奥瀬サキ(原作)、目黒三吉(漫画)『低俗霊DAYDREAM』6,下品なお姉ぃさん、走る☆

「口寄せ屋」崔樹深小姫が、現代の日本を舞台に“心霊”の関わる事件の「対策」をしていく『低俗霊DAYDREAM』。
 原作、奥瀬サキさん、漫画、目黒三吉さんのマンガは、「サイコ・サスペンスと、怪談風ジャパニーズ・ホラーがハイ・ブリッド」したような物語だ。
 2007年5月現在も「月刊 少年エース」(角川書店)で掲載中。

Cover image
 6巻には、旅行に向かう途上の深小姫と友人のしず江(御厨しず江)とが、列車の人身事故に行き合わせる掌編「ヒゲ」と、ミツル(藤原充)に憑きまとう霊への「対策」に深小姫が乗り出す「胎霊」が採録されている。
「胎霊」の物語は、7巻に続いていく。

 不必要なネタバレは避けながら、6巻の読みどころや大筋を紹介しようと思うけど。
 5巻までの内容は、必要に応じて触れるので、よろしく。
用語:低俗霊DAYDREAMから、色々レヴュー記事もたぐれます。よければ、どうぞ)

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 巻頭に収められた「ヒゲ」は、34頁の掌編。
 作品は、京成線の駅(市谷駅らしい)の情景、線路のすぐ下に張り付いているような釣堀といった絵を構成したページから始まる。
 釣堀で、並んで釣り竿を垂らしてる女2人は、深小姫としず江(御厨しず江)。

 2人は、珍しく旅行に行こうとしていた。何が珍しいかと言うと、スケジュールを合わせるのが大変らしい。(4巻P.148参照)

「客が延長しまくりで/時間がなかった」ので、ボンデージ衣装の上にコートを羽織っただけの深小姫と、編集者が入院したんで、エロ雑誌(Honey Chop!)の校正作業が押した、というしず江とが、バタバタと乗った列車だが、しばらく走ったあたりで、急停車する。
「--ただいま/線路上に人影を/発見したことから/電車を急停車/しました」と、アナウンスが流される。
 2人が、自殺かどうか、とか、なんとか飛行機の時間に間に合いそうだ、とか雑談をしているとこに、今度は車内停電。
「あの人が/電車を止めている」と言って、列車を降りる深小姫。
 深小姫は、死者からの依頼を受けることになる。

「ヒゲ」は、メインに展開するプロット、つまりYUO〔ユオ〕と深小姫との対立のドラマには、直接は関連していない。
 毒の味は薄いので、楽に読めるエピソードでもある。

 深小姫が、死者からの依頼(?)に応じるエピソードには、3巻に採録された「ヒルガオ」もある。
 どちらの作品についても言えるけど。メインのプロットに織り込まれてるハードなエピソードを補うように、深小姫と死者の関係、ことに深小姫の方の死者への構えが描写されている。
 ハードなエピソードでは描かれないような、深小姫の一面が面白い。

「胎霊」は、6巻では150頁、7巻では96頁。4巻から5巻に渡った「霧」にほぼ匹敵する分量だ。
 プロットは、YUO〔ユオ〕と深小姫との対立のドラマにも、深い部分で絡まっていく。

「胎霊」の6巻採録分は、冒頭から凝った語り口だ。
 深小姫と柧武惣一郎が「対策」に向かうらしいアパートに、神主姿のミツルの父が同行する。
「うわー すご/親父さん本気モード/だよ」と、深小姫。
「口寄せの/邪魔になったり/しませんか?」と、惣一郎。
「ま しょうが/ないでしょ」「実の息子の/ことだもの」

“三日前”と大きめな文字で記されて、「語られる今」が飛ぶ。
 シーンは、深小姫のバイト(SM風俗)が終わった場面。深小姫は、惣一郎と待ち合わせ、惣一郎が調べた過去にミツルが関わった事件の調査ファイルを読む。
 ここで「事件」と呼ぶのは、「霧」の5巻採録分冒頭で、惣一郎があらましの要約を椚アイに語って聞かせた出来事の事。4巻の冒頭で語られた、高校からの停学処分をミツルが受けたきっかけになった出来事でもあるようだ。

 ファイルを読む深小姫は、はじめてミツルと会った時の事を回想する。
 回想は、2巻の「ダムゴースト」で、しず江が説明的なセリフで語った出来事が、現場に立ち会うような視点から描写される。
 物語は、回想を挟んで、“3日前”の時制に戻ると、深小姫と惣一郎が、ミツルの実家、琶成神社を訪れて、ミツルの父と面談する場面につながる。

 こんなふうに、物語内の「語られる今」の時制が前後する凝った語り口で、物語は語り始められるけど。
 密度の濃い描写になってて。そこがいい。
 ミツルのキャラクターが、はじめてわかるような快感がある。わかった分、あらたな謎も提出されるので、ミステリー的な味わいもある。
 何より「霧」で、「無事に東京へ戻ったら」「次はお前の番だからな」とミツルに次げた深小姫(5巻)が、いよいよ深くミツルと関わっていく決意のようなものが読み取れる。

「あなたに/息子が/救えますか?」と問うミツルの父に、「救える」「…つもり/です」と応える深小姫。

「私は20年神職に/仕えてきて長い間/あなたのような人たちを/外法の者として/蔑んできました/
 しかし今は/あなたたたちの存在する/理由がわかります」
「もし/本当に/
 死んだ者の/声が聞ける/なら……」

 アクションも、幻視もSMもない、地味な場面だけど、名シーンの1つに挙げたい。
 少なくとも、物語の内容の重要な焦点の1つではあるだろう。

「胎霊」の物語のメインは、ミツルと、今は霊としてミツルに憑きまとっている女、油島ひじりとが、半同棲の暮らしを送っていた都営住宅の「対策」。
 もんだいの都営住宅の一室では、油島ひじりの変死以前に、短期間に2件の事件が起きていた、と知る深小姫。その内の1件は東京都住宅局専任の「口寄せ屋」による「対策」が失敗した時に起きていた。
(この辺の事情は、まず、琶成神社を訪れる車中での会話で告げられる)

 ミツルの父も立ち会った「対策」は、散々な失敗に終わり、深小姫たちは一時撤退する。
「対策」の過程で、部屋で過去に起こった出来事が幻視されるシーンが、幾つか差し挟まれる。
 失敗に終わる「対策」だけど、細かく差し挟まれる幻視のシーンが、緊迫感と錯綜感を盛り上げて読み応えがある。

 一時撤退した深小姫は、都営住宅の部屋で過去に起きた事件の細部を、再調査していく。
 そんな矢先、深小姫の父、東京都庁生活対策課の崔樹課長が止めに入る。
「深小姫/本件から/手を引くんだ/お前がストーカーの少年に/責任を感じる/必要はない」
 東京都住宅局(つまり深小姫とは別系統)の「対策」で死んだ「口寄せ屋」双葉省吾さんは、「業界では名の知れた口寄せ屋」だった。「年齢からくる体力の衰えと不安から住宅局と契約を」結んだ、と語る崔樹課長は、娘の身を案じているようだ。

「お父さん」
「あなたの/知らない間に/
 私は私だけの/プライドを/持つように/なったの」
「お父さんにも/お父さんだけの/プライドが/あるでしょう?」
「…………」
「もし私に/口寄せ屋の才能が/ないと思ったら/言ってよ」
「その時は/きっぱり辞める/……でも もし」
「口寄せ屋として私が/これから先の人生を/やっていけると/思うなら」
「……/お父さん/
 私を/導いて」
「助けてほしい」
「…住宅局の双葉と/東堂に関して私が/調べたことは全て/柧武くんに伝えてある」
「行きなさい」〔後略〕

 東堂と言うのは、住宅局の職員で、やはり、以前の「対策」の時に、双葉さんと共に変死していた。
 崔樹課長と深小姫が会話するシーンは、アクションも幻視もSMもない、地味な場面だけど、名シーンの1つに挙げたい。
 少なくとも、深小姫のキャラクターを読み解く重要な焦点の1つではあるだろう。

 過去の事件で遺された遺族や、東京都住宅局の局員に、地道に聞き込みして回る深小姫と惣一郎の様子は、まるでハード・ボイルドの探偵のようで渋い。
 おそらく、惣一郎が持つ「東京都環境局生活対策課」の名刺があるから可能な聞き込みなので。主役キャラたちと「事件」との関わりを考えると、ハード・ボイルド探偵のよう、と言うのもあながち的外れな感想でもない。
 もちろん、「都庁のお役人さん」は、探偵ではないけどね。

 聞き込みの途中、ミツルが一人暮らししているマンションに寄った深小姫は、ミツルが姿を消した事を知り、部屋に残されたYUOからの手紙を読む。
 別の記事でも書いたけど、ことさらに「忠告」と記された手紙の、深小姫を挑発しているとも、案じているとも思えるYUOの(文面の)語り口は面白い

 聞き込みの途上、都営住宅には、油島ひじりの霊も「取り込んだ」別の「縁由」がある、と直観した深小姫は、惣一郎を置いて単独行動に出る。この辺から、物語はますます盛り上がる。

 新宿駅近辺のアダルト・ショップに駆け込むと、SMのボンデージ衣装を着たマネキンをレジに投げ出す深小姫。
「マネキン/以外」「全部!!」
 Vバックでジッパーがフロントからバックまで続いてるアンダーに、上はビスチェだかウェスト・ニッパーだかよくわからないもの、ロング・グローブにブーツって衣装で、新宿の通りに出るとタクシーを止める。トーン処理の具合からみて、衣装は、多分、全部PVC素材だ。もしかしたら、アダルト・ショップで着替えてきたのかもしれない(?)。
 かなり目立つファッションなんで、タクシーは一発で止まる。
「…………ッ」「ご出勤/ですかッ!!」、と焦り気味の運転手さん。
「イエス!!!」

 ここ、ネタ的には笑うとこだろうけど。
 凄くカッコイイ☆
 5巻の「霧」でも、口寄せに向かう深小姫は、わざわざSM衣装に着替えてた。「仕事着」だ、って言って。

「捨てる/つもり/
 -だったん/だけどね」

--って言うのが、「その服/は---」と尋ねた惣一郎への返事だった。
「胎霊」の「ご出勤ですか」のシーンは、笑うとこだけど。深小姫の決意や高ぶりが、ビンビン伝わってきて、カッコイイ。

 ちなみに、6巻で「ご出勤」する深小姫は、乳房全開。荒縄で乳首を隠してる。
 荒縄は、実は深小姫の式神、鬼縫なんだけど。運転手さんは、そんなこと知ってるはずないんで。多分、出張SMの奴隷さんの「ご出勤」と思ったんじゃないかな。どう見ても、女王様のスタイルじゃぁない(笑)。

 ボンデージ・ルックの深小姫が都営住宅の前にたたずんでると、身を案じた惣一郎が携帯をかけてくる。
「今度ばかりは/お前がいても」“足手まといに/なるだけ/だからな”と、深小姫。
「いいか/惣一郎/よく聞け」「今/この瞬間も/どこかで必ず」「カワカムリが/私を/見ている」「お前は/そいつを/探すんだ」
「カワカムリ」と深小姫が言ってるのは、YUOのことだ。
 なおも深小姫の身を案じる惣一郎に、深小姫は告げる。
「じゃあな!/惣一郎/カワカムリを/頼んだぞ!」「とっ捕まえて/ズル剥いてやれ!!」
 むちゃくちゃ下品なセリフ(笑)。でも、深小姫がむちゃくちゃ腹をたててるのが、よくわかる。そこがいい。

“あれだけ/複雑な案件に/協力者もなしで/…危険です!!”と、通話する惣一郎。

「協力者なら/いるわ」
“え?”
〔中略〕
「さあ/双葉さん」
「案内して」

「業界では名の知れた口寄せ屋」だった、双葉さんの霊が、深小姫の前に姿を顕す。

「口寄せ屋」の霊を導きにしてリベンジに挑む深小姫。
 双葉さんのアドバイスを容れた深小姫は、やはり部屋で死んでいた都庁住宅局職員の霊を「口寄せ」して、過去の事件の真相を知ろうとする。

 死者の記憶にシンクロした深小姫の幻視で、物語は7巻に続く。
 7巻で描かれる「対策」は、壮絶で、錯綜している。深小姫が知る真相も痛ましい。
 どうする、深小姫? と、はらはらする内容だ。

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『低俗霊DAYDREAM』6巻採録分は、雑誌「月刊 少年エース」(角川書店)の、2003年9月号~11月号と、2004年1月号~6月号とに掲載された分、との事。

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書誌情報:
奥瀬 サキ 原作、目黒 三吉 漫画,『低俗霊DAYDREA』6(角川コミックス・エース),角川書店,Tokyo,2004.
ISBN 4-04-713645-X

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付記:「縁由」
6巻P.151にある深小姫の心中モノローグに見られる「縁由」は、オカルト用語をあまり用いないキャラである、深小姫にしては珍しいセリフだと思える。
P.151の欄外マージンには、注があって“縁由:因縁に対する動機”と、記されてる。
「縁由」は、今の、日常会話ではあまり使われないと思うけど。例えば「物事がそうなった訳やきっかけ。原因・理由・由来など」と言った意味。(他に、法律用語に特殊な用法があるようだけど、この際それは関係ないだろう)
仏教用語をルーツにした「縁由」は、「現世、あるいは今生の因縁の遠因となった前世の原因」といった意味らしい。

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「口寄せ屋」崔樹深小姫が、現代の日本を舞台に“心霊”の関わる事件の「対策」をしていく『低俗霊DAYDREAM』。
 原作、奥瀬サキさん、漫画、目黒三吉さんのマンガは、「サイコ・サスペ


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