笠井 潔、著、『魔』(飛鳥井連作、作品集)

』は、笠井潔さんによる私立探偵の物語の連作、飛鳥井連作の作品集。
 飛鳥井連作は、現代の日本を舞台にした私立探偵の物語で。いずれも、謎解きミステリーとして楽しめる。
 連作3冊目の作品集『魔』には、『追跡の魔』、『痩身の魔』の2編が採録されている。

 どちらも、1人称の語りが乾いた感じの私立探偵小説で、地味だけど、味わいは渋い。

 手元の文春文庫版だと『追跡の魔』が、119頁。『痩身の魔』が、132頁。他に、著者による「スペシャル・エッセイ--私立探偵小説と本格探偵小説」が掲載されている(これが、13頁)。

Cover image
(文春社文庫版、書影)

----
 東京、四谷の「国際調査・巽探偵事務所」を引き継ぎ、個人営業で私立探偵を営んでいる飛鳥井も50代に近づいていた。
 二十数年を過ごしたアメリカから帰日してからは、5年以上が経過。

追跡の魔』で飛鳥井は、「世田谷にある有名大学」の心理学科助教授を通じて依頼を請負う。
 助教授、鷺沼晶子は、連作の1作目『硝子の指輪』で飛鳥井に依頼をした岩城紗織の知人。単なる知人でなく、岩城紗織のサイコ・セラピーを担当していた。
 紗織は、『硝子の指輪』で語られた事件の詳細をかなり知っていて、その上で飛鳥井に仕事の依頼を持ち込んできた。
 依頼内容は、彼女のクライアントを脅かしているストーカーのストーキングを止めさせること。飛鳥井は、それは私立探偵に出来ることではない、と言う。
 探偵と依頼人は、ストーカーの正体を突き止め、ストーキングを止めるように圧力はかけてみる、という線で合意する。正体を掴めば、警察に対処を委ねる事も不可能ではない。
 物語内の語られた今は、おそらく、1996年の年末から、翌97年はじめの数日間に渡ったと思える。
 作中、飛鳥井の心中モノローグで、帰日して「もう八年になるかな」。「そろそろ老眼鏡を必要とする年齢」との述懐が見られる。

痩身の魔』は、『追跡の魔』の2年後の年末から物語がはじまる。
 鷺沼晶子が再び、依頼の相談を持ち込んでくる。今回は、行方不明になったクライアントの行方探しだ。
「そろそろ五十になろうとする」との述懐が、飛鳥井の心中モノローグでなされている。

----
 1960年代末に高卒で渡米し、二十数年間アメリカで暮らした飛鳥井は、「日本の社会を日本人の共同性の<外部>から見る」視座を埋め込まれたキャラだ
『痩身の魔』では、飛鳥井が帰日し10年めが迎えられようとする頃の出来事が語られる。

 飛鳥井連作3冊目の作品集『魔』では、世田谷にある有名大学の、心理学科助教授でサイコ・セラピストでもある鷺沼晶子が登場する。
 鷺沼晶子は、私立探偵への依頼に際して「クライアントのプライヴァシーを護る」とのもっともな理由で、依頼人の背景の全てを語らない事が不自然ではない。

 飛鳥井より10歳は若いと設定されている鷺沼晶子は、私立探偵としての飛鳥井にかなりの信頼を寄せているようだ。飛鳥井も専門家としての鷺沼には、かなりの敬意を払っている。
 また2人の間では、私立探偵の仕事とサイコ・セラピストの仕事とは、似ているところがあるかもしれない、といった会話も交わされている。具体的には、日本国の法規では、医者や弁護士のようにか、患者に関して知りえた情報で、犯罪に関わりえる事柄を守秘することが認められていない、点が「似ている」と言われている。

 おそらく、「日本の社会を日本人の共同性の<外部>から見る」視座についても似ていることがある、と暗に示唆されてるように思える。

 飛鳥井連作は、いずれも語り手キャラ飛鳥井の心中モノローグと対話(ダイアローグ)との対比と絡みが面白い小説だ。
 飛鳥井と鷺沼のダイアローグは、安定感があっていい。

 先の事はわからないが、連作を通じて、鷺沼晶子の再登場を期待したいところだ。
 もし、次回作にも鷺沼晶子が登場するなら、10歳の世代ギャップを、もっと活かしたダイアローグも期待したいと思います。

----
 作品集『魔』は、文芸春秋社の「Honkaku mystery masters(本格ミステリ・マスターズ)」の1冊として、2003年に刊行された。当初は中篇三部作を採録する作品集として構想されていたそうだ。しかし、三作めの構想が膨らんで中篇に収まらなくなったらしい。
 そこで、2本の中篇と巻末に「スペシャル・エッセイ」を収めるって構成で刊行された。
(この辺の事情は「スペシャル・エッセイ」に記されている)

====
書誌情報:
笠井 潔,『魔』(Honkaku mystery masters),文芸春秋,Tokyo,2003.
ISBN 4-16-321700-2

笠井 潔,『魔』(文春文庫),文芸春秋,Tokyo,2007.
ISBN 4-16-771718-2

この記事へのトラックバックURL:

http://drupal.cre.jp/trackback/751
Drupal.cre.jp から 金, 2007-06-08 06:56 受信

『痩身の魔』は、小説家、笠井潔さんの、連作探偵小説、飛鳥井連作の7作目。
 3冊目の作品集にあたる、『魔』に収録されている、2本の中篇の1つ。
 飛鳥井連作は、現代日本を舞

Drupal.cre.jp から 金, 2007-06-08 06:55 受信

『追跡の魔』は、小説家、笠井潔さんによる、飛鳥井連作の6作目。
 飛鳥井連作は、現代日本を舞台にした、渋い探偵物語の連作で。3冊目の作品集にあたる、『魔』に収録された2本


この記事をブックマーク

人気コンテンツ