宇宙の戦闘:『アンタレス突破』マイクル・マッコーラム 相手の強さが弱点になる、これぞ王道
『アンタレスの夜明け』と『アンタレス突破』はここ20年ほどいくつもでているミリタリー系スペースオペラのひとつである。
宇宙の広大さをよく表現しているタイムラグや長時間の加速などの描写もあり、『オナー・ハリントン』などよりはリアル系で、ハードな『航空宇宙軍史』ほどではない、という位置づけか。
この作品の戦略・戦術の根幹をなしているのがフォールドポイントである。
星系から星系への移動はフォールドポイントからのフォールド航法でのみ行える
そしてフォールドポイントの数と位置は各星系ごとに固定なのだ。
フォールドポイントというのは交通の結節点であり、ここを押さえることができればその星系を支配したも同然ということになる。
そしてフォールドポイントが固定であるという事は、宇宙戦闘において防衛側が圧倒的に有利であることを意味している。とにかく敵がどこにでてくるかが分かっているのだ。防衛戦力のありったけをそこに配置しておけば、のこのこやってくる敵の頭を押さえてたこ殴りにできる。
『アンタレスの夜明け』はそのフォールドポイントの攻防戦がクライマックスとなっている。
さて、シリーズ2巻の『アンタレス突破』では、フォールドポイントそのものでの戦闘、つまり戦術的な側面ではなくてフォールドラインを含む戦略面が描かれている。
まずはフォールドポイントで結ばれた宇宙のマップを紹介しよう。
フォールドスペース位相図
折りたたまれた空間が恒星の重力で通常空間とつながるフォールドポイントは、恒星が大きくて重いほど数が多い。
そして人類の敵であるライアルは、その領域の根幹におとめ座スピカを抱いているのだ。スピカは8個のフォールドポイントを持ち、ここを中心にライアル宇宙は小さくまとまっている。
一方の人類側は、最大のフォールドポイント6個を持っていたアンタレスが超新星爆発によって消し飛び、『アンタレス突破』でシールドが発明されるまでは通過不能と考えられていた。そのため、広く分散している形になっている。
汎用的な戦略において内線戦略、という言葉がある。
これは手持ちの戦力をまとめて運用し、分散している敵に対してまとめた戦力をぶつけることで数の優位を保つというものだ。
3の戦力を3つに分散してそれぞれが1の戦力しかない敵に対し、2の戦力で各個に撃破するというものだ。『銀河英雄伝説』では1巻でラインハルトが使っている戦い方である。
かつてナポレオンが1814年のフランス戦役でこの内線戦略を利用してフランス国内に侵攻してきた敵を各個撃破してまわったことがある。(結局負けたが)
ライアルの戦略はまさにこの内線戦略であり、その根幹となっているのがスピカの存在である。人類が外線を利用してどこを攻めようとしても、スピカを経由して素早く移動したライアルの増援艦隊がやってきて、打ち砕かれてしまうのだ。
また、経済的にもライアルはスピカを中心に短いフォールドラインで資源や生産物を運搬し、効率を上げている。
フォールド航法以外に星系間を移動する手段がない以上、ライアルのこの内線戦略を打ち砕く手だてはない――かのように見える。
だが、ひとつだけ、逆転の手だてがあるのだ。
アンタレスを通過できるのは、この時点で人類側だけ。つまり、アンタレスから、ライアル宇宙のユーリスタへ侵攻したとしても、ライアル側はまったくの無防備なのである。
が、それだけでは足りない。
ユーリスタを、そしてカラティル(農業惑星)までを制圧したとしても、やはりスピカを中心に戦力を運用できるライアルは素早く対応してしまうだろう。
そう、スピカがライアルの手にある限りは――
人類がスピカの占領に成功すれば、そこでこの戦争の勝敗は決する。もちろん、ライアルはすべての戦力を結集してスピカを奪取しようとするだろうが、今度はばらばらになって連携がとれないのはライアル側である。
また、フォールドポイントを巡る戦いは原則として防衛側が有利である。人類宙域に広く散らばった各フォールドポイントを守る宇宙要塞をかき集めてスピカのフォールドポイントに結集させれば、奇襲で奪ったスピカを守り抜くこともできよう。
強い側の、その強さの根幹にこそ、逆転のきっかけがある。
これぞ、バトル物の王道ともいうべき展開だ。
※2011.10.24 スピカを「はくちょう座」から「おとめ座」に修正
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