『低俗霊DAYDREAM』(奥瀬サキ、目黒三吉)ネタバレ・チェック:「口寄せ屋」の「対策」
『低俗霊DAYDREAM』は、物語内で「口寄せ屋」と呼ばれる霊能者、崔樹深小姫が、現代日本で“心霊”の関わったトラブルに「対策」をしていく物語だ。
深小姫は、主に、東京都庁の生活対策課からの依頼を受けて「対策」に取り組むことが多い。
(生活対策課以外からの依頼でトラブルに対処することもある)
ここでは、物語の描写を通して「口寄せ屋」の「対策」についてみて見たい。主に、設定面のチェックになるけど、物語内の主人公の社会的立場も、その一端をチェックすることができるだろう。
この記事では、必要に応じたネタバレは避けません。範囲は、単行本の1巻から8巻に渡っています。
アタシ(筆者)の考えでは、ネタバレ云々と言うような内容にはならないと思いますけど。一応、お断りしておきます。ネタバラシ自体を目的にした作文を公開するつもりでもありません。
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「生活対策課」は、物語内の東京都庁で環境局の一部局として設定されてる。
「デイドリーム」(2巻)で、深小姫が、崔樹課長に連絡をとろうとする場面を見てみよう。
「はい こちら東京都環境局/公害苦情・環境問題相談窓口です」
また「犬神」(8巻)には、次のような描写もある。
「それじゃ/間にあわねって/言ってるだろ!!」
「今すぐその/『生活対策課』の/人間に/会わせてくれ!」
「そのために/来たんだよ!!」
「ですから何度も/申し上げて/おりますように」
「対策課の/“忌物苦情相談”は/予約制となって/おりまして」
「本日ご予約の/お手続きをされ/ましたら 来週以降の/ご都合のよろしい/日時に---」
「だから/それでは/遅いんだよ!!」
「忌物苦情相談」の、オカルトっぽい苦情の相談を専門に対策する部署が、「生活対策課」の物語内の設定と読むのが、素直な読み方だろう。
「生活対策課」は、物語内で「オバケ退治専門の課」みたいに言われることがある。
例えば「くまのポー」(1巻)での描写。
「このマンションもな/建ててもう20年近く/なるけど/こんなむごい事件は/初めてでなあ」
「少々お祓いした/ぐらいじゃ借り手も/つかないだろうし それで/役所の知り合いに/相談したんだ」
「しかし まあ/まさか都庁に/オバケ退治専門の/課があったとは/なあ」
「……正確には/『生活対策課』です」
「私は/見てないんで/半信半疑/なんですけど」
「この二人の他にも/何人か見たと/言ってて もっぱら/この辺で噂になってまして」
「この前なんて/気をとられた/ドライバーが/事故っちゃって」「真偽はともかく/なんとかせにゃ/ならんので」
「相談させて/もらったんですわ」、
「……正確には/『生活対策課』です」
「しかし都庁の/お役人も大変ですね/こんな馬鹿げた/話まで調べに/くるなんて」
「私は都に雇われてる/個人の外部/コンサルタントです」
「幽霊タクシー」からの引用部分では、深小姫のセリフで、都庁の生活対策課と深小姫との関係「都に雇われてる個人の外部コンサルタント」が明瞭に語られている。
「橋の上の幽霊」からの引用部分では、「半信半疑」の「相談」も「生活対策課」が受けつけることもある様子が、依頼人のセリフに織り込まれてる。
『低俗霊DAYDREAM』の物語では、崔樹深小姫が、生活対策課課員の柧武惣一郎と「対策」する案件の背景調査をおこなう描写が多めだ。
霊能力を持つと設定されてる崔樹深小姫が、霊感や直観一本やりでなく、地道な調査もおこなうところは、物語の面白みになってる。
「くまのポー」から引用したセリフは、「対策」の案件になるマンションの部屋について、マンションの管理人と生活対策課の惣一郎との会話からの部分。
「少々お祓いしたぐらいじゃ借り手もつかないだろうし、それで役所の知り合いに相談した」ってセリフは、生活対策課に寄せられる相談の、いかにもありそうな事情と思える。
数は多くもない関連描写を見ると、不動産業者などは「生活対策課」や「口寄せ屋」について、聞いた事はあって、それ以外だと「まさか都庁オバケ退治専門の課があったとはなあ」的に知られてない感じで、知名度の差が微妙に描き出されてる。
やはり「くまのポー」では、「対策」に関連した調査で、深小姫と惣一郎とが尋ねたヤクザの組の組長が、次のようなセリフを語る。
「対策課って/ことはさ/アレ?」
「そちの/マブイ/お姉ちゃんは/口寄せ屋?」
「『口寄せ屋』を/ご存知で?」
「ん ああ/倒産整理の/不動産処理で/ちょっとね/
役所で紹介/されたんだが ありゃダメだ/安上がりだが使いモンに/ならんかった」
この後、組長は、深小姫が組長に個人的に名刺を渡したら、深小姫たちが調査で追っていた組員の所在を教えると言う。正確には、組員を「引き渡す」とまで言う。
「クマのポー」の終盤展開では、組長の判断に不満を抱く組員が深小姫たちとイザコザを起す。この展開は面白い。つまり、歳のいった組長は「口寄せ屋」としての深小姫に利用価値があると思う(深小姫は、組長に「御用の際はいつでも連絡を下さい」と名刺を渡す)けれど、若い組員には理解されないとこが面白い。ただ、そっちの線をチェックするのは、別の機会にしたい。
ここでは、マンションの管理人のように、特定の不動産物件にのみ関わっている立場の人にとっては、「生活対策課」や「口寄せ屋」の存在は意外でも、多数の物件を扱う立場の人の間には知ってる人もいる、あたりの描写が物語内でなされている、と確認しておきたい。
深小姫が、物語内でやってる「対策」は、少々のお祓いよりも実効性があるだろうと思えるんだけど。一般世間ではあまり評価はされない。知る人ぞ知る業務って言うと、少し大げさかなくらいの微妙さだ。
この微妙な位置づけは、深小姫の活躍が大っぴらにされても、おそらく理解も評価も得られないだろうって事で、微妙な如何わしさをまといつかせてて、そこがいい。
つまり、深小姫はほとんどの場合“悪い事”をしてるわけではないんだけど、やってる事の評価は今の日本の主流の価値体系では評価し難い事をやってるわけで。
例えば、深小姫に都から払い込まれてる(キャラの言及はある)経費の内訳なんかは、おそらく、かなり曖昧化して処理されてるだろう、なんて想像を呼ぶ。そんなふうに思わせる社会的位置づけの描写が、全編を通じてなされてる、って話だ。
『低俗霊DAYDERAM』で、「口寄せ屋」(深小姫に限らない)の断続的な発注先に不動産業の関係者や、お役所関係が多いところも面白い。
現代の日本を舞台に、霊能者を主人公格に扱う物語では、例えば、霊能者キャラが日常的には占い師などの営業をしているとか、オカルト研究家を表看板にしてて、ジャーナリストとの繋がりで事件の依頼を受ける事もあるとか、設定面での工夫はいろいろあるけど。
「不動産関係者と直接、間接の繋がりが多い霊能者」って設定は面白い。
設定自体は地味だけど。設定に基づいてかもし出される妙なリアルっぽさや、都市の住環境を背景に描かれる因縁話など、設定の活用の仕方(描写)が面白いのだ。
9巻までが刊行されてる現時点では、例えば「胎霊」の物語内でなされる次のようなやりとりとか、面白い。(6巻)
「胎霊」の「対策」対象になる都営住宅の一室で、過去に変死した東京都都の職員についての調査で、惣一郎が住宅局の役人と会談する場面でのやりとりだ。
「口寄せ屋は/連れて来てない/だろうな?」
「はい/地下の駐車場で/お待ち頂いて/おります」
「--ふん」
「奴らはいつだって/人の裏側を/無遠慮に突く」
「痛くない腹まで/探られては/困るからな」
物語内で描写されている「口寄せ屋」の「対策」を見ると、都の役人が「奴らはいつだって人の裏側を無遠慮に突く」と陰口を言う事は、とてもリアルだと思う。
と、言うのは死者の言葉を聞く事ができる「口寄せ屋」は、死者の言葉聞く事がとてもマレな一般人が、すでに終わった事にしたいような事情を、しばしば、あれこれとほじくり帰して「対策」をおこなうので、それで陰口を言われるのだろう、と思えるからだ。
少なくとも深小姫の「対策」スタイルはそうだ。
深小姫とは立場もスタイルも違うけど、警視庁の峨田警視と行動を共にする霊能者ハルも、しばしば、あれこれとほじくり帰していく。
峨田-ハルのコンビでは、あれこれとほじくり返すのは、むしろ峨田警視の方だけど。ともかくペアのやり方は「無遠慮」とも思える。
あるいは、深小姫の「対策」スタイルと舟越さんの対策スタイルとを比べると、舟越さんの方は、死者の言葉を聞くほどには、生者の言葉を聞かないような印象がある。舟越さんの「対策」は、今のところ「橋の上の幽霊」と「犬神」とでしか見れないので、さしあたりは「印象」としておくけれど。
「胎霊」で、過去の「対策」が回想などで断片的に描写される「口寄せ屋」双葉省吾さんの「対策」スタイルはどんなふうだったか、気になるところではある。
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書誌情報:
奥瀬 サキ 原作、目黒 三吉 漫画,『低俗霊DAYDREA』1~8(角川コミックス・エース),角川書店,Tokyo,2001-2006.
1巻=ISBN 4-04-713398-1
2巻=ISBN 4-04-713445-7
3巻=ISBN 4-04-713493-7
4巻=ISBN 4-04-713512-7
4巻=ISBN 4-04-713512-7
5巻=ISBN 4-04-713560-7
6巻=ISBN 4-04-713645-X
7巻=ISBN 4-04-713730-8
8巻=ISBN 4-04-713779-0

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