『フェイト/ゼロ 1 第四次聖杯戦争秘話』虚淵玄
過去話の外伝というのは今ひとつ興がのらないものである。
ましてや何が起こっているかわかっている、結末がどうなるかもわかっている物語であれば、「先の読めないドキドキ」感がない気がするのだ。
だからフェイト本編の10年前に行われた第四次聖杯戦争を題材にした作品。本編を読めばどうなるか丸わかりな作品であれば、そうなってしかるべきなのだが――
どういうわけか、1巻を読んだ時点で、私はたいへんドキドキわくわくしている。
面白い。楽しい。
考えてみれば当たり前の話で、展開が史実通りになるからといって歴史小説がつまらないわけではない。結末がどう転ぶとしても、その過程に意味がないわけがないのだ。
『青髭』ことジル・ド・レが狂的な殺人者で、彼がセイバーをして『聖処女』=ジャンヌ・ダルクと見なした点は実に愉快であるし。(本編発売前は、私もセイバーの正体候補としてジャンヌ・ダルクを考えていたし、そういう人は多かろう)
『征服王』アレクサンドロス大王の実に豪快なキャラと全マスター中最弱&最ヘタレなウェイバーの組み合わせは、どちらかというと停滞しがちなドラマを実に見事に攪拌してくれるし。
そしてフェイト本編における後々まで残る違和感――桜を“ああなる”とわかっていないはずがないのに間桐の家に養子に出した凛の父親は果たして凛の回想にあるように人間としても立派な人であったのかどうか――も、間桐の青年の視点から解き明かされそうである。
ただ唯一の無念としては、前回に続きランサーがケルト系英霊であった点である。
中華な英霊が出ると期待してたのだが……具体的には三国志の関羽とか。
この外伝に登場したキャラの中で、私が今のところ一番気に入っているのが最弱のウェイバー君である。
とにかく、どの一人をとってしても覚悟が決まっているか頭のねじが外れまくっているかその両方であるのに対し、彼だけはこちらの世界とあちらの世界の狭間に生きている。
彼が主人公であれば、あるいは――
だが、残念なことに彼は主人公ではなく、士郎のような器も持ち合わせてはいない。単に臆病な小人であり、聖杯戦争にもっともふさわしくない。
だが、だからこそ。
独り恐怖に震えていた少年の小さな肩を、そのとき、優しく力強く包み込むものがあった。
その硬く大きく温かい感触に、他ならぬウェイバーが面食らった。この巨漢のサーヴァントの手――いかつく節くれ立った五指は、矮躯のマスターにとって畏怖の対象でしかなかったというのに。
「おう魔術師よ。察するに、貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターとなる腹だったらしいな」
いずこに潜むとも知れぬランサーのマスターへ向けてライダーは呼びかけると、じつに底意地の悪い憫笑で顔を歪めた。
「だとしたら片腹痛いのぅ。余のマスターたるべき男は、余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。姿を晒す度胸さえない臆病者なぞ、役者不足も甚だしいぞ」
『フェイト/ゼロ 1』p331
もしもウェイバーが生き残るのだとしたら、彼だけはこの戦いによって未来への希望を担うことができるのではないかと。
絶対的な敗北の決まっている征服王と。必ず負けることになるライダーと。共に戦うことで、その背中を見ることで。切嗣の生き様から士郎が何かを得たように、ウェイバーもまた何かを得るのではないかと。
なんとなくそういう事も思ってみたりするのである。
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