奥瀬サキ(原作)、目黒三吉(漫画)『低俗霊DAYDREAM』5,「霧」
「口寄せ屋」崔樹深小姫が、現代の日本を舞台に“心霊”の関わる事件の「対策」をしていく『低俗霊DAYDREAM』。
原作、奥瀬サキさん、漫画、目黒三吉さんのマンガは、「サイコ・サスペンスと、怪談風ジャパニーズ・ホラーがハイ・ブリッド」したような物語だ。
2007年5月現在も「月刊 少年エース」(角川書店)で掲載中。

5巻の、1冊丸々の分量で描かれる「霧」は、4巻巻末に収められた同じ章題の物語をプロローグのようにしてる。一連の物語パート、と思って読むと面白いだろう。
「霧」は、1冊分(+4巻巻末)で、区切りのいい物語だけど。次から次へいろんな事が連鎖していく。スピード感は早い。
5巻以降に、さらに続く長いプロットの構成パーツにもなってて。新たな登場人物が現れ、以前の伏線も、よりしかっりと描写しなおされる。手の込んだ語り口だ。
痛々しいようなキャラクターやエピソードも多い。
けれど、そうした描写は、スピード感や幻視シーンの錯綜感の間に差し挟まれてる。
不必要なネタバレは避けながら、5巻の読みどころを紹介しようと思うけど。
4巻までの内容は、必要に応じて触れるので、よろしく。
(用語:低俗霊DAYDREAMから、色々レヴュー記事もたぐれます。よければ、どうぞ)
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5巻では、ミツル(藤原充)の個人的事情が詳しめに読者に伝えられる。
具体的には、深小姫を呼び戻すために箱根に向かう途上、柧武惣一郎が調べた範囲の事を椚アイに語って聞かせる。
惣一郎の話を聞いたアイは、ミツルの傍らに憑きまとっている霊の姿を霊視する。言葉を交わすことはないけど、視線を合わせる。この辺の描写にはブルッとくるものがある。
ミツルのセリフも怖い。
「俺なら大丈夫だ/--彼女は何もしない」
つまり、ミツルは以前から、自分に憑きまとう霊の存在を、少なくとも感じてはいたことになる。
惣一郎の説明を核のようにして、ミツルが深小姫に依存する心の動機にも、憑きまとう霊との関わりがあるようだ、と示す断片描写が断続していく。
「見境なく毒電波 撒き散らしやがって」「大概にしとけよ」(4巻)と、YUOへの敵愾心を燃やした深小姫は、同じ温泉宿に泊まってた元「口寄せ屋」の平塚さんから「東京に帰ったら」「必ず一度/連絡を頂戴」「必ずね/お願い」と、強く頼まれていた。深小姫の苗字「崔樹」を聞いた平塚さんは、どうも深小姫の母親の事を知っているらしい。
5巻中、少し先のエピソードで、深小姫はどうやら仕事を辞めるかどうか、旅行中に決心するつもりだったらしいことが、遠まわしに描かれる。
一方、4巻で登場した峨田警視は、(おそらく)YUO〔ユオ〕のグループの足取りを追って箱根に入っていた。警視のパートナーである霊能者ハル(初登場)との関わりを通じて、峨田警視のキャラクターも少しずつ描かれていく。
4巻でアイに「口寄せ」を強要した事を理由にして、惣一郎は会うなり峨田警視と対立。この対立の場面も読み応えがある。ミツルも渋い役回りを演じる。
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5巻の最大の読みどころは、何と言っても、62頁ほどをかけて描かれる幻視のシーンだ。
「君のしていることと」
「僕らのしていること」
「どちらが/本当の意味で彼らを/すくうことになるのか」
「そろそろその答えを出すときだとは思わないかい?/
崔樹/深小姫。」
上に引いた、幻影のYUOのセリフは、5巻の山場になる長い幻視シーンの内でも、物語の焦点の1つになってる。
「口寄せ」をするハルが発作を起して、近くにいた峨田警視も幻覚と共に“彼ら”の世界に引き込まれていく。
駆けつけた深小姫たちは、峨田とハルとを助けるが、ハルの意識は戻らない。
峨田は、「無駄だ」と言うが、深小姫は「口寄せ」をおこなって、ハルの意識を呼び戻そうとする。
「口寄せ」は、普通は霊能者が、霊を呼び降ろして(呼び降ろしたとして)、霊の言葉(異言)を語って聞かせる憑霊型、あるいは降霊型のパフォーマンスを指すけど。
ハルの意識を呼び戻そうとする「口寄せ」の描写は、異界に霊魂を飛ばす離魂型シャーマンの冒険譚のようだ。
すごく、面白い。
深小姫は幻視の内で、峨田警視や、彼のパートナーである霊能者ハルの過去の記憶(?)にシンクロしていく。
物語内の現実では、峨田警視は、ハルに「口寄せ」をさせて、YUOに関連する情報を収拾させていた。
深小姫は、ハルの記憶を通じて、YUOのグループで動いていたイザナミの記憶も垣間見る。
さらに、3人の学生から暴力と辱めとを受ける学生時代のハルの記憶を追体験する。
YUOの幻影が深小姫の前に姿を顕すのはそんな状況でのことだ。
「見境なく毒電波 撒き散らしやがって」「大概にしとけよ」と発奮していた深小姫に、「そろそろその答えを出すときだとは思わないかい?」と、挑発とも挑戦ともとれるメッセージを告げるYUO。
物語は、嫌でも盛り上がっていく。
深く幻視の世界に引き込まれていく深小姫は「ししゃのもん」と呼ばれる幻想にまで足を踏み入れる。
「あのよと/このよをむすぶ/ししゃのもん」と語られる幻想は、もしかしたら錯乱した深小姫の幻想かもしれない、あるいは性質の悪い霊たちのはったりかもしれない、もしかしたらそうではないのかもしれない。
そうした、あれこれ定かでない胡散臭さの描写までも含めて、「ししゃのもん」の幻想シーンも圧巻だ。
「ししゃのもん」の幻想は、新宿に建つ都庁近くに設けられてる噴水の一種「ナイアガラの滝」のもの。
イザナミの記憶を追体験する深小姫の顔や体には、かつてイザナミが苛めにあってマジック書きされた落書きが浮かぶ。
「ションベン女」「ヤリマン」「BITCH!」
「ししゃのもん」の前に立つ霊(?)は、「ごらんなさい/あなたのからだに/えがかれた/のりとを」「それこそいけにえ/とりこのしるし」と告げる。
ヤケクソのような胡散臭さの描写と、そこに差し挟まれた、痛ましさの描写や、毒の味がたまらない。
引き込まれていく深小姫を踏みとどまらせるのは、アイの機転だった。
何がどうなるのかは、読んでのお楽しみ☆
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5巻の目立つ読みどころを、飛び飛びの要約で、つまんで紹介しました。
察しのいい人なら、大筋は想像がつくかもしれません。
けれど、それはフルコースのお料理を、メニューに載ってる写真で想像するようなものです。
アタシ(紹介者)が書いたのは、所詮、読みどころの要約にすぎません。
物語の内容は、もっと面白いし、もっと痛いし、もっとスピード感があって、もっとスリリング。
興味を持った人が、作品自体を読んでくれたら嬉しい。
紹介者の書いてること本当かな? と、思った人が、作品を手にとってくれても、やっぱり嬉しい(笑)。
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書誌情報:
奥瀬 サキ 原作、目黒 三吉 漫画,『低俗霊DAYDREA』4(角川コミックス・エース),角川書店,Tokyo,2003.
ISBN 4-04-713560-7
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