり、著、『プライド』7,刹那のS.R.M.☆(3訂版)
ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの最新作『プライド』。
7巻って、ことに面白いんですよ。
『プライド』は、オペラ歌手の一流を目指す美女2人、史緒(麻見史緒)と萌(緑川萌)の、ライバル関係を主軸にしたラブ&バトルの物語。
ここに、レコード会社の若き副社長(神野隆)が絡んで3角関係。それだけのお話なら、シンプルなんだけど。
もう1人、女装の似合うピアニスト(蘭丸)も絡んで。しかも、物語上の重要度は、この女装もするピアニストの方が、ライバル関係の美女2人に次ぐ重み。
3人でユニット組んだり、空中分解したり、再結成したりするくらいだから。
それやこれやで、展開の細かな紆余曲折はかなりややこしいんだけど。味わい深い♪
アタシ(紹介者)に言わせれば、マンガ家一条ゆかりって、「メロドラマの達人」で。その手腕をともかく堪能できちゃうのが、7巻♪
この記事では、『プライド』7巻の内容について、不必要なネタバレは避けながら、読みどころをご紹介してみます。2007年5月に初公開した旧版を、2009年2月に大きく改稿しています。
6巻までの内容は、必要に応じて、随時言及しますので、ご了解あれ。
用語:プライドから、色々レヴュー記事もたぐれますので。よければ、どうぞ。
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『プライド』の7巻は、全編の内でも相当に盛り上がる♪
この文章は、10巻刊行後の時点で書いてるんだけど。
7巻では、まず6巻までに描かれた作中人間関係が、一端、再収束。少しズレたタイミングで、8巻以降の展開に向けて動きはじめもする。
5巻で世界各地に散ったユニットS.R.M.の3人が、CM撮影のため、日本に再結集。
4巻で空中分解して、5巻で決定的に破綻したユニットS.R.M.も、短期再結成される。
アタシ(紹介者)としては、撮影初日朝に史緒と蘭丸が会話する場面から、1発OKが出た録音を経て、直後に蘭丸が「“INVOCATION”では何の役を想定してるの?」って史緒に尋ねる一連のシークエンスを、読みどころとして推したい。
特に、初日朝の会話シーンは、息が詰まるような雰囲気の名場面♪
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S.R.M.のCM収録は、正月に海辺の録音スタジオ付バンガローで、短期集中合宿のようにおこなわれる。
時差もあって、夜明け前に起きだした史緒が、日の出を見てるとこに、蘭丸がやって来て声をかけ。
「バタバタしてて言うの遅れたけど/この仕事引き受けてくれてありがとう」「すごくやりたかったんだ」
この語りかけは、すごくいいセリフで。蘭丸の気持ちがいっぱい詰まってる。ザッと、2巻から7巻までくらいの気持ちが詰まったセリフ。
CMでも使われるS.R.M.の“INVOCATION(祈り)”は、元々、長年蘭丸が温めてきた楽曲で。“さまよう魂”を想わせる萌の歌声を聴いた蘭丸が、萌想定で本格的に曲を作り出したのが2巻でのこと。
3巻で、萌と史緒との奇跡のようなコラボを聴いた蘭丸は、すでに天敵関係になってた2人と3人でユニットを組むって無謀な提案をする。
当時、史緒は、もう神野のプロポーズを受け入れオペラ留学を決めてたので、「留学まででよければ」って約束でS.R.M.に参加。ところが、萌が神野を慕ってると知った、とゆーか教えられた史緒は、婚約を秘密にする。恋愛不感症の史緒以外は、萌が神野に寄せる気もち、みんな気づいてたんだけど(笑)。
当初、S.R.M.の活動は、順調に進んだんだけど。史緒は蘭丸にぐんぐん惹かれていった。てゆーか、神野のプロポーズ以前から、蘭丸に惹かれてた自分の気持ちに気づいた。史緒は恋愛不感症なので、この辺、変なのだ(笑)。
蘭丸の方も、やっぱり史緒に惹かれてったんだけど。後から、神野と史緒の婚約を聞いて愕然。
これが、S.R.M.の解散が決まった「後の」、記念ミニ・アルバム収録スタジオのことで。同時に婚約を知った萌が、ブチ切れて大暴れしたもんだから、ミニ・アルバムは結局作製されなかった。(5巻)
そーゆーわけで、7巻の蘭丸の、「この仕事引き受けてくれてありがとう」「すごくやりたかったんだ」ってセリフには、すっごく色んな気持ちが詰まってる。
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史緒って、恋愛経験値小学生並みな女で。
最初にS.R.M.やってた頃の事は、萌に言わせれば「蘭ちゃんのこと好きそうにしてたくせに/こっそり神野さんとも付き合ってる女」。
でも、誰が見ても神野を慕ってる萌の素振りを、登場人物ではただ1人気づかなかった史緒のこと。アタシが思うには、蘭丸に惹かれてる自分の気持ちが、傍から見れば「蘭ちゃんのこと好きそうにしてた」ように見え見えだったなんて、考えてもなかっただろう気がする(笑)。
20も越えてそんな女いるのか? って言うと。いないこともないし。史緒ってそーゆーヤツって描写は、作中でも繰り返し描かれてる。
蘭丸の方は、史緒と神野氏との婚約を聞いて大混乱したんだけど。結局、二股かけられて、火遊びの相手にされた、みたいな納得の仕方をした。史緒本人に「俺は火遊びの相手かよ!?」って、問いただして、「そうよ」って言われるシーンもあったし(5巻)。
でも、これは、蘭丸が“世界の”ベティって1流ピアニストに見出された、って知った史緒が、蘭丸はベティの弟子としてニューヨークに渡るべき、って考えて言ったセリフ。
メロドラマチックだけど、アタシは、史緒らしいとは思う。
この辺の史緒が考えてることに蘭丸が気づいたのも、7巻のS.R.M.再結集の時のこと。
久しぶりに蘭丸と再開した史緒は、「ベティのワールドツアーでツインピアノを弾くことに!!」なって、“INVOCATION”で世界デヴューをすることになった、って聞いて泣き出しちゃう。
姑息に涙は隠すんだけど、化粧室で“良かった……/良かった…/本当に良かったんだ/あの時の辛い決心は/ まちがってなかったんだ”とか思う。
これで、他人に気づかれないと思うのは、史緒くらいで(笑)。さすがの蘭丸も、恋愛感情に不正直な史緒の考えに、やっと気づくわけ。
史緒が「恋愛経験値小学生並み」って描かれてることで、「悪女の深情け」的展開や「恋の手練手管」的展開になってないとこも『プライド』って物語の面白み。
こんなふうに整理すると、読者の方には、それって恋愛を綺麗事で処理したオトギ話なんじゃぁないの? 的疑惑も浮かんでくるかもだけど。そうした批評的視点は、作中の萌が体現してきてる。
例えば、CM撮影のオファーを受けたとき萌は“信じられない……/何で引き受けるのよ あの女は”とか思ってる(6巻)。
やっぱり史緒って、それなりに恋愛経験ある人間からみれば「信じられない」ようなことばっかするオンナなのよ(笑)。
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そんな、いろいろが錯綜した内でのCM撮影、初日の音楽録音の日に、日の出を見ながらの2人の会話になる。
バタバタしてて言うの遅れたけど/この仕事引き受けてくれてありがとう/
すごくやりたかったんだ/
次のコマで、史緒は「私も/ずっと心残りだったから/電話をしてくれてよかった」って応える。
同じコマには、細字書体で、“2人っきりになることなんて/無いと思ってたのに”って、心中モノローグが被ってて。
この心中モノローグ。画面や構図の流れからすると、蘭丸のモノローグと思えるんだけど。
そのまま、史緒のモノローグでもおかしくないセリフ。
どっちにしても、息が詰まりそうな感じで会話してる、2人の様子がわかる名場面♪
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この後、2人きりの会話はもう少し続いて。史緒の方のいろんな気持ちも描写される。
面白いのは、史緒の方は、“ずっと気になっていた/やり残していたことを形にする”ことで“いつまでもフラフラしている自分の気持ちを/思い出に変える”つもりで、CM撮影に臨んでるとこ。
(このモノローグは、CM撮影のために帰日する機内の場面で読める)
蘭丸は、会話の間、“こうやってると何も変わってない気さえする/俺の横で史緒クンが目を輝かせながら歌の話しをする”“こんな時間を一緒に過ごそうと”って、思うんだけど。
実は、蘭丸がどう思おうと、この時の2人の時間は別の方向を向いてる。
この件は、成功に終わる“INVOCATION”の録音直後に蘭丸も納得する様子が描かれる。
俺と史緒クンの/時はいつも 微妙に/ずれていると/
ママが/言ってたけど/今だけは/
こうして時が/合って--/
留まろうと/すると/さまよって/しまうのか/
蘭丸と史緒の時はいつも 微妙にずれてる、みたいに蘭丸ママが言ってたのは、5巻で史緒と神野の婚約を突然知った蘭丸がヘコミまくってた時のこと。
もちろん、ここで言われてる「時間」は、時計が刻むような時間のことじゃぁない。
そうではなくって、それぞれのキャラの生活や人生の時間のこと。
マンガ『プライド』の面白みは、長いプロットが収束する場面、キャラごとのサブ・プロットが収束する場面でも、キャラクターたちの間に孕まれたズレまで描写されてるとこ。
つまり、萌は主役史緒のライバル役としてだけ描かれてるわけではなくって、萌は萌の人生を生きてるキャラとして描写されてる。これは、萌と史緒を逆にしても一緒。
蘭丸も、史緒の恋の相手役としてだけ描かれてるわけではなくって、蘭丸は蘭丸の人生を生きてるキャラとして描写されてる。これも、蘭丸と史緒を逆にしても一緒。
果たして、史緒と蘭丸の“時間”が、テンポを合わせて同じ方向に向かって流れ出すようになるのでしょうか?
それは、現在進行形で連載継続中の今は、まだ、わからない。
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長々紹介した史緒と蘭丸の会話の後、CM撮影では、まず、先行する音楽収録が、奇跡のように1発OK。史緒、萌、蘭丸のそれぞれが、グレード・アップしてる様子が描かれる。
続く、画像撮影現場の場面以降でも、S.R.M.の3人、それぞれの想いが錯綜。
次々と小さな波乱が連鎖して描かれて、メロドラマの達人、マンガ家一条ゆかりの手腕が堪能できます♪
例えば、苦労人の萌が、元お嬢様の史緒の甘いとこを突きまくるけど。この辺は、萌の言うことが正論で、史緒が甘いって場面で、読んでて面白い。
そんないろんな出来事の連鎖の内に、先々の大きな伏線も、さり気に仕込まれてるとことか、一条さんの料理はやっぱり憎い♪
そんなわけで、頁数は割かれてるけど。イメージの上では、バタバタっと。あっと言う間に過ぎる印象の、日本でのCM撮影。
撮影終了後は、女装のピアニスト、ラン(蘭丸)の世界デヴュー。
そして、物語は、史緒と萌とが共に参加するコンクールに向かうのだった。
8巻では、久々に、公式舞台上での競い合いが読めますっ☆
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書誌情報:
一条ゆかり,『プライド』7(クイーンズコミックス コーラス),集英社,Tokyo,2007.
ISBN 4-08-865394-7
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ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの最新作『プライド』。
オペラ歌手の一流を目指す美女2人、史緒(麻見史緒)と萌(緑川萌)の、プライドを巡るラブ&バトル☆
9巻が刊行
ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの最新作『プライド』。
オペラ歌手の一流を目指す美女2人、史緒(麻見史緒)と萌(緑川萌)の、ライバル関係を主軸に展開するラブ&バトル

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