萩尾望都


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『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』(まとめ)

 『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』はジュブナイル風の中編SFです。
 地上から高度1万キロメートル。秒速5キロメートルで地球周回軌道にあるトウキョウ・ステーションという宇宙ステーション。
 ここで生活している10人の中学生が、授業中に突然事故に巻き込まれます。
 ブロックごとステーションから切り離され、宇宙を漂流する中学生たち。
 果たして彼らは、無事に救出されるのでしょうか?

 なお、タイトルは萩尾望都先生の『11人いる!』と、新海誠監督作品の『秒速5センチメートル』から拝借させていただき、少々もじってみました。もちろん、本編の内容とタイトルは密接な関係があります。

『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』7/7 十一人目の転校生

■7 十一人目の転校生
 それからの一ヶ月はてんてこまいの大騒ぎだった。
 事故の規模の大きさからすると、死者ゼロというのは驚きの結果だったらしい。それゆえに、事故調査委員会の追求は徹底していた。
 僕たちもまた、学業に差し障ると教育委員会が抗議をしたほど(そのへんは地上でのことなのでよくわからない)長時間の調査を受けた。この一ヶ月、学校で授業を一度も受けていないのだから推して知るべし。
 その調査の過程で、事故の全容を僕はようやく知ることができた。ようやくの授業再開で登校した事故から一ヶ月後の朝。僕はまだよく分かっていない委員長へ説明をしていた。

『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』6/7 秒速5キロメートル

■6 秒速5キロメートル
 委員長の出したアイディアはきわめて初歩的なもので、十人全員がすぐに納得した。しかし、原理は簡単であっても実現が容易とは限らない。
 僕と茂樹とリンリンの三人で技術的な問題をチェックしはじめたが、すぐに行き詰まった。中学生が知るレベルの知識ではどこか間違っていても、間違っていることすら分からないだろう。僕の作ったヨーヨーが、計算の間違いではなく計算式の段階で間違っていたように。

『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』5/7 たったひとつの冴えたやり方

■5 たったひとつの冴えたやり方
 僕は委員長に引きずられて(重力は十分の一なので、簡単に引きずられる)女の子たちが作った間仕切りの中に監禁されると、正座をさせられ(重力は十分の一なので、苦にはならない)説教された。説教の内容は重力が十分の一でも二倍でも変わらない。
「航太、私は別に航太が他の女の子と仲良くしたらダメって言ってるわけではないの」
「うん」
「でも、今はみんなで力を合わせないといけない時なの。航太がそんなんだと、みんなが迷惑するの。分かるわね?」

『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』4/7 冷たくない方程式

■4 冷たくない方程式
 告白未遂騒ぎが二件続いたおかげか、僕たちの間にあった、それまでの険悪な雰囲気は消えた。さらにうれしいことに、この頃になって、わずかばかりとはいえ、重力も戻ってきた。
「それまでの壁が床になるなんて、なんだか不思議ですわね」
「これも回転による遠心力だな」
「それでこの部屋は円筒形をしていて、しかも天井まで高かったのか」
「計算してみたけど、少しずつ加速しはじめて、今は三分に一回転で安定している」

『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』3/7 十一人いる!

■3 十一人いる!
 宇宙空間を漂流している。
 そう言われて、ピンと来る中学生は、おそらく千人にひとりくらいだろう。
 けれど、僕たちは全員がその千人にひとりだった。何しろ宇宙に上がる一年も前から、宇宙についての勉強をさせられ、地上で生活するには役に立たないことを訓練でたたき込まれている。
 そのほとんどが、宇宙で生活するのにすら役に立たないものであることは、僕たちみんな、トウキョウ・ステーションについて一週間で理解した。

『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』2/7 高度一万キロメートルの漂流

■2 高度一万キロメートルの漂流
 さて、質問だ。
 十人の中学生が閉じこめられた部屋で緊急で異常な事態が発生し、にも関わらず、全員が五体満足で怪我ひとつしていない。果たしてどうなるか?
 答え、大騒ぎ。
「浮いてる! 浮いてるぞ!」
「なんだ、何があった。宇宙人の攻撃か?」
「さっき一瞬だけ、避難警報のサイレン鳴ってたよね」
「無重力って感覚的には、空を飛んでるんじゃなくて。落ちてるんだよな」
「せめて泳いでるって言ってよ」

『秒速5キロメートル、あるいは十一人いる』1/7 トウキョウ・ステーションの春

■1 トウキョウ・ステーションの春
 四月二日。僕たちが暮らすトウキョウ・ステーションにも春が来た。
 トウキョウ・ステーションといっても、東京駅のことではない。ここは地上から高度一万キロメートルの衛星軌道上に浮かぶ宇宙ステーション。地球からローターベータ式スカイフックで放り上げられる荷物、月からマスドライバーで届けられる荷物。それらを中継するために作られた駅だ。ステーション内は一年中、暑くも寒くもない。雨や雪が降るわけでもなく、台風や梅雨がくるわけでもない。

『吉本隆明 全マンガ論』豊かな出会いのメディア論

 批評家思想家である吉本隆明さんの、「全マンガ論」が、小学館クリエイティブから刊行されてる。
 副題は、「表現としてのマンガ・アニメ」。
 と言っても「サブカルチャー論」や「ジャンル論」の論集ではない。「ハイカルチャーサブカルチャーの区別が成り立たなくなっているメディア動向」の兆候として、主にマンガやアニメが取り扱われている。

 中身を読むと、むしろ、言語とイメージ(画像)が相互に関わった表現が諸ジャンルを横断しながら高度化してる、その関わりの在り様を考察する「メディア論」だ。副題でも、その辺が示唆されていると思える。


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