祗園始末帖・陽明編006 芝居小屋帰り(ネタ書き)
祗園始末帖・陽明編006
どきどき、ほかほか。
「いよっ、流石の音三郎!」
「うひひ。しっかし、凄かったなあ」
いやもう、凄かったなレベルじゃないですよ。あの剣劇の冴え、朗々とした台詞回し、それに笑い。新劇開祖音二郎の血を受け継ぐ素晴らしい舞台。あー、しやわせ。
「キー坊にはあれくらいが丁度いいか」
「何それ。あ、ハセオってば那珂座とか行ってるわけ? あのエログロの。うわやらしー」
「うっせい。勉強だ勉強」
へー勉強なんだー、て、否定しないのね。はは、背伸びしちゃってもっとやーらしー。
「にやけんなアホ。ほら、挨拶行くぞ」
「挨拶? て、置いてかないでよー」
観客の間をすり抜けるハセオの後を追っていたら、いつの間にか、周囲の風景が変わってる。ちょっと近寄りがたい空気を持ったオジサンたちが、絵の描かれた大きな板や、何振りもまとめられた刀を持ってどたどたと駆け巡っていく。ここはもしや……楽屋裏?
「オーウ、ハセキュンではないですカ!」
「キュン? なんじゃそりゃ」
ひょいとのぞき込んだ先、楽屋の一室に、へこへこと頭を下げるハセオと……むっちゃ、かっこいいお兄さんが居た。
ブロンドの髪は盟国由来だろうか。和洋の混ざり合った顔立ちは、すっきりした目鼻、細い唇が印象的で、とにかく、美形! て感じで。つい、ほわっとしていたら。
「Oh、ハセキョン、あれが例のキーボウサンですカ?」
「うっす。ほらキー坊、音三先生に挨拶しろよ」
「はあその、和葉希望、っていいます、けど」
「ノゾーミ! 良い名前デース、ビューティフル!」
高らかと叫んでキランと歯を光らせる音三先生は……正直、キモかった。顔がよい分、余計に。ていうか、この人、誰……て、まさか、音三って、音三郎!
「YOU、いい顔してるネ。うちの劇団に入ってみないカーイ?」
「あ、や、その、わたし、始末人やってるんで、あんまり暇なくて、うん」
「そうですカ。それは残念デース」
心底残念そうに胸を押さえる音三郎さんのポーズは、歴戦の役者らしく決まってて、つい心違いをって危ない危ない、この妖しい魅力は、たしかに座長モノかも。
なおも名残惜しげな音三郎さんにさっとバイバイしつつふと思う。
「さっき言ってたハセキョンって、ハセオのあだ名?」
それはちょっと……ウケる。音三先生、ちょっと見直したかも、うひ♪
おしまい。
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