笠井 潔、著、『道-ジェルソミーナ』(飛鳥井連作、作品集)
『道-ジェルソミーナ』は、笠井潔さんによる私立探偵の物語の連作、飛鳥井連作の作品集。
飛鳥井連作は、現代の日本を舞台にした私立探偵の物語で。いずれも、謎解きミステリーとして楽しめる。
連作2冊目の作品集『道-ジェルソミーナ』には、長めの短編4編が採録されている。
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高卒後すぐに渡米した飛鳥井は、ロスで私立探偵事務所に勤めていた。
飛鳥井の渡米は「たしか」と主人公が回想する「東海道新幹線が開通した」年の3年後。おそらくは、1967年頃と思える。(『晩年』)
20数年ぶりに帰日することにした飛鳥井は、四谷で営まれていた巽探偵事務所を引き継ぐことができ、以来、私立探偵=民間調査員を個人営業で営んでいた。
作品集巻頭に収められた『硝子の指輪』はシリーズ1作目の作品。
語り手キャラの飛鳥井は、帰日後3年めのある日、TV報道で、少し前に人探しの依頼を受けた人物が、殺害されたことを知った。
この物語の語られた今、物語内の出来事の背景年代は、おそらく1990年かと思える。
『晩年』では、バブルの最盛期も早や過ぎたある年の出来事が語られる。飛鳥井は、口も不自由な寝たきり老人からの依頼を受けることになる。
連作では第3作にあたる『晩年』以降は、物語の語られる今で起きる出来事は、バブル景気崩壊後の出来事になる。
『銀の海馬』で語られるのは、バブル景気が崩壊してから数年後の出来事。
飛鳥井は、以前に失踪者探しを依頼された依頼人から、1年ぶりの連絡を受ける。人探しの対象者が新宿駅のホームレスの間にいたかもしれない、との伝聞情報が伝えられ、1年前に「依頼された仕事の延長」として、飛鳥井は伝聞情報の真偽を確認しようとする。
作品集の巻末には、表題作『道-ジェルソミーナ』が収められている。
飛鳥井は、世田谷で結婚相談所を営む初老の女性から、彼女の相談所に登録していた元会員が自殺した背景事情を調べるよう依頼を受ける。依頼人にしてみれば、できれば世間に伏せておきたい事情があるのだ。
この物語の語られた今は、収録作の内で1番はっきりしていて。物語内に散りばめられた手がかりから1995年の出来事と知れる。
『道-ジェルソミーナ』に収められた作品は、同じキャラクターを語り手にした1人称小説の連作だ。
語り手は、東京で民間調査員=私立探偵の事務所を個人営業で営んでいる。
4編の連作では、1990年代前半の日本が背景にされているようだ。バブル景気最末期から、バブル崩壊後の社会の断片と、そこで起きた架空の事件とが、描かれている。
いずれの作品も、謎解きミステリーとして楽しめる私立探偵の物語だ。
ここで、「私立探偵」と言っているのは、ディレッタント的な名探偵の事ではない。
どちらかと言えば、ハードボイルド探偵の事なんだけど。
著者は、日本でもアメリカでも、イメージの上ではメジャーになった、タフで美学を持ったハードボイルド探偵物語とは別タイプの物語を、現代の日本を舞台にして描き出したかったようだ。
著者は、この連作物語の内外で「私立探偵」と言う言葉にかなりのこだわりを示しているけど。「私立探偵」という言葉へのこだわりは、「タフで美学を持ったハードボイルド探偵」とは、別路線、ってこだわりの顕れだろう。
飛鳥井連作は、地味で渋い私立探偵の物語として読者に提供された。
『道-ジェルソミーナ』の採録作は、いずれも、謎解きミステリーとして楽しめる。しかし、知的超人の華麗な謎解きは無い。
ハードボイルド小説の渋く、乾いた味わいが味わえる。けれど、タフガイの派手なアクションは無い。
薄いキャラクターが、職業的に依頼をこなし、調査で明かされる、苦味すらある関連事情を、乾いた感じで語る。そういう小説だ。
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作者に依れば、飛鳥井連作は「本格探偵小説に私立探偵小説を重ねあわせたような作品」を書けないものだろうか、との探求の結果と言えそうだ。(『魔』所収「スペシャル・エッセイ」参照)
「本格探偵小説を私立探偵小説として書くという二重性は、リアリズム小説の形式で描かれる現代的な犯罪や社会病理に、古典的な探偵小説トリックを埋めこんだ二重性でもある」とも言われている。
もちろん、作者も「企てが成功しているかどうか、作者には判断を下しがたいところ」としている。
作者の目論見がどの程度成功裏に達成されたかどうかは、読者のそれぞれが読んで評価すべきところで。それは言うまでもないけれど。
ここでは、作品集の各作品に共通した読みどころについて、書いておきたいことが2つある。
1つは、連作の主人公で語り手キャラである飛鳥井の設定と題材について。もう1つは、連作集『道-ジェルソミーナ』に採録された諸作の謎解きについてだ。
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作者にとっては「ハードボイルドとは、何よりも『外』の視点による小説である」そうだ。
そして「日本社会の『外』に位置し、そのポジションを確保し続けることの困難性が、日本におけるハードボイルド小説の困難さの底にある」とも書いている。
(「スペシャル・エッセイ」,笠井,『魔』所収)
ここで、簡単に「外」あるいは、「日本社会の『外』」と言われているのは、日本語の批評文芸で<外部>と呼ばれることのあるコンセプトの、ヴァリエーションだろう。
とくに「日本社会の『外』」と言われているのは、「空間的、物理的な外部」でも、制度的な「日本社会の外部」(例えば他国籍者)とかではなく「日本人の共同性の<外部>」と思った方がいい。
そう思った方が、少なくとも、著者が物語外で書いている事と、飛鳥井連作の内容との関連は掴み易い。
ここでは、作者の言う様に「ハードボイルドとは、何よりも『外』の視点による小説である」であるかどうかは問わない。判断保留にしておく。
その代わり、物語内の飛鳥井が、物理的、空間的にも日本国国土の内部にあって、かつ日本人の共同性の<外部>から「日本の社会を見る」ような視座は、物語内でうまく構築されている、と評価しておきたい。
(飛鳥井の国籍については、今のところ物語内での言及は見当たらない。紹介者は、これは意図的に言及が避けられているのではないか? とか、考え始めたところです)
連作の第1作『硝子の指輪』は、1993年に雑誌に発表されて、物語内では、おそらく1990年と推定される日本を背景に一連の出来事が語られた。
連作の第5作め『道-ジェルソミーナ』は、1996年に雑誌に発表された。物語内の語られた今は、作品集採録作の内で一番明瞭で。物語の記述から1995年と詰めることができる。
ここでは、バブル景気がまだ活況を呈していた時期と設定された作品と、崩壊後と設定された作品とで、同じキャラクターの1人称視点から見られた日本の社会の諸相が、リアリズムの形式を破綻させずに、社会相を描写できている事を指摘しておく。(短編という制約はあるので、社会相の断面的な描写ではある)
これは、日本人の共同性の<外部>から「日本の社会を見る」ような視座が、キャラクターのものとして、うまく構築されている証しだろう。
日本人の共同性の<外部>から「日本の社会を見る」ような視座は、キャラクター描写を通してうまく構築されてる、と思える。けれど、それがさらに物語内容の総体でどんな効果を担っているかは、次の段階の評価になる。
(そうした評価をするには、各作品のストーリーを整理した、後で、内容を評価しなくてはいけないけれど)
次に、採録作品の謎解きについて。
連作の作品は、いずれも謎解きミステリーとして楽しめる作品だ。
ただ、その謎解きは、ややマニアックなものであるような気がする、
ここで「マニアック」と呼んでいるのは、例えば「物理的に再現不能と思えるような奇想のトリック」といった類ではない。連作で使われるトリックはいずれも、地味な印象が強い。
紹介者が「マニアック」と呼ぶ謎解きの性質は、1人称小説の形式を護っている飛鳥井連作が、同時に謎解きミステリーである事による。
特に『道-ジェルソミーナ』に採録された長めの短編では、紙数が厳しい。
結果として、語りには、際どいミスリードが多用されることになっている。
少なくとも『道-ジェルソミーナ』に採録された4作では、謎解きの場面以前に、謎解きに用いられる物語内の手がかりが、ずべて読者にも明示されている、といった古典的な形式は満たしていない。
むしろ、ストーリーの中心課題になっている主要な謎の周辺に生まれた複数の矛盾が、多数の手がかりとともに読者に示された時点で、謎解き場面に移行しているように思える。
こうした物語の構成を指して、アタシ(紹介者)は、採録作品の「謎解きは、ややマニアック」と呼んだ。この事は、記しておいた方がいいだろう。
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書誌情報:
笠井 潔,『道 ジェルソミーナ』,集英社,Tokyo,1996.
ISBN 4-08-774227-X
笠井 潔,『道-ジェルソミーナ 私立探偵飛鳥井の事件簿』(集英社文庫),集英社,Tokyo,1999.
ISBN 4-08-747112-8
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笠井潔さんの『道-ジェルソミーナ』は、現代の日本を舞台にした、私立探偵の物語の連作、飛鳥井連作の第5作め。連作2冊目の作品集『道-ジェルソミーナ』の、ラストに採録されて
笠井潔さんの『銀の海馬』は、現代の日本を舞台にした、私立探偵の物語の連作、飛鳥井連作の第4作め。連作2冊目の作品集『道-ジェルソミーナ』に採録されてる、長めの短編だ。
『晩年』は、小説家、太宰治さんが、最初に公刊した作品集の題名として知られてる。この作品集には、複数の中編、短編が収められているけど、内に『晩年』と題された作品は無い。
『硝子の指輪』は、小説家、笠井潔さんによる、飛鳥井連作の第1作にあたる長めの短編。
連作2冊目の作品集『道-ジェルソミーナ』に採録されている。
2作目にあたる長編が、先

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